再三に渡って紹介しているNo.1 ZEISS本。

「コンタックスとツァイス・イコンの肖像」 約124ページ総カラー
平成11年11月20日発行 株式会社ワールドフォトプレス 定価 1524円+税
1041


この本の凄いところは、本来ごくわずかな好き者が手に取るだけで本屋の片隅の棚にそっと置かれているようなムック本が、大手の書店、ヨドバシカメラ、カメラ店などで長い間平積みになっていたという事実です。それも、発売直後の出版社の後押しというわけではなく、発売後に自然と売れるのでそのようになったという経緯が特筆もの。

なんでそんなに売れたのか?というのはまず値段の安さがあると思います。この手の別冊が普通2000~3000円するところが、なぜだか1500円ちょっと。これでしたらZEISS信者でなくても、なんだか噂だけは聞くCONTAX/カール・ツァイスか、ふーんみたいに手に取る人も多かったはずです。そして、決定的だったのが紙面。これがまた、隅から隅まで徹底的にデザインが行き届いてオシャレそのもの、雰囲気だけで満足してしまうような品の良さを漂わせていました。

1042

今思うと、なんでこんな本が作れたの?と不思議になるほど、手間と機材愛に溢れたページ作りです。機材愛――というのはコストに支配される商業誌ではありそうでなさそうな微妙さが通常ですが、この本の場合はライターよりもエディターの方がやる気満々で熱っぽいページ作りをしているような印象さえ受けます。とにかく、あちこちにデザインの遊びがありそれは表紙にも表れていて、芸術的なポートレートを大胆にトリミングしつつ(ZEISSのコーポレートカラーである)ブルーかぶりにしてT*を泣きぼくろのアクセントにする、というコンセプトからしてみても半端ではない凝りようです。
はじまりの1ページ目からしてCONTAXの棒状プリズムが偶像的に横たわっているという構成ですし、章と章の合間にはレンズ銘の写った前玉がずらーっと小さなコマで並べられていたり。

1044

1048

もう本当に、コーヒー片手にのんびりと眺めていたくなるような心地よさなんですが、内容については本のタイトルが“肖像”とあるだけにやはりカタログ的でどちらかというと薄めです。ZEISS IKONも押さえているということもあってCONTAXはページの半分程度、レンズについてもそれほど触れられているわけではありません。
しかし恐るべしは、文章で語らず写真で語れと言わんばかりの作品群がこれまた数は少ないながら濃厚で。当時、クラシックレンズ使いとして突如紙面に現れた黒川氏の作例は明確にレンズの特徴を作品に還元していて、今でも見入ってしまうものがあります。

ただ、一つ残念なのは、この時期の出版物の特徴として銀塩写真のボケ描写が例外なくドット絵的になるというのがありまして、このおかげで台無しになっている作例もあります。ピントが合っている部分は高精細なので、おそらく印刷のデジタル移行期に変な圧縮アルゴリズムが入っていたのかなと推測しますが業界人でないので真相は闇の中。(※日本カメラ、アサヒカメラ、その他別冊やカメラの新製品カタログなど、目にしたすべての出版物が同じでこの現象が気にならなくなるのは数年後にようやくです)

PHOTO/MIKIO KUROKAWA
1047

PHOTO/TOSHIYUKI SHINO
1046

さらにこの本の面白さを上げているのが怪人武田氏のカール・ツァイス駆け足歴史解説で、まったく知識のない一般人にとってはへ~へ~へ~とどこぞの番組みたいな相槌をひとりで何度も繰り返すことになるでしょう。

1049


まあとにかく、はるか富士山の彼方までこの本をヨイショしまくりましたが本人的には他意はなく、例えば多くのムック本がどこでも見かける無難な文章と見ごたえのないカメラ誌の延長のような写真ばかりで一度読んだらあとは戸棚へ仕舞いっぱなし、なんてものとはやや趣が違うことは確かです。
このデジタル時代に一番読者が読みたいであろうレンズ談義はほぼなくて、レンジファインダーCONTAXやCONTAREX、CONTAFLEXなども出てくるので万人向けとは言えません。しかし、この執筆者よりも編集者のほうがある意味突っ走りすぎてる凝縮具合をちょっと覗いてみて欲しいなあと思います。

1050

古本は山ほど流通しているでしょうから。




ついでにCONTAXの中古レンズを買ったから、なんか本が読みたいざます!という初心者さんのためにお勧めなのを三冊。しかし、本音としてはどれも良し悪しがあるので決定版というのはありません。

・かなり文章を掘り下げていて読みごたえがあるのがこれ。複数人の写真家が参加しているので意見が画一的にならないところが評価点。ただし、作例はありふれたカメラ誌の延長といった感じで見どころがなく(レンズの特徴はそれなりに出ています)、そのせいで売れなかった模様。田村彰英氏はさすが。



・まさに乱発といった感じで刊行されていた「カメラスタイル」は、紙面は賑やかですが記事そのものは軽く薄く、いま一つコンセプトのよく分からない雑誌でした。その中で割とオーソドックスな内容で充実して見えたのがこの刊のツァイスレンズ特集。先に紹介した「コンタックスとツァイス・イコンの肖像」と出版元が同じ、執筆者も被っているので内容も似た部分があります。確か、ライカ Rレンズの特集も面白かった気がしますがどの刊だったか…。



・この本は執筆者が築地氏の名前のみなので、これまで氏が写真と記事を寄せていたレンズ評価の集大成の雰囲気があります。言ってしまえば、CONTAXの記事を読み続けているマニアとっては写真も文章も代り映えがしないなあという。高価なレンズも網羅されていますが、上の二冊があればいらないと思い、買っていません。逆に考えれば、レンズに関してはこの本とあと一冊あれば十分かなと。サイズがA5判なので注意!