ちょっと自家プリントする必要があって、普段、さほど活用していないPX-5600を本格稼働させました。

このインクジェットプリンター、プロセレクションなんてカテゴリにあるプロ/ハイアマ向けの機種なので、そもそもきちんと使っていないことがおかしいのですが、久しくまともな写真を撮っていないのでプリントするものがないのです。なわけで、普段はインク詰まりをしないように数週間に1回L版を出力したり、コピー紙にマットインクの切り替えなしの事務印刷をしていました。

そんな中、A4の写真印刷を頼まれ、それなりに大きい写真だったらColorMunkiで用紙プロファイルを作るべえ、とそこからが落とし穴のはじまり。いやあ、解決したあとに振り返るとほんとに笑えないです……。


んで、なにが問題だったのか?というのは、ColorMunkiで用紙プロファイルを作っても階調の改善がないのです。具体的には、中間階調が薄めでシャドーがズドンと落ちるハイコントラスト。通常、用紙プロファイルを当てるとRGBCMY各色の階調が整い、軟調でやや地味な印象になりますが(だから元画像のライティングや色調が正確に再現され、Photoshopなどの画像処理が素直に生きてくる)、EPSONの自動調整が入るsRGB設定と大差ないのです。

左: かなり昔の正常なプリント   右: 今回のおかしなプリント
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※両者ともにColorMunki作成の用紙プロファイルで出力したプリントをデジタルカメラで撮影。赤矢印で示したのが問題点で(髪が濃い/肌が明るい/菜の花の緑が濃い/布地の青が濃い)、その割には青矢印のグレー階調は壊れていないという不可解な結果。


これを改善するにはプリンタドライバで個別調整するか、Photoshopで大幅に黒を浮かせるしかありません。この“大幅に”という状態が納得できず、どこかで設定間違いをしているはずと確認してみましたが、カラーマネジメントOK、プリンタドライバOK、ノズルチェックOK、マッチング方法、黒点の補正も関係なし。ひとつ疑わしいのは、自動調整が入るEPSON基準色(sRGB)と自家製プロファイルとの差がどう見ても少なすぎることです。これ、ちゃんとColorMunkiで測色できているのだろうか?


話をややこしくしたのが微妙に節約をして純正以外の用紙を選んだことです。その評価には黒がよく締まるなんてのもあったので、単なる特性の違いなのだろうか……という疑念。

この時点の考察。
  • ColorMunkiのソフトウェアがwin8.1に未対応なので、プロファイル作成時の計算が狂っている。(モニターキャリブレーションは正常動作を確認)
  • PX-5600の不具合。
  • 設定の細かい部分の見落とし。
  • プリンタドライバの動作不良。
  • この用紙の狙いが元々アマチュア向けに見栄えのするハイコントラストである。(でも、プロファイル作成ってその程度の効果しかなかったっけ?)

ちなみに自家プリントに関してはこんな話がありまして、

Shuffle
小島勉のカラーマネジメント放浪記
作品プリントのカラーマネジメント 〜写真家・岡田敦 ②
http://shuffle.genkosha.com/products/eizo/user/7908.html

■プリンタの色作りを重視したプリント方法

小島: 次は「プリンタによるカラー管理」について説明しましょう。Photoshopのプリントダイアログでこれを選ぶと、プリンタプロファイルの項目はグレーアウトして選べなくなります。
(中略)

岡田: Photoshopでカラー管理しても、プリンタでカラー管理しても、結果的には同じ色になるんですか。

小島: いえ、プリンタドライバに任せると、プリンタメーカーが最善と考えている色でプリントされます。

岡田: 必ずしもPhotoshopでカラー管理をしなくてもいいんですか。

小島: Photoshopでカラー管理する場合は、汎用的なICCプロファイルの範囲でのカラーマネジメントになります。印刷の仕事のように大勢の人間が関わる時はこちらのほうがいいですね。プリントの色に汎用性があるので、印刷の色見本に適しています。でも自分だけで完結する作品プリントの場合は、これにこだわる必要はありません。

この会話の中の「かならずしも用紙プロファイルでガチガチに管理する必要はない」というのには同意です。なぜなら、インクジェットプリンターって微妙に不安定な物なので、測色器を使ってある時点の用紙プロファイルを作成しても、温度湿度などの環境変化でどんどん色がずれていくのです。少なくとも潮風による湿気の影響が大きいうちの室内では、一週間も経てばPhotoshopによる手補正が必要になってきます。なので、普段の記念写真などはドライバ任せのsRGB+微調整でほとんど済ませていますし、用紙プロファイルを絶対視できないので、ある程度EPSONの自動調整を尊重しつつプリントとモニターの現物合わせでいくのもしかたがない、とも思いはじめていました。(もちろんこれができるのはPX-5600の素性の良さがあるから)


ともあれ、なにが悪いのかというと自分の圧倒的なプリント経験のなさが根本にあるので、ここで曖昧にごまかしてはいかんと、順々に不確定要素を潰していきながら、同時にEPSON純正用紙も買い直しました。ふう。

……ところが、その結果は愕然とするものでした。

  • ColorMunkiのソフトウェアがwin8.1に未対応なので、プロファイル作成時の計算が狂っている。
    →仮想ソフトでXPを動かしたが結果変わらず。

  • 細かい部分の設定の見落とし。
    →発見できず。

  • プリンタドライバの動作不良。
    →再インストールでも改善なし。

  • 純正用紙でも結果変わらず、ハイコントラスト。

左: EPSON基準色(sRGB)  右: ColorMunki作成の用紙プロファイル
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※両者ともにEPSON純正用紙を使った再プリント。ドライバ設定のEPSON基準色(sRGB)は忠実度よりも見栄えが優先されたものなので、この結果がほぼ同じというのはありえません。右下のチャートで明確に違う色があるのでプロファイル作成が機能していることは確かです。


純正用紙でも良い結果が出ないとなると、もうお手上げ。これは本体に不具合があると見てサポートに相談しようか? 今までのプリント、画像のCD-ROMを一切合切をまとめてEPSONに送りつける?? と相談窓口を調べはじめたところ、ひょんなことから「こ、これでは!!」という解決の糸口を見つけました。

EPSONのプリンタドライバにはICMという簡易カラーマネジメント機能がある? あれ、そういえばそんな項目を覚えているぞ、どこだっけ……?

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おぎゃあああああああっっっ!!!!(今生まれた?)


いつの間にかマニュアル色補正とオフ(補正なし)を混同していたよ。

この項目の中にマニュアル色補正、オートファイン!EX、ICMが一緒くたになっているということは、この三つとも自動調整が入った出力状態で、用紙のプロファイル作成に必要なのは完全無補正(ネイティブ)のオフ(補正なし)だったんだ!!!

……と、ここで皆さん、なにを当たり前のことを?と首を傾げておられるでしょうが、まあこれ見てくださいな。


1: ColorMunkiでテストチャートを印刷しようとすると必ずこのような警告が出ます。
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2: なぜかというと、印刷画面がWindowsのドライバを経由するからで、必ずプロパティを開いて……
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3: プリンターの印刷設定をしなければならないのですが、毎回この項目が初期状態なのです。用紙の選択を適切に直さなければならないのと同時に、一番怖いのは色補正が自動になっていることで、無補正=ネイティブが必要な用紙プロファイル作成ではこれを絶対に間違えてはいけません。

なので、その隣のユーザー設定(T)にぽちっと切り替えると……
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4: こうなります。出てくるのはマニュアル色補正で、これを自分はいつの間にか無補正と混同していたのです。マニュアルって、無補正からのユーザー調整だと思いません?
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5: 正しくはこう。落ち着いて作業してれば間違えないんですが、用紙種類を直して、紙サイズを直して、拡大率を確認して、プレビューONなんていちいちやってると、うっかりどこかを忘れて印刷したチャートがすべて無駄になります。ColorMunki用の設定をお気に入りに保存しておけばよいのですが、用紙の種類もサイズも時々で変わるしなぁ~なんて横着していたらこのザマです。
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というわけでめでたく原因判明、もしやこの記事で真面目に原因を推理しようとしていた方がいましたら、ごめんなさい。<(_ _)><(_ _)><(_ _)>

これが正しい設定で作られた用紙プロファイルの効果で、FUJIの用紙も別段EPSONと変わらない階調が得られることを確認しました。最初に問題だった赤字部分も、豊かな階調が再現されています。

左: おかしなプロファイル適用   右: 正常なプロファイル適用
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※赤矢印が修正された部分。


んでもって、どれだけ間違ったプロファイルを作っていたかというのがこれ。
拡大率の微調整をしたので大きさが違いますが、濃度差のみならず、まったく違った色を出している部位があるのが恐ろしいです。

左: 間違った設定の第1テストチャート  右: 正しい設定の第1テストチャート
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第2テストチャートは第1テストチャートを元に矯正された計算結果らしく、ほぼ同じなのが興味深いところ。
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最後に濡れ衣をかぶせたFUJIの画彩の絹目調/厚手ですが、EPSON純正の絹目調と比べて白色度、厚み、発色などに目立つ違いはありませんでした。表面も同じ微粒面で、この紙のグレードが二番目のHiということから、単純にメーカー純正品の置き換えを狙ったものと思われます。もう少し、今回のプリント作業が進んだらこまかい感想を追記しようかなと。