こんな場面を見ると普通の人はどう思うのでしょうか。

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「なんてけったいな道具だ!」
「さすが幻のレンズ、S-Planar 100mm F4はカッコイイ……」
「これじゃ、スイングとシフトしかできなくて意味ないじゃん」


最後にしれっと業界人の声がまぎれこんでいますが、実はこれが正解で、実際問題このベローズを手にすると、接写で一番使いたい縦方向のアオリができません。S-Planar 100mm F4はアオリが使えるイメージサークルの広さが最大の売りになっているのにこの体たらくはなんなのかというと、まあようするにこのベローズがOEMで、当時のZEISS/ヤシカがこれに大がかりなアーチ部を増設することを望まなかったというだけの話でしょう。

それと、35mmカメラは中判カメラに比べるとあきらかにコントラストが高く商品撮影には不向きだったので、メーカーの認識自体がアオリはおまけ程度だった可能性があります。


で、無理矢理、縦方向のアオリができるセッティングをしてみると、こんなふうに重力を無視したかたちに……。
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正面から。
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これのおかしいところは、パン棒が撮影者とは逆方向(レンズ側)に向いていることと、カメラその他の全重量を横倒しのレールが支えていることで、微振動さえフレーミングとピント精度に影響するマクロ撮影でこのかたちははっきりいって実用になりません。

なんでパン棒が逆に向くのか?というのは、ベローズのカメラマウントが反時計回りにしか回らず、正常な取りつけをするとカメラが上下逆さまになってしまうからです。(上の画像でカメラとベローズをそのままくるっと正面に向けた状態をイメージしてみてください)

マクロに精通した玄人さんは最初からL字ブラケットを頭に思い浮かべているかもしれませんが、それで中心軸をキープして安定させたとしても、果たして横倒しのベローズで撮影の効率化ができるのでしょうか……?


正直いって、S-Planar 100mm F4とベローズのセットは絵に描いた餅で、このレンズからアオリを捨ててごく普通の接写用にするならもっとコンパクトで単純なベローズを用意した方がよっぽど現実的です。ベローズ自体の重量もかなりあり、下部のフォーカシングレール(マクロスライダー)も合わせるとおよそ1100kg、こんな中途半端な仕様なわけですから、S-Planar 100mm F4が売れなかったわけですね。

ただ、このレンズのイメージサークルの大きさはボケ描写の余裕につながっているようで、もしS-Planar 100mm F4がアオリに対応しない堅実な仕様におさまっていたら、あの開放の優雅なボケ味がなかったかもしれないと思うとなんだかびみょーな気持ちです。



でもって、時は変わってデジタル時代。

ミラーレスを母体にすればできないことはありませんし、過去の35mmフィルムが商品撮影に向かないとはいっても事実上の標準フォーマット、古今東西のメーカーを調べればなにかしらアオれるベローズがあるだろうと調べてみたら、こんなのが出てきました。

挑战4X5,史上最牛的135画幅移轴摇摆皮腔
http://www.photofans.cn/article/showarticle.php?threadyear=2013&articleid=12380
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冗談抜きで笑っちゃうほどすごいです。

この“DOI SST bellows”という商品名が検索でヒットせず、なかなか調べるのに苦労しましたが、わかってみればなんと単純。DOI=ドイだったのです。日本での正式名称は“プラウベル SST ベローズ”で、どストレートなレビューがこれ。

プラウベル(PLAUBEL)SSTベローズの実際!
http://m-jun.seesaa.net/article/172300011.html

プラウベル(PLAUBEL)SSTベローズ、今の時代でも是が欲しいとネットに書かれて居る人が居る。反面、入手された方は、入手の衝動に駆られ入手したが・・・「使えない・・・」と書かれて居る。そう、小生の意見も、”こんな物使えん!”。

ああああ……わかる。とても共感できる……。

機材って、本気で使おうとした人ほど欠陥が許せなくなるんですよ。まさにその典型といった感じの素直なお言葉の数々で、これは道具として手を出してはいけないレベル。特に偏見なくこの文章を読んでみても、ベローズの絶対条件である剛性が足りてなさそう。

というわけで、もともとがレア物というのもあるのですが、後ろ髪をひかれつつもS-Planar 100mm F4で自由にアオリが使えるベローズはナシということで終了。素直に各種アダプターや中華のヘリコイドを駆使して、実用的なシステムを組むことにしましょう。


……ところで、CONTAX 645はティルト/ライズ/フォールができるベローズユニットがあったのですね。

マツモトカメラ 販売ページより
http://www.matsumoto-camera.com/item_detail.php?genrel=30&genrem=4&productid=2690&page=1
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これもマミヤと同じOEMですが、将来的にCONTAXの中判がプロに定着した暁には、S-Planar 100mmのようなレンズユニットを発売していたということでしょうか。(京セラのカメラ事業撤退によりCONTAX 645は短命でしたが写りの評判は最高に良く、本当に写りだけでこのシステムを導入するプロもいたとかいなかったとか)