最近、かなりじっくりと比較撮影をしているので、記事の公開が遅くて申し訳ございませんのあほコンタックスまにあでございます。
これだけ時間をかけながらも、本当のメインはこの後のContarex Planar 50mm F2との比較になるわけですが、そうはいっても、このシリーズの基準であるCONTAX Planar 50mm F1.4 AEJと比較しておけば、SUMMICRON-R 50mm F2がどれほど現代的な描写に近いのか?(遠いのか?)ということが判明するので、まるで意味がないわけではありません。
ここでちょいと脇道。SUMMICRONといえばライカの超有名レンズで、さらにその中でも一眼レフ用のSUMMICRON-R 50mm F2は比較的買いやすい中古の値付けです。したがって、WEBではたくさんの記事が見られるのですが、そのなかで一番衝撃的なのはこれ。
プロカメラマンが選ぶ、「使える機材のセレクトショップ」BlogPanproduct.【ズミクロン-R50mmの悲劇!】マジ、シャレにならない大事件発生ーーーーー!!!!!
ようするにSUMMICRON-Rを雑に扱っていたら、バッグの上にちゃんと置いたつもりがコロコロと転がってコンクリに落っこちてしまった。そしたら、なんと、後玉がもげてしまったと。 ヒイィィィ!! (゚ロ゚ノ)ノ
ズ……ズミクロンの後玉ってねじ込み式じゃないんだ……という変な感心はさておき、実はこの事件、似たようなことは誰でも起こりえます。というのもSUMMICRON-R、見た目は小さいくせに真鍮を使いまくっているのか、やたら重くて手のなかでズシっとくるのです。
そして、ただ重いだけでなく、先細なのでピントリングの幅が狭く、きちんと手のひらで包み込める面積が少ないことに加え、ピントリングそのものも金属の平らな溝があるだけで指がかりが悪いのです。そんな鏡胴を雑に扱うとどうなるか? 特にフードを着けていない時が要注意。
するっと手のひらから滑り落ちます。 ヒイィィィ!! (゚ロ゚ノ)ノ
実際に、悲劇が発生してしまったパンプロダクトさんの記事を知っていてなお、レンズ交換中に「あ、怖っ」というような感覚が何度もあったので、とにかく、SUMMICRON-R 50mm F2を扱うときはていねいに慌てずに、ということを肝に銘じなければなりません。
……といっても、ライカレンズを雑に扱うなんて、仕事で使う人くらいでしょうけども……。
さて、本題。今回の比較の注意点としては、レンズの開放F値が違うのでボケはあまり参考にならないこと、Planar 50mm F1.4をF2に絞っているので、あとから周辺減光を足していることです。このあたりはもう当サイトではお馴染みですが、初めての方は十分に注意して比較をご覧ください。
最初の画像がSUMMICRON-R 50mm F2(前期型)、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。
注記なければ絞りF2 絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
※Planarの絞りF2はRAW現像で周辺減光を足し、そこからさらに絞り込んだ場合は補正なし
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル
絞りF4
このくらいの絞りでは周辺減光が解消しないので全体の階調はそろいません。空色には大きな違いなし。
絞りF5.6
かなり強い光ですが、古いレンズでありがちな内面反射による軟調化は起こっていません。厳密にはSUMMICRON-Rには微妙な彩度の低さがあるようで、全体としては少し青いはずのPlanarに黄色味の発色で劣っていることがこの画像から読み取れます。
SUMMICRON-Rは球面収差の過剰補正なので、本質的にボケの輪郭が強めとなります。
開放F1.4のレンズをF2に絞ると周辺光量に余裕ができ、開放F2のレンズよりもボケ量が大きくなります。(特に画面端のボケに顕著)
設計の苦しいオールドレンズなら確実に周辺部のボケが乱れている絵柄ですが、さすがに高級レンズとしてしっかり写っています。
太陽の反射光があまり入らない日陰になると、SUMMICRON-Rは微妙に青みがかる感触があります。
ここで見るべきは有刺鉄線のボケで、開放F2ながら色収差補正はそれほど優秀なわけではありません。
非点収差はよく補正されていて、ボケのグルグルやざわざわは抑えられています。
SUMMICRON-R 50mm F2(絞りF2)
参考までに絞り開放同士の比較。
Planar 50mm F1.4(絞りF1.4)
PlanarはF2に絞っているので、絞り羽根の形がでています。
絞りF8
開放からコントラストの高いレンズで、一段絞ったPlanarにまったく見劣りしません。
絞りF8
SUMMICRON-Rの特徴はアサヒカメラによって計測された解像力の高さですが、ローパスありの2400万画素程度ではベイヤーセンサーの限界が先に来てしまってよくわかりません。
絞りF5.6
レンズ内部に反射要因がないので、画面に直射光さえ入らなければきっちり写ります。
周辺光量の差により、中央ではさほど変わらないボケ量が画面端で明確な違いを見せています。1000pxの大きな画像をご覧ください。
絞りF4
一般論として、二線ボケは絞ればおさまります。
絞りF8
歪曲は一眼レフ用の50mmとしては良好で、Planarよりも若干、フレーミングが楽です。
絞りF8
歪曲の差とともに画角の差が目立ちます。Planarはライカ標準の51.6mm付近ですが、当のSUMMICRONはM型もR型も、実効焦点距離が52mm付近になっている不思議。歪曲は-1.5前後の樽型。
シングルコーティングのレンズとして逆光性能は優れていますが、マルチコーティングにはかないません。太陽の直射光に耐えられず、全体的なコントラスト低下と、最下部にゴースト。
PlanarのAEJは鏡胴内面反射に問題を抱えていて、現代的な視点ではシャドー浮きが起こってオールドレンズ風味です。これが改善されるのが、のちのMMJ。
完全逆光でも太陽さえ外せればゴーストは出ず、このようにわずかなシャドー浮きだけで済みます。
絞りF5.6
順光でも様々な色が入ると、微妙に色の違いを感じます。
絞りF8
ここまで単純な絵柄だと、Planarの周辺光量調整だけでは絵がそろいません。
赤色に違いがあり、この比較ではSUMMICRON-Rがマゼンタ系、Planarが朱色系です。が、こういうのは状況(被写体の色+環境光)によって変わるので、いつも同じとは限りません。
絞りF4
SUMMICRON-Rの赤色チェック。この画像では微妙に渋いかな~程度。
絞りF4
各所の赤を比べてみると、色味によって一律ではありませんが、やはりPlanarとの差が出ているようです。
絞りF4
SUMMICRON-R 50mm F2、はっきり言うと「よくわからん」というのが素直な感想です。おい、ちょっと待て、これだけ比較しておいてそれは何事か?という突っ込みを受けるかもしれませんが、要するに、性能が高すぎて語るべきことがないのです。
その性能の高さとはなにかというと、解像力とコントラストが優れていて、ボケは良好、逆光に強く、歪曲も良好。像面湾曲は若干劣りますが、これは現代的なPlanarと比較するから見えてくるものであって、通常は特になにかを感じるほどでもありません。振り返ると、WEB界隈でSUMMICRON-R 50mmの感想がどうも曖昧模糊としているのも当然で、F1.4のような写りの派手さもなく、コストとのせめぎあいで生まれた低画質=味もなく、ライカの一眼レフ用標準レンズとして質実剛健そのものであるSUMMICRON-Rは、まさに1960年代当時の最高峰のひとつであることは間違いないでしょう。
アサヒカメラの数値評価で“数あるRレンズのなかで傑作中の傑作”と評され、またフィルム時代のマニアの語り草となっている日沖氏が(*1)一眼レフ用50mmで唯一、このレンズを褒めていたという事実は、この比較を終えた今となってはなるほどと納得するしかありません。
(*1 クラカメブームの始まる前の90年代初頭に新旧のありとあらゆるレンズを横並びに評価した人で、設計が難しく発展途上にあった一眼レフ用50mmに対する評価がやたら厳しかった)
では、その画質の詳細とは?
SUMMICRONといえば解像力が高くビシッと写るイメージがありますが、このレンズもその通りで、アサヒカメラで計測された数値性能は中心解像でミリあたり200本超え、絞り込めば250本となります。これがどの程度凄いのかというと、たとえば、ごく一般的な標準レンズはミリあたり100~160本、絞り込んで200本超えという数値に過ぎません(※Planar 50mm F1.4の一番良い個体で中心解像160本)。物知りな方は初期のM型SUMMICRONが達成した“絞り開放の中心解像ミリ280本超えで計測不能”というとんでもない記録を思い出すかもしれませが、このSUMMICRON-RもまさにM型と同じ思想で開発されたようで、国産のレンズとは一味違う解像力を誇っています。
昔の標準レンズで解像力が高いというと、球面収差の過剰補正を連想しますが、まさしくこのレンズもそのとおりです。ただし、過剰補正型に付き物のハロ(光のにじみ)はそれほど多くなく、絞り開放でピント拡大するともやもやというほどではありません(※Planarの絞りF2と比較すれば、もやっとした感じはある)。このあたり、過剰補正量を大きくして無理やり高解像に仕立てたレンズというわけではなく、全体的なバランスを保ったSUMMICRON-Rの設計、硝材の良さがあらわれているのでしょう。
SUMMICRON-Rを特徴づけるもうひとつの事柄は、絞り開放からのハイコントラストです。F2レンズのきりっと写るイメージそのままにあらゆる場面でコントラストが高く、強い光による軟調化が起こりません。もちろん、直射日光がレンズに入るとシャドーは浮きますし、1960年代半ばのシングルコーティングなのでさすがにマルチコーティングにはかないませんが、クラシカルなレンズが見せる敏感な階調変化(=ガラスの表面反射の多さ)とは別物の、真っ当な反射防止性能といえます。
Planarと比較すると、微妙な彩度の低さや青味を感じるときもありますが、太陽光がさしこんでいる場面では十分に遜色なく、時に派手なフレアやゴーストの原因となる鏡胴内部にも反射要因は見当たりません。
以上の特徴により、フィルム時代には若干の渋みとともにディテールの彫りが深く精緻な印象があったのがSUMMICRON-R 50mm F2で、このレンズをスナップ撮影で使ってみると、そのとおりに独特の力強さを感じます。
発色についての補足ですが、全体としてはコントラストが高いこともあり、かなり標準的な写りに近く、黄色味が出ている時でも現像ソフトの50K(1クリック)程度です。厳密には日陰で発色の鈍りがでたり、赤色には渋さがあるようですが、その個性は他のオールドレンズの振れ幅――真っ黄色、真っ青、低コントラストで地味など――に比べると、ごくわずかなものです。
おそらく、環境光が鈍いながらも被写体に強い色があるような場面で味が出てくるのかもしれませんが、SUMMICRON-Rの本質としては、発展途上時代のレンズながらコーティングと硝材の良さによって分光透過率をできるかぎり理想に近く仕上げようとしたが、あと一歩届かなかったという見解が妥当ではないかと思います。
Bokehは悪くはないが特別良くもないといった印象で、球面収差の過剰補正のために後ボケは二線ボケ傾向ですが、それが画面周辺部で乱れたりはしません。ボケで意外と見過ごされがちなのが画面中央と周辺の差異で、これが大きいと変形したボケがグルグルやざわざわを発生させたり、二線ボケがさらに強調されたりして画面全体の均質性を失います。SUMMICRON-Rは開放F2なので、さほど大きなボケは楽しめませんが、画面周辺部まできれいなボケ味を保ち、当時の評価としては十分にボケの良いレンズだったのではないでしょうか。
歪曲収差は-1.5%前後の樽型と一眼レフ用の標準レンズとしては良好で、ライカはM型と同様に歪曲収差にこだわりを見せています。標準レンズの光学設計の都合として、歪曲収差を強く補正すると像面湾曲が不利になるという一面があるようで、それゆえ直線の再現にこだわるライカは像面湾曲を残し、像面の平坦性にこだわるツァイスは歪曲を残すのではないでしょうか。このSUMMICRON-Rは直線が常にまっすぐ写るというほどではありませんが、Planarほどのぐんにゃり感はありません。
ここでSUMMICRON-R 50mm F2(前期型)の正体をまとめてみましょう。
SUMMICRON-RはM3発表当時のライカの思想をそのまま受け継いだ標準レンズであり、M型SUMMICRONと同様の高解像型、さらに歪曲もできるだけ抑えられ、像面湾曲はそこそこ残っていますがボケは整っており(非点隔差が小さい)、発色もよく多くの場面で力強いハイコントラスト、まさにライカの看板レンズとしての高性能標準レンズとなっています。この持ちにくささえある先細スタイルも、M型の小型軽量をイメージして、カメラ装着時の外観を小さく見せたかったのでは?
Elmar 50mm F3.5から始まったライカの交換レンズは50mmこそシステムの中心であると考え、時代の変化とともに常に最高鋒を目指すその姿勢はついにAPO-SUMMICRON-M 50mm F2 ASPH.として、レンズの肥大化を抑えながらアポクロマート補正/非球面レンズ/フローティングと、究極の次元にまで行き着きました。そういった流れの中にあるのがSUMMICRON-R 50mm F2と考えると、このレンズに性能不足=味という概念が入り込む余地がないのは当然といえるのかもしれません。
【SUMMICRON-R 50mm F2(前期型)とPlanar 50mm F1.4 AEJ(F2)の違い】
色調 相対的にSUMMICRON-Rはやや黄色く、Planarはやや青い
コントラスト(開放) SUMMICRON-R>Planar
コントラスト(全域) ほぼ同じ
解像力(開放) SUMMICRON-R>Planar
解像力(全域) ほぼ同じ
歪曲補正 SUMMICRON-R>Planar
逆光性能 Planar>SUMMICRON-R
画角の広さ Planar>SUMMICRON-R
絞り羽根 SUMMICRON-Rは6枚 Planarは6枚でぎざぎざ
最短撮影距離 SUMMICRON-Rは50cm弱、Planarは45cm画角の広さ Planar>SUMMICRON-R
絞り羽根 SUMMICRON-Rは6枚 Planarは6枚でぎざぎざ
※解像力の項目は2400万画素で見える細部のくっきり感を意図しています。厳密な二点分解能の意ではありません。
最後に、ものすごく簡単にSUMMICRON-R 50mm F2の個性をまとめておくと、このレンズはとてもシャープで力強い描写、F2に絞り込んだPlanar 50mm F1.4 AEJに意外にも遜色がないオールドレンズとなります。その時代差はゆうに10年もあるのに!
カテゴリ :「レンズ探求(各社レンズ比較)」