オールドレンズでOrestonとよく似たレンズはなんじゃろな…… ( ̄ω ̄ ) ?

と、考えた場合に、まずキーワードとなるのは最短撮影距離の33cm
そんで設計は1960年代で、入手しやすい50mm F1.8とくれば頭に浮かぶのは………


Pancolar!  (・人・)パン  (#゚Д゚) コラ-!! 


よし。こいつと比べれば、ますますOrestonの理解が深まるぞ……と、なぜにOrestonに拘っているのかは、このレンズの近接時の草花描写が気に入っているからです。

が。

ビビリのあほコンタックスまにあは前期型のアトムレンズをさけ、さらりと後期型を入手していたのでした。しかし、詳しく調べてみると、Pancolarの後期型は5群6枚の改良型で4群6枚のOrestonとはレンズ構成がそろいません。本当は同じ4群6枚構成である前期型のほうがよかったのでは……と思いきや、実はOrestonも前期/後期で画質が変わっていたようで、結果的には、双方とも似たような時期に改良された後期型として、つじつまが合いそうな比較となりました。

M42 MOUNT SPIRAL

MULTI COATING PENTACON auto 50/1.8(M42) & Meyer-Optik Goerlitz ORESTON 50/1.8(M42)
https://spiral-m42.blogspot.com/2010/04/mc-pentacon-5018-meyer-optik-goerlitz.html

Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F1.8(M42)rev.2
https://spiral-m42.blogspot.com/2014/03/carl-zeiss-jena-pancolar-50mm-f18m42rev2.html

Pancolar 50mm F1.8(前期型) : 4群6枚 トリウム含有硝材を使用
Pancolar 50mm F1.8(後期型) : 5群6枚 空気レンズを導入して再設計

Oreston 50mm F1.8(前期型) : 4群6枚
Oreston 50mm F1.8(後期型) : 4群6枚 微調整的な再設計(※当Blog調べ)

どちらも東独で大量生産されたスタンダードレンズで、同じF値で最短撮影距離もほぼ同じ。方やCarl Zeiss Jena、方やMeyer-Optik。これらの差は大きいのか、少ないのか。

今回は、近接時のボケ描写を重視しながら両者の違いを探ってみたいと思います。


最初の画像がPancolar 50mm F1.8(後期型)、後の画像がOreston 50mm F1.8(後期型)ですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダートもどき


最初に分かりやすいクローズアップ描写です。Pancolarは丸ボケの輪郭線が微妙にやわらかいようです。
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とはいえ、Orestonの前期/後期の違いほどではなく、かなり似ています。
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これぐらいやわらかな光になると、両者の違いはほぼ分かりません。拡大時のピントはややPancolarのほうがくっきりしていて、マイクロコントラストの良さを感じます。
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わずかな違いですが、四隅の丸ボケにはOrestonほどのきつさがありません。
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実効焦点距離はPancolarのほうが長いのですが、それを考慮しても背景のボケ量に差があり過ぎで、これはおそらく下から見上げる形で斜めにピントが入ったことによる非点収差、像面湾曲の違いだと思われます。
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やはり、Orestonは画面周辺部のボケが硬めです。クリック後の大きな画像をご覧ください。
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Pancolarのグルグル感はOrestonほどではないようです。
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絞りF8
遠景解像はPancolarのほうが良好。
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Orestonは非点収差の影響で、周辺画質がいまひとつ。
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絞りF8
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ピントはPancolarのほうがくっきりしています。
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こういった画質低下はたいてい筒内側壁による内面反射です。
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絞りF4
PancolarはOrestonよりも微妙に黄色味が抜けています。
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非点収差、グルグルの違いがよく分かる画像です。
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絞りF8
画角はPancolarのほうが狭いのですが、歪曲が少ない分だけ余計に画像周辺部が狭くなります。(※歪曲収差は空間を伸び縮みさせる)
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Pancolarの歪曲は一眼レフ用の大口径50mmとしては良好です。
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Orestonの歪曲はかなり悪く、その程度はPlanar 50mm F1.4以上です。
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絞りF4
今回の個体は以前試した個体よりもやや逆光に弱く、微妙に軟調化が起こっています。
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絞りF8
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丸ボケはOrestonよりも画面周辺部で余裕がありつつも、外向きのとがりが出ています。
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以前、所有していたAus Jenaの個体ではこのような派手なゴーストはでませんでした。謎。
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まず、自分の興味があるのが草花の近接描写なので、その領域について解説します。

Pancolar 50mm F1.8とOreston 50mm F1.8の絵はとてもよく似ていて、絵柄が単純化されたクローズアップ撮影などではその違いを見分けるのは難しいでしょう。ただし、子細に画質を見渡すとPancolarのほうが画質が整っているのは確かで(※クリック後の拡大画像を切り替え比較するとよく分かります)、Pancolarにはボケ描写の微妙なやわらかみ、グルグル感の少なさ、細部のピントの良さがあります。クローズアップ領域ではよりクセがあるほうがおもしろいとするならば、微差ではありますがOrestonのほうが好まれるのではと思います。

一方、中遠景のスナップ撮影になると、Pancolarは歪曲の少なさで明確な使いやすさがあり、絞り込んだ四隅の解像力でもOrestonを上回ります。当然ながら近接時でも感じたピントの良さは通常撮影でも変わらず、Pancolarはフレアっぽい昔の過剰補正型からやや解像線のコントラストが改善されているようです。

これら、ひとつひとつの収差補正を比べてみると、PancolarはOrestonよりも画質の各項目がことごとく上回っていて、空気レンズを導入した5群6枚の設計の良さ、ひいてはCarl Zeiss Jenaのスタンダードレンズとして格の違いを感じさせます。これは鏡胴全体の作り込みにも表れており、この時点で簡易的な絞り込みボタンしかないOrestonに対し、PancolarはA/M切り替えレバーを備えています。

空気レンズ: ガラスの貼り合わせ面をわずかに離して設計の自由度を高める手法で、その狭い空間を一枚のレンズに見立てることができるので特別に空気レンズと呼ばれた。反射面が増えるので、コーティングのない時代には避けられていた手法だが、設計の概念としては昔から存在していた。

今回の比較で分かったのは、両者はカメラに付属して販売される標準レンズとして同じカテゴリに属しながら、Pancolarはやや上位の品として、Orestonはそれよりも下位の普及品として位置づけられたものであるということです。これはMeyerの技術力がその程度だったというよりは、共産主義によって国から決定づけられた役割の違いなのでしょう。当時の東ドイツに自由競争などというものがあるわけもなく、かつての巨大企業であり名声を誇っていたZeiss jenaが光学機器の進歩発展を命ぜられ、より性能の高いレンズを開発していったのはごく自然なことといえます。

Wikipedia
ドイツ民主共和国の経済

ドイツ民主共和国(ドイツみんしゅきょうわこく、独: Deutsche Demokratische Republik; DDR)、通称東ドイツ(ひがしドイツ、独: Ostdeutschland)の経済は、資本主義国の市場経済や混合経済とは違って、ソ連と同様、計画経済であった。国家が生産目標と価格を規定し、資源を分配、生産設備はほとんど国営であった。1970年代までは、ソ連経済圏と共産主義世界の中で最も安定した国の一つであった。

Pancolarの描写を専門的にまとめます。球面収差は二線ボケを誘発する過剰補正型から目立った改善はないようですが、ピントの合った部位のマイクロコントラストは良く、わずかながら画面周辺のボケにやわらかみもあります。非点収差はチャートでも確認しましたが、Orestonよりも非点隔差が抑えられておりグルグル感は減少、歪曲はあきらかに優れています。色調はニュートラルではありませんが、微妙に黄色味が緩和、色収差はこの時代の標準レンズの常としてとても優秀で目立ちません。周辺光量は全体に平坦な印象ですが、四隅ではOreston以上に落ち込みます。総じて、Pancolar 50mm F1.8は前時代的な50mmの設計の苦しさから脱却しかけているといえますが、その性能は各社が威信をかけた高級レンズには届かず、メーカーが一眼レフカメラの入り口として普及させたい標準レンズとして、コストと性能のバランスに優れた製品となっています。

このあと、1970年代後半から1980年代に入ってAI Nikkor 50mm F1.8Sなど、レンズ枚数は同じながらより性能の高い次世代のレンズが製造されていきますが、Pancolar 50mm F1.8はそれらに並び立つほどのものではなく、クラシックテイストの万能レンズと呼ぶことができるでしょう。


唯一、解せなかったのは逆光耐性がOrestonよりも劣ることで、この派手なゴーストはわりと簡単に再現することができます。以前、当Blogで比較をおこなった際にはPancolarのほうが逆光に強かったのですが、その個体はAus Jena(西側向けの輸出仕様)だったので構造的な差異があるのかもしれません。今回使ったPancolarとOrestonの内部をじっくり見比べてみると、Pancolarのほうが絞りユニットのパーツに反射が多く、この個体がたまたま不十分なつや消し処理だったのか、あるいは途中からより入念な処理に変わったのかは不明です。Pancolarの逆光耐性についてはもうすこし調査が必要であり、結論は保留しておきます。



【Pancolar 50mm F1.8(後期型)とOreston 50mm F1.8(後期型)の違い】

色調  相対的にPancolarはOrestonよりも微妙に青い
明るさ  ほぼ同等
コントラスト ほぼ同等

解像力  Pancolar>Oreston
ボケ  Pancolar>Oreston
歪曲補正  Pancolar>Oreston
周辺光量  Pancolar≒Oreston

逆光性能  Oreston>Pancolar(※要追跡調査)
画角の広さ  Oreston>Pancolar
絞り羽根  Pancolarはぎざぎざ Orestonは直線的な六角
最短撮影距離  Pancolarは35cm Orestonは33cm



最後にやわらか感想ですが、クローズアップ領域では画質の癖が独特の芸術性を醸し出すことがあるので、その意味で魅力的なのはOreston、でもそこまで違う画質か?と問われると苦しいです。まあ、接写が好きな人は最短撮影距離が2cm短いOreston、中遠景のスナップにも使いたい人は歪曲の少なさも含めてトータル画質に優れるPancolarという感じです。2cmでどれほど違うのかというと、たっぷりふたまわりは写る範囲が違っていました。

ただ、同じOrestonでもさらに画質が荒れるのが前期型ということで、そのあたりの低画質に興味がある方は以下の記事をご覧ください。また、Pancolarもトリウム含有硝材を使った前期型やMC Pancolarなどもある……って、あばばばひでぶっ!!

Planar 50mm F1.4再考 #29 Orestonがあれば空も飛べるかも