(* ̄д ̄) 「もしかしてここは天国かい? 目の前に天使がいるなんて」

(*´∀`*) ♡♡ 「もう~アクロマチックすぎてはずかしいっ!」


というわけで、緑のロッコールの続きです!!


(え? 苦情ですか? 苦情はもう承っておりません)


と、本題に入る前に、なぜMC ROKKOR-PF 58mm F1.4なのか?という部分を先に説明しておきます。

はっきり言って、わたくし、緑のロッコールなどというものにまったく興味はありません。だって、その名前を調べるほどにアクロマチックコーティングのやっかいさが目に入るからです。いわく、「絶対に拭いてはいけない脆弱な2層膜コーティング」 こんなの、バクチで安い中古品を買っても当たりを引くのが難しいに決まってる、という面倒くささにより、当Blogで試したいレンズの候補に挙がることはありませんでした。(ちゃんと高いの買いなさい、という突っ込みはナシで)

でも、なんとなく買えちゃったのです。アクロマチックコーティングがきれいな個体を。ならば、同じスペックのRE.Auto-Topcor 58mm F1.4と比較して、Topcorの名声の理由をさらに時代性も加味して見極めようぞ!と、はじめたのが今回の記事となります。

つまり、1960年代の58mm F1.4どうしで描写を比べ、当時のレンズ開発の空気を想像しながら互いを評価することが今回のテーマとなりますが、その前段階として、Planar 50mm F1.4 AEJを持ち出しているのはなぜでしょうか? その理由がMC ROKKORの不思議な写りです。色味は正確なのに軟調で、なんとも言い難い雰囲気があるこのレンズの描写をきっちりと掴むために、コントラスト/発色/逆光耐性のいずれも申し分がないPlanarと最初に比較しておく必要があったのです。



*****

最初の画像がMC ROKKOR-PF 58mm F1.4、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


絞りF2.8
普通のレンズは二段絞ればしゃきっとするものですが、MC ROKKORはまだ軟調です。目につくのは色の良さ。
13626


Planarはほぼニュートラルで発色も良く、オールドレンズの基準として評価するのに適しています。
13627


絞りF2.8
13662


13663


端のボケが丸いのに気が付いたでしょうか? これ、古いレンズではけっこう珍しいです。
13646


Planarは焦点距離が違うので、ボケについては参考程度です。
13647


絞りF8
MC ROKKORの遠景解像は特に悪い部分が見えませんが、これだけ絞ってもやはり軟調です。太陽は真横なので、逆光の影響というわけでもありません。
13632


13633


逆光時のフレアはとても素直です。ということは、内部の側壁に目立つ反射要因がないのでしょう。
13634


Planarは豪華なマルチコーティングの優位です。本質的には逆光性能は完璧でなく、クラシカルなフレアを出すときもあるのですが。
13635


絞りF2
ふつう、球面収差の過剰補正型は一段絞ればキリっとするはずですが、このレンズはおだやかな雰囲気です。
13636


13637


絞りF5.6
絞ったときの解像力は十分。
13638


13639


とにかく複雑な色彩感があり、光線状態によっては微妙に青っぽかったりして、なんとも言い難い雰囲気があります。
13640


13641


強い過剰補正型なので本質的には二線ボケしますが、やや中望遠よりの大きいボケなので、さほど気になりません。
13642


Planarのほうがボケが硬く見えるのは、画角差によるボケ量とコントラストの違いが原因。
13643


絞りF2
中途半端なF2という絞り値を選んだのは、球面収差の変化によって絞り開放の軟調さがどれほど変わるかを確かめたかったため。
13644


13645


設計が良いのか全体的に均質なボケで、四隅の口径食が目立ちません。
13622


13623


逆光では強い過剰補正型の特徴が出て、ハロによるにじみが出ます。
13624


Planarは完全補正型なので比較的、きりっとしています。
13625


13628


13629


通常の軟調さに加え、逆光ではやわらかなフレアに包まれます。
13648


Planarも軟調化はしていますが、それでもMC ROKKORに比べればハイコントラストです。
13649


絞りF8
13652


13653


絞り開放の解像線はそんなにシャープではありません。
13650


13651


絞りF5.6
歪曲は良好。かなり曲がっているように見えますが、Planarとの差はわりとはっきり感じます。
13658


画角が違うので、距離調整をしてできるだけマス目の大きさをそろえてみました。が、もうすこしきっちりできたかもと、やや後悔。
13659


絞りF8
絞るときっちり写るのですが、やはり軟調でとても珍しいレンズです。
13656


13657


たとえるなら、Black Mist Filterの弱をかけたような淡い描写。
13660


13661


MC ROKKOR-PF 58mm F1.4は、とっても詩的ではかなげなレンズとでも言うべきか、とにかく、にごりのない色調がもたらす淡い軟調描写は、夢うつつの表現を好むカメラ女子にとてもよく合っていると思いました。

‟軟調”というキーワードはオールドレンズの世界では珍しくありませんが、MC ROKKORの特徴は戦後初期などとは違って、ある程度、設計技術も反射防止性能も充実してきた1960年代中頃に、画質が悪くないのに絞っても軟調という独特の個性を見せていることです。

このMC ROKKORの性能の良さは撮影してみると分かりますが、背景は二線ボケしますがグルグル感はなく、ピント(マイクロコントラスト)のキレはありませんが画面全体で均質な解像力を持ち、絞れば画質は十分、歪曲も少なめです。

唯一の弱点は、球面収差の大きな過剰補正による滲んだ解像線ですが、これは優秀な周辺画質に支えられ、ピント合わせが困難になるほどではありません。また、この過剰補正量が二線ボケの原因となっているのですが、そのボケ質は焦点距離58mmというやや中望遠寄りの特性とおだやかなコントラストが相まって、ざわざわとうるさくなるほどでもなくゆったりとした印象です。特に、画面端の丸ボケに余裕があり、きれいな形を保っているのはこの時代の大口径レンズとしては特筆ものでしょう。

さらに驚くべきなのが、このレンズがF1.4で定番となる7枚玉でなく6枚玉ということで、ミノルタの設計が特に優れていたのか、この頃の58mmレンズはこれぐらいの性能を普通に出せたのかは不明です。しかし、当然ながら、通常よりも1枚少ないレンズ構成によるしわ寄せは、球面収差の過剰補正量が+0.40mmと大きいうえに解像力重視型とは言えないほどのふくらみがあることに表れており(-0.11mm)、この割り切りによってMC ROKKORの全体バランスが保たれているのは確かです。


そして、撮影者の視点から最大の謎となるのはこの色彩感です。基本的には微妙な黄色味を基調としながらも、ときに儚げな青味が入り混じったようなその写りは、単純なカラーバランスの偏りとは一味違ったおもむきを漂わせています。今風の言葉で表現するなら、エアリーとでも言うべきその独特な軟調描写はなんなのか? (※エアリー: コントラストが低く、やわらかな青味に包まれた清華な色調を指す言葉)

それはおそらく、このレンズが緑のロッコールと総称される理由である、アクロマチックコーティングが作用しているからだと思われます。


アクロマチックコーティングとはなにか? それは他社に先駆けてミノルタが実用化した2層膜コーティングを意味します。このアクロマチックコーティングは大雑把にいえばマルチコーティングのはしりであり、単層膜であるシングルコーティングの限界を打破しようとしたものです。

写真レンズの理想としては、ガラスの反射を可視域の全波長でゼロに近づけることが望ましいのですが、シングルコーティングでは弓なりの形でしかその反射率を低減できず、色調のコントロールも大雑把です。(※コーティング材の真空蒸着時に膜厚を変えることによって弓なりのピークを左右にずらす=反射率の低い帯域が変わる=コーティングの色が変わる)

これに対し、2種類のコーティング材を蒸着させることで、W型の広い範囲で反射率を減少させることに成功したのがアクロマチックコーティングであり、その特殊な反射低減の形はこれまでにない色調のコントロールをも可能にしました。

「シングルコーティングとアクロマチックコーティングの違い」
13665

参考文献: 「レンズデザインガイド」 高野 栄一 著 写真工業出版社

この図で示したとおり、青方向とオレンジ方向の二か所の反射率が大きく下がり、その中間である緑の帯域に対しては、シングルコーティングと同等の反射率となるのがアクロマチックコーティングの特徴です。反射防止コーティングはこのような反射率の変化によってガラス表面が何色に見えるのかが決まるので、可視域のなかで緑の帯域が突出しているアクロマチックコーティングは反射光が緑に見える、つまり、これが「緑のロッコール」たる呼び名のゆえんです。

そして、このように特異な分光反射率を持つ2層膜コーティングを従来のシングルコーティングと使い分けることで、レンズ全体の正確なカラーバランスを実現したのがMC ROKKOR-PF 58mm F1.4であり、それは今回のPlanarとの比較でも証明されています。


しかし、ここで重大な注意点があります。反射防止コーティングの分光反射率曲線は、硝材の屈折率や光線の入射角度によって変化するので、あくまでこれは一例に過ぎません。


詳しい解説は次にまわしますが、反射防止コーティングの特性があらゆる条件によって変化するというなら、W型となるアクロマチックコーティングは環境光の違いによって、より複雑な色再現を示すかもしれません。もしかしたら、これがMC ROKKORを使ったときの微妙な違和感かもしれず、その感覚は従来のシングルコーティングだけを用いたレンズでは感じたことのない繊細さがあります。とある海外の掲示板では、コーティング設計は非常に特殊な芸術であり、黒魔術に近いと述べている意見があり(これはおそらく、現代のより高度な領域の話でしょうが)、たしかに知れば知るほど写真界に伝わっている反射防止コーティングの話はきわめて単純化されているように思います。


さらに、1966年という時代にそぐわないMC ROKKORの絞っても軟調という性質もアクロマチックコーティングが原因となっている可能性が高く、実際に、緑のレンズ面には白っぽい反射の多さを感じます。性能の良い反射防止コーティングはガラスを黒に近づけることから、その逆となるMC ROKKORは清掃できない脆弱なアクロマチックコーティングの経年による変質によって、内面反射を増やしてしまっているのかもしれません。

この仮説を裏付けるには、現役時代にMC ROKKORの前玉を写しているカタログや雑誌、実際に使っていた人の意見を調査すればいいのですが、さすがにそこまでの手間をかける熱意はなく(うちはコンタックスBlogです!)、以下の資料を参照しながらこの話題を終わりたいと思います。

写真レンズに対するAchromatic Coatingについて
(昭和32年12月14日受理)
西野 久

13666

これによると、アクロマチックコーティングのフレア量はシングルコーティングよりも少ないとの実験結果が出ていますし、当時のニューフェース診断室でも内面反射の多さは特に指摘されていないとのことなので(*1)、仮にMC ROKKKOR本来の写りが完璧ではなかったにしろ、現代の我々が目にしているこの軟調描写はメーカーの意図したものから多少なりとも離れていると思っていた方がいいのかもしれません。

(*1 これほど目につくコーティングの反射が1960年代半ばのレンズにあったのなら、必ず診断室のドクターが指摘しているはず。また、この情報をくださった(た)先生、ずうずうしい問い合わせに応えていただき、まことにありがとうございました)

しかし、そうはいっても鏡筒内部に致命的な反射要因を抱えるわけでもないこのレンズは、逆光で突然、破綻するわけでもなくやんわりと軟調化しているだけで、これを現代の目線で評価するなら、とても品のいいフレア感と言い表すことができるでしょう。



MC ROKKOR-PF 58mm F1.4とPlanar 50mm F1.4 AEJの違い】

色調  MC ROKKORはPlanarよりも微妙に黄色味?(なんとも言い難いカラーバランス)
明るさ  Planar>MC ROKKOR
コントラスト Planar>MC ROKKOR

解像力  Planar>MC ROKKOR
歪曲補正  MC ROKKOR>Planar
周辺光量  MC ROKKOR>Planar

逆光性能  Planar>MC ROKKOR
絞り羽根  MC ROKKORは6枚 Planarは6枚でギザギザ


長々とアクロマチックコーティングについて書いてきたので、MC ROKKORの特性を忘れちゃったよ!という方は、もう一度、この解説の前半分に戻ってみてください。

簡単なまとめとしては、写りにクセがなく、清らかで淡い描写のMC ROKKOR-PF 58mm F1.4は、とにかく詩的ではかなげな表現を求めている方にはオススメだよっ!