今の時代、「写真工業」という月刊誌を知っている方は年配のベテランだけになってしまうのでしょうか。廃刊となった年代を見る限りは2008年とずいぶん最近のことですが、内容的にはマイナーもナイナー、カメラやレンズ、フィルムの技術解析やマニアックな機材記事など、非常に堅苦しく淡泊で定価も高いという、いちアマチュアにとってはなんでこれが本屋に置かれ続けるのかいささか謎でした。しかし、まるきり時代の空気とは無縁な特集記事(例えばレンズ設計や暗室ノウハウや大判カメラなどの解説)は個人的に面白く、実は資料として何冊か手元に残っている本でもあります。

そんな写真誌に、こんな重要な記事があったんですね。


写真工業 Vol.49 No.5 1991 5 
「徹底比較!! 日独ツァイスレンズ, 18mm・85mm」



正直、Planar 85mm F1.4はしっかりテストしたのでこういうものに興味はなかったのですが、Distagon 18mmはひじょ~~に気になりました。あのAEGのねばねば諧調がMMJとどう違うのか、専門家はどう見たのか?


・もともと淡泊な雑誌だけに比較写真はすべてモノクロ、記事自体の充実感はない。

・記事導入部のCONTAXレンズがドイツ製から日本製に移行というのが大事件のように書かれていて、いまだに根強く残るドイツ信仰の根源を見たような。当時の空気として十分に理解はできますが。

・MM化についてのメーカーコメントが貴重。

・いくつか誤解を生む表現、内容がある。

・その1、Planar 85mmはAEGの方が軟調と言い切っているが、テスト写真はすべて逆光に属するもので(ポートレートの定番、半逆光+レフ起こしなどを行っている)、明らかに前玉側の内面反射によるコントラスト低下を認識していない。

・その2、上記の結果を18mmと一緒くたにしてMMJよりもAEGの方が軟調で好感が持てると結論付けている。

・その3、一部、専門誌にふさわしくない非常に紛らわしい表現をしている。レンズ描写について、MMJを「カリッカリッ」、AEGを「カリッ」と表現し、その結論として“西ドイツ製の「カリッ」とした高コントラストな描写が好き”と著者は締め括っている。これだと、AEGの方が高コントラストと印象付けられてしまう上に、さらに“高コントラストの描写性は西ドイツ製にしかないものだから~”と念推すように続けられていて知らない人が読むと完全に勘違いをしてしまう文章。

・85mmの記事で唯一、当Blogの内容と合致したのはMMJの方がピントが合わせやすく芯のないボケ方をするという部分で、これは自分がたまたま遭遇した個体差の例とまったく同じ。もしかしたらPlanar 85mmは本当に製造が難しいレンズで、AEG→MMJ→ZFという段階を経て徐々にその性能が上がって(≒安定して)いったのかも。

・85mmは分光透過率の差が示されていて、これにはやや思い当たるところあり。(AE/MMの違いについてひとつだけ検証できていない実感的差異があります)

・18mmは特にAEGの抜けの悪さに言及して欲しかったが、AEG/MMJの一般的差異と片付けられていてとても残念。

・18mmの分光透過率の差こそ見たかった。



とまあ、全体の感想としては読む価値はあるが1991年というカラーフィルムもたいして性能の良くなかった時代性を表した内容で、マニアとしては食い足りないといった感じ。でも、おおらかな時代でしたから、ほとんど参考にならない小さな写真ばかりだとしても、けっこうしっかり追求した記事だと思います。
どれだけおおらかだったか? そりゃもう、CANONのTS-Eレンズの広告でアオリによる陰りが出ちゃってる作例が堂々と掲載されているくらいなんで(笑)。実は、AGFAのトライアドシステムのレポートが一番面白かったのは内緒。

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