実はこの記事、当初ははっきりと白黒つけるような意識はなく、多少なりとも特定個体に対する違和感の根拠がつかめればいいか程度の感覚でした。ところがどっこい、ある思いつきでおこなった焦点内外像の観察により、初期玉のピント以外の描写について、自分なりの仮説が完成してしまったのです。


ことの発端は、この記事で書いたS/N: 581の黒刻印。なんだか絞り開放の雰囲気が違って、どうも丸ボケの輪郭が強く艶やかで、Planar 50mmのクラシカル度が増しているような雰囲気があるのです。

Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #5 黒刻印のボケ描写
http://sstylery.blog.jp/archives/21263788.html

この黒刻印をMMJなどと比較した結果はこれといった差も見えず、撮影者のプラシーボ?とあいまいな感想で記事を終わらせましたが、その後、他の個体を使い続けたあとにこの個体に戻ってくると、やっぱり頭の中に引っかかるものがあるのです。


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う~~む、ならばやるしかない! ミラーレスのα7なら素早く精度の高いピント合わせができるから比較撮影でボケ量が変わってしまうこともないだろうし、光の変化も最小限で済むはず。


いざ! 初期玉比較!!


絞り開放 曇天なので自動露出、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル

※雲の厚みによって光の変化が起こりやすい曇天を選んだのは、印象に残った場面がやわらかな逆光だったため。すべての個体を順々に撮影しているうちに光が変わってしまう可能性があるので、個体A→個体B、個体A→個体C、個体A→個体Dというような個別比較を実行しています。


比較したのは以下の4本。

 個体A: 気になる超初期玉 S/N: 581 黒刻印
 個体B: 超初期玉
 個体C: わりと初期玉
 個体D: まあまあ初期玉


全体絵
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上: 気になる超初期玉   下: 超初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: わりと初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: まあまあ初期玉
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全体絵
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左: 気になる超初期玉   右: 超初期玉
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左: 気になる超初期玉   右: わりと初期玉
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左: 気になる超初期玉   右: まあまあ初期玉
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全体絵
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上: 気になる超初期玉   下: 超初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: わりと初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: まあまあ初期玉
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全体像
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左: 気になる超初期玉   右: 超初期玉
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左: 気になる超初期玉   右: わりと初期玉
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左: 気になる超初期玉   右: まあまあ初期玉
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全体像
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上: 気になる超初期玉   下: 超初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: わりと初期玉
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※ここで光が変わってしまって、最後の組は比較できず。


全体絵
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上: 気になる超初期玉   下: 超初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: わりと初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: まあまあ初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: 超初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: わりと初期玉
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上: 気になる超初期玉   下: まあまあ初期玉
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結論としては、プラシー……… もごもご。( ̄≠ ̄)

撮影後の実感としては、やはりミラーレスのピント拡大を用いたとしても、あいまいなピント面となる旧型のPlanar 50mm F1.4は微細なピンズレを防ぐことができず、ボケ量を100%の確度でそろえることはできませんでした。

さらに、今回の主目的であるボケは、ほんのわずかな光の変化で輪郭線の強さなどが変わってしまうために、ある場面ではAに特徴があるが、違う場面ではBに特徴があるなど、写りの印象が一定しません。そこへ前述の微細なピンズレがからんでくるわけですから、はっきりいって、同一レンズのボケ比較などはよほど一方の性能が狂っていないかぎり、確たる差を認識することはできないように思います。(※あくまで単焦点の話)

いちおう、これらの画像と撮影中の印象を合わせて具体的に述べるならば、まあまあ初期玉は気のせい程度にボケがやわらかく感じる場面もあるかなあ?とも思いますが、そもそもマウントアダプターの精度の低さで構図がずれていることも無視できませんし、超初期玉気になる超初期玉よりも丸ボケの輪郭線が強そうな感じもなくはないです。ようするに、仮にボケ描写に印象の違いがあるにしても、この程度のあいまいな言葉でしか表現できない実写結果であるということですね。


やはり、今回のテストも前回と似たような感想になってしまいましたが、そもそもの話、すでに製造年月の離れているMMJと比較して違いがわからなかったのだから、同じ初期型で違いがでるはずがないという。

う~~む………ならば、アレをやるか……? 球面収差の状態を直接見ることができる焦点内外像の観察とやらを。


では、焦点内外像とは?


……これがわからんのですよ……。たいていのことは専門メーカーのWEBサイトなどで用語解説があるんですが……。

おもに天体望遠鏡の分野で常識らしく、アマチュアの方の記事もそのほとんどが詳しい説明をすっ飛ばして「焦点内外像を見てみましたが」ってところから始まるんです。いちおうわかりやすいのは以下のサイトさんですが、もうちょっと学術的な記述がないと、自分の中で確信として呑みこめません。

 球面収差とは、ボケ!の事ですね。
https://blogs.yahoo.co.jp/solunarneo/29287129.html


アオリができる超広角レンズ「ニコン PC NIKKOR 19mm f/4E ED」を徹底検証する
茂手木秀行
http://shuffle.genkosha.com/products/lens/9427.html


焦点内外像というのは夜景などで得られる非常に鮮明な丸ボケの延長線上にあるものだということは理解できるのですが、球面収差の輪帯というものがそもそもなんであるかが想像つきません。

とりあえず、以前に自分で作った画像を転用すると、こういったボケ像が極小の点光源だった場合に特殊な丸ボケが観察できるということらしいです。


【焦点外像】
3459

【焦点内像】
3458



で、実際にやってみたのがこれ。
気泡のようなものがいくつか見えますが、そのほとんどはセンサーに付着したホコリの影です。ただし、普段見えないものが写っているので、レンズ内部の荒れが関与していてもおかしくありません。


【焦点外像=後ボケ】
気になる超初期玉 - 超初期玉 - わりと初期玉 - まあまあ初期玉
6226


【焦点内像=前ボケ】
気になる超初期玉 - 超初期玉 - わりと初期玉 - まあまあ初期玉
6225


ほう………。これで、ようやくレンズ間の微差が画像で実証されたように思います。

いまだに焦点内外像というものが理解できていないので詳しい解説はできませんが、左端の気になる超初期玉だけがくっきりとした内輪が見えていますし(※シャープ?)、右端のまあまあ初期玉は内部の輝度分布が一番なめらかです(※ボケがやわらかめ?)。さらに左から二番目の超初期玉は焦点外像の外輪が一番強いことから(※二線ボケが強い?)、それぞれの実写の印象がこの焦点内外像と一致しているような感触があります。全体的に外輪の輝度に対称性がないのは、自分のやり方に精度不足があるからです。

このように、実写でなんとなく気に入っているS/N: 581黒刻印は確かに光学的に他と違う特徴がありそうだということで、人間の感性は主観に支配されながらも意外に無視できないという、わりとありきたりな一般論が確認できましたとさ。


ずっと疑問に思い続けているS/N: 581黒刻印について怪しい光学的解釈をしてみるならば、この個体はまず他では見えていない内輪がよく見えるので組みの素性が良さそうというのがひとつ(でもなんか中心がずれている)、そして、焦点外像/内像ともに輝度分布のメリハリが強めで、これがモコモコしたボケの丸みや艶やかさにつながっているのかもしれません。一般に、優れた球面収差補正はできるだけ平坦さを維持し、最端の輪郭部が急なカーブにならないように設計されるのですが、この個体は球面収差が大きくふくらみながらもしっかりと焦点面近くに戻されているようなので、性能が高いから描写が素晴らしいのではなく、よりクラシカルな状態だから撮影者に訴えかけるものがある、という解釈のほうが自然かなと思います。

あまりこういう言い方はしたくありませんが、もし仮に、初期玉になにか感じるものがあるとするならば、それは当時の硝材で球面収差の完全補正型を実現した古めかしさのあらわれで、逆に考えれば、時間が経つほどに硝材の品質が上がりばらつきの減っていったPlanar 50mm F1.4は無難で優等生的な描写に落ち着いていったのかもしれません。

でもって、このように壮大に書き連ねると、初期玉の一部にはさもうっとりするような癖がありそうに思えますが事実はこのカテゴリで比較してきたとおりです。

以上、うまくまとまりましたかね?


このテストで使ったレンズは黒刻印と通常刻印が混在しているので、黒刻印の描写に必ずしも特徴があるわけではありません。