かなりの数の比較テストをおこない、撮影者の実感も確固たるものに変わったので、ここで個人的な見解をまとめたいと思います。

※いきなりこのページにたどり着いた新しい世代の方たちは、なんのこっちゃ?となるはずなので、先にプロローグをお読みください。この初期玉神話の概要を簡潔にまとめたものです。

【過去記事】
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #0 プロローグ
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #1 外観
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #2 ピント問題その1
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #3 色と階調
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #4 ピント問題その2
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #5 黒刻印のボケ描写
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #6 個体差の森
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #7 AE=MM疑惑
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #8 ピント問題の追試
・Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か? #9 伝説に終止符を打つ

左:AEJ 右:MMJ
彩度の上がるトーンカーブでメリハリをつけているので、両者の差が明確になっている例。現像パラメーターは共通。
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【Planar 50mm F1.4 AEJ、MMJの噂に対する個人的な回答】

・ファインダーでピントの見やすい固体がある
→ピントの立ち方が微妙にはっきりした個体があるが、その原因は解像線の細さではなくマイクロコントラストの差。ようするに、ピントの線が(気のせい程度に)くっきり見えるので、ピント合わせの判断がしやすいということ。

・AEJにはピントの見やすい当たり玉が多い
→比率については不明。そもそも50mmに限っては当たりと普通の境目が微妙過ぎ。たとえば、製造公差をABCと区別するならAとBの比較は気分の問題、AとCの比較はそれなりに違いが分かるといった具合。

・解像力の高い当たり玉がある
→あくまで個体差の範疇で、その正体は画面全体の均質性が主な理由。つまり、正しく性能が出ている個体は偏心が少なく画質の対称性が高いという単なる出来の良さの話となるが、この差はF2で縮まりF2.8で完全になくなるので、実用上、当たり玉の優位は体感しにくい。

・初期玉はガラスに鉛が多く含まれているから重い
→電子秤がなかったので細かな重量差は不明だが、この説について、鏡胴の部材変更が考慮されていないのは不自然。手持ちのMMJはAEJよりも揃って20g程度軽いが、その原因はMM化にともなう内部構造の変更と、一部のパーツがプラスチックになったことが影響しているっぽい。硝材については……あんまり無駄にバラすと描写が変わってしまうかもしれないので、そこまで突き詰めなくていいのでは?というのが個人的スタンス。

・初期玉の黒刻印は特別である
→自分が気になったボケ描写はたまたまの個体差。ピントの見えに限っていえば、黒刻印の当たり率は高かったが、ふつうに平凡な個体も確認しているのでより気合を入れたものというわけでもないらしい。なぜ、黒刻印なのかは謎。

・AEタイプは黄色みを帯びる
→有名なAEGの黄色みとは違って、50mm F1.4のAEJは若干の青みが出る。ただし、描写の切り替わりがMM化と同時ではないようで、どのS/Nから違いが発生するのかは不明。

・AEJは濃厚に写る
初期の比較はバルサムクモリの影響で微妙にシャドーが浮いていたことが判明、正常な個体同士の比較ではシャドー/ハイライトの差はなし。ただし、逆光では内面反射の少ないMMJの方がわずかにコントラストが高い。

・AEJとMMJは同じレンズと言えるか?
→CONTAXの他のレンズに見られるほど写りの差はなく、RAW現像のあるデジタル時代では誤差の範囲。ただし、絞り羽根の形状、内面反射対策という物理的な面では別物。



「Planar 50mm F1.4の初期玉神話は都市伝説か?」

ただの製造公差がZEISSという名のもとに拡大解釈されているというのが自分なりの結論です。

なぜ50mm F1.4だけこのような騒ぎになったのかというのは、神格化されたPlanarという名前、日本製しかないという潜在的な不安、
価格の安さからくる所有者の多さ、中古販売業者によるイメージ操作、中途半端に終わったアサヒカメラの三回目の測定結果、これらが一体となった上でもっとも大きかったのは、このレンズに画角も含めたわかりやすいインパクトがない故の“ユーザー願望の過大さ”だったのではないでしょうか。

初期玉神話の真実としては、変な自己解釈が熱を帯びるほどにCONTAXのレンズは魅力的だった、でいいと思います。