ContarexのPlanar 50mm F2をやるならLEICAFLEXもやらねばならぬ、ということでSUMMICRON-R 50mm F2です。とはいっても、ドイツの二大メーカーを競わせたいのではなく、単純に同時代、同スペック、同クラスの高級レンズということで正確な比較が可能、とても意義があると思ったからです。

ライカの一眼レフ、1964年(1965年?)発売のLEICAFLEXは後にLEICA Rシリーズとなって2003年のデジタルモジュールRにまで行きつくわけですが、その存在感はとてもひっそりとしたもので、フィルム時代の評判と言えば、ライカなんだからたぶんとても良いものなんだろう…というぼんやりしたイメージに包まれる通好みのカメラでした。

ライカマニアでない自分がLEICA Rを総括するのも憚られるのですが、破竹の勢いで機能と使いやすさが増していき、やがてはAFにまで発展していく日本製一眼レフの陰でM型ライカの質感をあきらめ、しかし、値段は高いままという華のなさがLEICA Rを苦戦させた原因のひとつだと思います。かつての巨人であったZEISSのカメラ事業が日本のヤシカとうまく折り合いをつけて、CONTAXの熱風を巻き起こしたのとは対照的に、ライカはミノルタの技術を借りながらも孤高を守り続けたのでした。その結末は、のちに別の明暗を描くのですが……。

CONTAX Nシステムの失敗理由、京セラCONTAXの終焉

参考までにカメラ雑誌の広告から一部抜粋すると、1976年の正規販売店の売値ではR3+SUMMICRON-R 50mmF2が423,000円、1993年の広告ではR7が380,000円、SUMMILUX-R 50mm F1.4が185,000円。さすがに、これでは一般人がおいそれと手を出せるカメラであるわけがなく(中判のHasselbladが買える)、さりとて、その値段に見合うM型ライカのような機械的味わいも薄く。

せめて、カメラファンの関心を惹きつける有名レンズでもあればよかったのですが、それはせいぜいR晩年期に熱が高まったAPO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8程度と、かなり寂しい状況です。ライカを使うなら、やはりレンジファインダーという風潮も根強かったようですし……。


そんなわけで、ずっと日陰の存在だったRレンズは研究の対象としてはおもしろいのですが、マウントの垣根を超えたミラーレス時代にあって、いまだに話題が盛り上がることがないのです。その理由はなんなのか? 実際のところ、Rレンズの描写力はどうなのか? 

丸裸にしてみせましょうぞ!! SUMMICRON-R 50mm F2よ!!

【諸注意】
・今回、使う個体はContarexとの比較を見越した前期型の先細タイプとなります。
・最初に比較するのは当シリーズの基準となるCONTAX Planar 50mm F1.4 AEJです。


ピント付近の描写を確認するための定規撮影。これはPlanar 50mm F1.4の個体差を調べる際にはじめたやり方で、深い意味はありません。ピント位置となる200線は画面のど真ん中に置いているので、ピントの立ち方とその前後の描写がこの撮影で確認できます。

A: SUMMICRON-R 50mm F2(F2)
10561

B: Planar 50mm F1.4 AEJ(F2)
10560


SUMMICRON-R 50mmを丸裸にしようと思いっきり煽りましたが、実はこのレンズはアサヒカメラによる数値評価が幾度もおこなわれていて、Contarexほど未知のレンズではありません。そんな注釈を前置きしながらピントの立ち方を見ていくと、Aは絞り開放なのに一段絞ったBと同等以上かというクッキリ感があります。Aの球面収差は一般的な過剰補正ですがそれほど強くなく、解像力重視設計にありがちな低コントラストにはなっていません。また、過剰補正型の特徴として後ボケよりも前ボケの方がやわらかいという特徴が、Bとの比較から見て取れます。

色収差は特に抑えられていず、絞ったBよりもAの方が目立ちます。色収差についてはOreston 50mm F1.8、RE.Auto-Topcor 58mm F1.4などのほうが優れていて、開放F2で余裕があるはずなのに色収差補正を重視しないこの傾向はContarex Planar 50mm F2と同じです。

収差図がわかっているので焦点内外像を調べる必要もないのですが、興味のある方は以下の記事に追加しているのでご覧ください。

焦点内外像コレクション
https://sstylery.blog.jp/archives/87776412.html

こちらはライカのL、M、Rレンズの収差図、数値性能を網羅しているかなり価値のある本です。

とはいっても、SUMMICRON-R 50mm F2(前期型)の詳しい収差図はこの本にしか載っていません。


最後はマクベスチャートです。すでに劣化したチャートで色味に信頼性はありませんが、両者の条件一致だけはしっかりと守っているので、単純な相対比較としては成り立っています。

A: SUMMICRON-R 50mm F2(F5.6)
10564

B: Planar 50mm F1.4 AEJ(F5.6)
10563

ABに目立った違いはなく、Aがやや黄色っぽい感じで、チャートの反射光に対し微妙なシャドー浮きも起こっています。こまかく見ると中央の赤がBに対しやや渋く見えますが、実写でもこの違いが出てくるかどうか。総じて、SUMMICRON-R 50mm F2は古いレンズなのに現代的なPlanar 50mm F1.4にかなり肉薄しているといえます。

次回は野外比較で、SUMMICRON-R 50mm F2の実写性能を探ります。

レンズ探求 #17 SUMMICRON-R 50mm F2(前期型) 野外比較