さぁ~て、Tessar 45mm F2.8の画質チェックいきましょう!と、先へ進みたいところなんですが、今回の比較にはひとつだけ前置きがあります。


じつはこのレンズ、クモリがあるんです。しょぼーん。(´・ω・`)


これ、最初にレンズが届いたときにぱっと見、とてもきれいだったんで強いライトを当てずに部屋の明かりだけで内部の確認をすませてしまったんですね。それで、やった~当たりレンズだぁ~って、いい気になって比較撮影を進めていたら、なんか逆光描写がおかしい。で、あらためて懐中電灯をつかって調べてみたら、あ~~くもっとる……ってわけです。

ただこのクモリ、ほんとうに初期の初期、完全逆光以外はまったく影響がないと言える程度だったので、まあいっか、と逆光場面は評価を保留にする形で比較を進めてみたいと思います。


いつもの注意ですが、開放F値が違うレンズの比較なので、絞り込んでF2.8に合わせているPlanarにはRAW現像で周辺減光を足して画面全体の階調感をそろえています。さらに画角も違うので、本来は比較が難しい組み合わせとなるのですが、3群4枚のテッサータイプと6群7枚のガウスタイプはあきらかに個性の違うレンズなので、描写の違いは十分に把握することができました。


最初の画像がTessar 45mm F2.8 AEJ、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。

注記なければ絞りF2.8 絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル
※Planar 50mmの絞りF2.8はRAW現像で周辺減光を足し、そこからさらに絞り込んだ場合は補正なし。


Tessarは絞り開放なのに、二段絞ったPlanarよりも微妙にハイコントラストです。
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絞りF8
太陽は画面外ですが、有害光を防げていないのでシャドーが浮いています。
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Tessarはどちらかというと青寄りですが、日差しのある場面では黄色の発色もよく、全体に高彩度といった印象です。
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クモリでゴーストは発生しないので、これはTessar固有の描写と思われます。レンズ全体が薄型かつ抜けが良すぎると、このようなゴーストを誘発しやすいのでしょうか?
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絞りF5.6
絞り込んだのでどちらもハイコントラストですが、この絵ではTessarはPlanarに比べて中間階調がやわらかく、シャドーとハイライトの抜けが良いといった印象です。
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絞りF5.6
一般的な標準レンズよりもやや広いこの画角は、スナップ撮影に有利です。
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絞りF5.6
歪曲は優秀で建物撮影に向きます。0%に近いというほどではありませんが。
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ボケはきれいです。微妙に落ち着きがなく見えますが、Tessarが非球面も使っていない4枚玉ということを忘れてはなりません。
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絞りF8
遠景解像はデジタル時代の等倍表示では物足りないと言ったところ。明確に画質が低いわけではありませんが細部のキレがいまひとつで、この絵では中央下の草、線路の砂利、ビルのタイルなど、高周波のディテール描写がPlanarに劣ります。
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Planarは十分な画質で、これは6群7枚のレンズを絞り込めば普通です。
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Tessarの色収差はこの時代としては普通、特に悪くありません。
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Planarのほうが色収差が少なく見えますが、これは二段絞った状態ということに注意。
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絞りF8
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Tessarは周辺光量が優れているのですが、比較対象が画角もF値も違うPlanarのためにその差は示せていません。
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マクロヘリコイド使用で最短撮影距離を超えています。細部のキレは特にありませんが、全体のメリハリ感は強いという通常撮影時の特徴がそのまま表れています。
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周辺光量に余裕があるので、周辺のボケもゆったりしています。
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光がやわらかければ、AEタイプのぎざぎざは絵に出ません。
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クモリのあるレンズですが、ごくわずかなので手でハレ切りすればまったく問題ありません。
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絞りF8
見た目ハイコントラストなので、絞れば細部までカリカリになるだろうと思いますが、そうはなりません。
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マクロヘリコイド使用。やはり全体の階調感としてはくっきりしています。
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絞りF5.6
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このレモンボケの少なさがTessarの特徴です。
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PlanarはF2.8で絞り羽根の形が出ているので参考扱い。
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太陽は白い空の中。クモリの影響で画面全体がかなり軟調化しています。
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正常なPlanarは画質低下がありながらも、なんとか踏ん張っています。
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左の枝にややざわつきが出ていますが、本来はもうすこし絞ってもいい場面。(かなり寄っているので味気ないパンフォーカスにはなりません)
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Planarのボケが良いのは二段絞りの余裕です。
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それほど多くの場面で撮影したわけではないですが、やはり、Tessar 45mm F2.8がハイコントラストだという評判は本当のようです。

とはいっても、シャドーがストンと落ち、ハイライトは飛び気味になるというような極端なイメージは間違いで、客観的にはかなりコントラストを上げて比較を分かりやすくした当Blogの基本仕上げで、二段絞ったPlanar 50mm F1.4よりわずかにメリハリ感が強い、といった程度の話です。このPlanarのF2.8と同等以上というのがポイントで、Tessarが絞り開放からそれだけのコントラストを実現できているのは、やはり3群4枚の反射面の少なさにT*コーティングが合わさったレンズ全体の抜けの良さが効いているということです。

近年のデジタルカメラはとてもやわらかく写るので、Tessarのコントラストの良さはそれほど実感できませんが、その階調にくっきり感があるのは最短撮影距離を超えた接写でも確認できたので間違いありません。


ただし、ここでZEISSのデータシートを見てください。MTFチャートのミリ10本、ミリ20本の線は開放から高いのですが、細部の鮮明さを表すミリ40本の線は低く、絞ってもあまり良くなりません。これが古典的なテッサータイプの限界と見られ、それはそのまま実写にも表れています。

ZEISS
Fotografie - Historische Produkte
Tessar T* 2,8/45

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このTessar 45mmの等倍描写はそれほどでもない……といっても、さすがに昔のレンズのような乱れはなく均質性も十分ですが、6群7枚のガウスタイプよりも性能で劣る個性の強いレンズである、というのは押さえておきたい部分です。かつて、アサヒカメラのニューフェース診断室で実写担当である田沼武能氏がTessarの開放画質をべた褒めしていましたが、その言葉の裏には「こんなにコンパクトで軽快なのに」という前置きが隠れていたのではないかと思います。

当時の文章をふりかえってみると、‟山”と‟夜景”という特徴的な単語が入っており、山=機材重量、夜景=コマフレアが連想されることから、小さいレンズなのに意外にも点像の精度が良かったという驚きがこの言葉にこめられていたのでしょう。

アサヒカメラのニューフェース診断室 コンタックスの軌跡
テッサーT*45㍉F2.8
「いやあ、開放ではめちゃ、ピントのよいレンズだ。開放でこれだけピントきたら文句ないね。このレンズで山の夜景など撮ったら、かなり伸ばせるんじゃないですか」



そして、ニューフェース診断室といえば、Tessarの絞り込みによるピント移動の大きさをはっきりと問題視したことでも有名です。実際にミラーレスのピント拡大で観察してみましたが、例えば、Planar 50mm F1.4なら開放でピントを合わせて絞り込んでも狙い所の後ろ側にピントが引っかかっているくらいの感覚ですが、Tessar 45mm F2.8の場合はあきらかに違う場所にピントが移動していました。

これら、悪くはないがほどほどの画質、一眼レフ撮影では妥協が必要なピント移動、操作性を犠牲にするほどのコンパクトネスを合わせて考えると、Tessar 45mm F2.8の狙いが浮かび上がってきます。


このTessar 45mm F2.8は、絞り込んで大雑把なスナップ撮影で使うレンズであり、必要があればピントも絞りも思いどおりに操作できるが、それはあくまで補助的な選択肢に過ぎない、ということです。(普段はF8以上でゾーンフォーカス的に、遠くの景色なら∞にピントを当てて、さらに必要があれば開放でボケを生かした撮影もできる)


この解釈はレンズの見た目をそのまま言葉にしただけと思われそうですが、もともと3群4枚のテッサータイプでは収差補正に限界があり、画質のどこかに思いきった割り切りが必要です。それを了解したうえで、伝統的なテッサータイプを1980年代の技術でよみがえらせ、薄型スナップレンズとしてPlanarと被らない個性を与えられたのがTessar 45mm F2.8ではないかと思います。

もし、Tessarが歴史的な意義よりも性能を狙ったのなら、3群4枚の形式を崩した拡張型でもよかったわけですし、もっと特殊な硝材も使えたはずです。しかし、あえてそうしなかったのは、この時期のCarl ZeissがCONTAXで表現していたある種のおおらかさなのでしょう。(その味ともいえる要素は見事に日本人の感性を惹きつけながら、時に困惑もさせたのですが)

つまり、このTessar 45mm F2.8に秘められているのはロマンです。あまり画質だなんだと小難しいことを言う前に、たっぷりとそのロマンに思いを馳せるのが正しいTessarの味わい方なのかもしれません。

※同じテッサータイプとして1990年代に新しく設計されたのが、ELMAR-M 50mm F2.8です。この最新型のElmarは高屈折の異常部分分散ガラスを使って性能を上げており、さすがにそこまでコストをかけたレンズはTessar 45mm F2.8の泣きどころである球面収差の大きさが改善され(つまり、ピント移動は問題にならない)、全体としてはとてもそつのない画質を達成していました。

また、これ以前のエルマーは絞りの位置が前方にあるテッサータイプの改良型だったのに対し、新しいエルマーの絞りはテッサーと同じ位置に先祖返りしているところがとても興味深いです。


最後にまとめます。

CONTAXのTessar 45mm F2.8は標準系テッサーの歴史の中では優れた性能を発揮していますが、より贅沢な設計であるPlanarほどではありません。絞り込みによるピント移動の大きさは、実絞りで正確なピント合わせのできるミラーレスでは問題にならず、直線の再現に優れたその描写は街中のスナップ向きですが、細かいタイルをキレキレに描写するような解像力はありません。総じて、このレンズの特徴はコントラストと発色の良さが合わさったメリハリ感がポエミーでなく堅実に描写されること、たっぷりとした周辺光量とそれによるボケのきれいさにあります。この豊富な周辺光量はテッサータイプの優れた利点らしく、絞り開放でもさほど四隅が暗くならない平坦な画質が得られていました。背景ボケはF1.4クラスの華麗な描写ではありませんが、クラシカルな乱れはかなり抑えられています。

今回の個体には微細なクモリが隠れていたので逆光性能はよくわかりませんが、ゴースト(虚像)の発生にクモリは関係ないので、全長の短いレンズ構成でさらに小口径だと構造的に不利な部分があるのかもしれません。

最短撮影距離は全体を薄型に設計している都合上、60cmとやや遠く、あまりクローズアップ向きではありません(※焦点距離45mmに対する60cmなのでPlanar 50mm F1.7よりも寄れない)。しかし、やや広角寄りとなる45mmという焦点距離は、標準レンズの使い勝手がありながらも風景撮影に向いた広さが得られるので、写真的な意味では十分にPlanar 50mmと使い分けることはできるでしょう。


【Tessar 45mm F2.8 AEJとPlanar 50mm F1.4 AEJの違い】

色調  相対的にTessarはやや青い(色抜けが良い)、Planarはほぼニュートラル
コントラスト Tessar>Planar
解像力  Planar>Tessar
歪曲補正  Tessar>Planar
逆光性能  Planar>Tessar??


話が長くなりましたが、これは少ないレンズ枚数で収差補正がままならないテッサータイプならではの奥深さがあるからで、こういった設計の不自由なレンズには設計者やメーカーの意図が色濃く表れます。だからこそ、戦前の時代までさかのぼるようなベテランの愛好家たちは、より単純で古典的なレンズ構成におもむきを感じるのかもしれません。

さて、みなさんが大事にしたいのは、Tessar 45mm F2.8のロマンですか? 性能ですか? それとも実用的な軽快さですか?