このまとめは、古いAEG/MMJとの比較で得た印象がもとになっているので、デジタル時代の他社レンズを交えた評価は不明です。その意味では、N Planar 85mmの個性を完全につかんだとは言いきれず、心残りもあるのですが……。


【絞り開放付近】
・絞り開放のピントは改善され、しっかりしたピントピークがすっと立つ。
・前後のボケはとても柔らかく、旧型とは別物。
・開放からコントラストが高く、つやつやした階調。
・色収差はとても良く補正され、逆光でもフリンジはさほど目につかない。
・四隅の周辺減光、口径食はやや大きめ。
・寄りぎみで背景が細かい絵柄になると、ボケにグルグル感が出る

【全域】
・黄色味がかなり強く、全体的にクリアで高発色ながらべたっとした階調の厚みがある。
・この黄色味は85mm F1.4 AEGのクリーミーな味つけどころではなく、かなり癖が強い。
・絞り羽根が円形に近いので、F2~F2.8は画面全域できれいな丸ボケになる。
・レンズ内部に反射要因がないので逆光には強いが、絞り込むとなぜかフレアが強まるときがある。
・歪曲は弱い樽型で特に問題ないが、ほぼゼロというほどではない。

・AFレンズだがMFの操作感は不満なく、繊細なピント合わせが可能。
・レンズ交換時、外径90mmの太い鏡胴はさすがに持ちにくい。


・以下にCONTAX Planar 85mm F1.4 AEG/MMJとの差異を整理。

色調  相対的にMMJはやや青く、AEGはアンバー Nは黄赤が強い
コントラスト N>MMJ>AEG AEGは内面反射の影響で軟調化する場面が多い
逆光性能  N>MMJ>>>AEG
色収差補正  N>>>MMJ=AEG
歪曲補正  MMJ=AEG>N Nは弱い樽歪曲がパースによって目につく
画角の広さ  N>MMJ=AEG

絞り羽根  Nは円形に近い MMJは無難な多角形 AEGはぎざぎざ



このN Planar 85mm、さすがに二十数年の時代差が反映された設計になっていて、その描写はぼわっとした印象派といえる旧型AEG/MMJの絞り開放から、きりっとしたピントに二線ボケしないやわらかなボケ、明確におさえられた色収差という優等生レンズへと変貌しています。その方向性はまさに現在のデジタル時代のレンズが目指すものと同じで、クラシカルな旧型の残存収差が見せる繊細な写りの変化――言いかえればそれは使いこなしが強いられる厄介さとなり得る――は影をひそめ、絞り値を選ばない艶っぽさと透明感が常に得られる安定感があります。

しかし、高性能化されたとはいっても、やはり2000年代初頭のレンズ、硝材に癖があるのか分厚い黄色味が合わさったこってり感は、単純なハイコントラストレンズとは違うCONTAXらしさがあるといえるかもしれません。

旧型AEG/MMJと比較して、やや物足りないのは周辺光量不足による口径食の大きさで、これは外径が巨大化したレンズとしては不満です。ただし、この周辺減光の大きさは最新のMilvus 50mm/85mmなども同じ傾向であり、画面四隅に入射する光束の一部を意図的に切って画質を上げる設計なのかもしれません(*1)。また、非点収差が画面端でやや大きいのか、四隅の画質が旧型に比べていまひとつですが、これはボケを多用するポートレートレンズとしてはさほど問題にはならないはずです。

(*1 鏡筒内のケラレを意図的に大きくすることで、画面周辺部の結像を悪化させる光線を物理的に排除する手法。その代償として周辺減光、ボケのレモン形状が強まる。参考までにZEISSのデータシートでは、Milvus 85mmは四隅の周辺光量が20%付近、N Planar 85mmはそれよりもややマシ、AEG/MMJは30%中程と、新設計のレンズほど周辺光量が減っている)


N Planar 85mmの感想としては、ボケに色収差が混じらず、絞りの全域でコントラストが高いので、難しいことを考えずにF1.4でばんばん撮れるのがとても楽でした。気になるのは同時代の他社レンズと比較してどうか?という部分ですが、さすがにそこまでの財力はないので希少品としてのPlanarを素直に楽しむことが吉です。それと、AFレンズなのに常時MFできる気持ちのいいピントリングはサイコー!


CONTAX N Planar 85mm F1.4 #1 外観、機構などなど

CONTAX N Planar 85mm F1.4 #2 ピントと色

CONTAX N Planar 85mm F1.4 #3 YASHICA/CONTAXとの絶対比較

CONTAX N Planar 85mm F1.4 #4 YASHICA/CONTAXとの比較 明るさ揃え

CONTAX N Planar 85mm F1.4 #5 YASHICA/CONTAXとの比較 Bokeh(ボケ)

CONTAX N Planar 85mm F1.4 #6 YASHICA/CONTAXとの比較 人工物、遠景


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※画像は使い回しあり。

絞り開放、近接でも余裕のある描写をするのがN Planarの特徴です。
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この後ボケは新型特有のもの。
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強い黄色味をどの程度補正するかもこのレンズのポイントです。
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大口径中望遠はボケで遊べます。
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とはいえ、インナーフォーカスのデメリットとして、近接時に画角が広がってしまうためにクローズアップ撮影はやや物足りないです。(※最短撮影距離は85cmでごく標準的ですが、感覚的にAEG/MMJの最短1mくらい寄れない)
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画面周辺部で非点隔差が大きくなるのか、距離によってはグルグルします。
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絞り開放でもガンガン撮れるのがN Planarの持ち味です。
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常にくっきりとみずみずしい絞り開放。
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AEG/MMJならF2.8あたりを使いたいところですが、N PlanarならF1.4でも大丈夫。
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やや絞っていますが、角張らないボケ。
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