戦前戦後シリーズの第3回で、これまでのまとめになります。
その内容は、Biotar 58mm F2とPrimoplan 58mm F1.9とXenon 50mm F2の写りを順々に比較していくだけで、個別の解説はありません。まあ、せっかく一時代のExakta用標準レンズがそろったので、歴史的な意義も込めて資料を残しておこうというのが今回の趣旨です。
ただし、ひとつだけ変更を加えているのが、Biotarをより古い戦後初期型にしていることで、これにより、戦後型が出てすぐに終売となってしまったXenonと、より公平な比較になるのでは?と思います。
【比較に使用した個体】
Biotar 58mm F2(4群6枚、ダブルガウス、1940年代後半の戦後初期型)
Biotar 58mm F2(4群6枚、ダブルガウス、1940年代後半の戦後初期型)
Primoplan 58mm F1.9(4群5枚、変形エルノスター、1950年代前半の戦後後期型)
Xenon 50mm F2(5群6枚、変形ガウス、1940年代後半の戦後型)いちおう補足しておくと、この並びは一眼レフの始祖ともいえるKine Exaktaの標準レンズを戦後型に当てはめたものですが、1950年代に入るとWestagon 50mm F2やAngenieux 50mm F1.5(S21)なども価格表に記載されていることはご承知おきください。もともとの戦前型にしても、テッサータイプ以外の標準レンズが他にも存在していたのかは不明です。(調べていません)
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現在、当サイトは「戦前戦後シリーズ」なるものを展開していて、第二次世界大戦前後のレンズおよび、その光学設計に関与する事柄をα7IIで検証しています。
「Planar 50mm F1.4再考-戦前戦後シリーズ」
なぜ、この時代に特別な呼び名をつけて記事にするのか?というと、たとえ戦後であっても1950年代くらいまでは、戦前の基本設計を守ったレンズが流通していて、それらが設計された背景には、35mmカメラの発祥から間もない時期だからこその困難や試行錯誤があり、さまざまな物語が想像できるからです。
そこで気になったのが、Xenon 50mm F2の描写。このレンズ、とても設計で無理していて周辺減光が強いのですが、さて、これはフィルム撮影でこのとおりに出ていたのだろうか?という疑問です。
カメラの技術に詳しい方なら常識でしょうが、撮像素子は斜入射光線に弱く、メーカーによる対策がなされているにしても画質への影響は皆無ではありません。となると、われわれが普段、デジタルカメラで体感している周辺減光もフィルムより強く出ているはずであり、もし、それがまるで違う量だった場合にはXenonに対する記事中の仮説が崩れてしまうかもしれない……ということで、この点について白黒つけておこうというのが今回の趣旨です。
※フィルムを使った実験は、この記事を完成させるためにおこなったものです。Planar 50mm F1.4再考 #42 Xenon 50mm F2(戦後型) 野外比較https://sstylery.blog.jp/archives/86776280.html
しかし、XenonのマウントはExakta。きちんと精度の出ているExaktaなんてカメラコレクターでない自分が所有しているわけがなく、なんとか使えそうなのがトプコンのレンズを買ったときについてきたカメラです。これなら絞り開放でマニュアル撮影をするだけだし、露出のブレがあってもネガフィルムだからなんとかなるだろうなんて撮影を始めたら、フィルムはアナログの塊で、いつものデジタルカメラとは作業の大変さが段違い!!
したがって、これから掲載する画像は、間違いではないけれど8割から9割程度の正しさしかないものとして、参考程度にご覧ください。
戦前戦後シリーズの第2回で、今回はXenon 50mm F2が主役です。
ここでいきなり当ページにたどり着いてしまった方は、できれば前回のPrimoplan 58mm F1.9の導入部を読んでいただきたいのですが、なぜこのようなレンズ選択になっているのかをかんたんに説明すると、35mm一眼レフの始祖ともいえるKine Exaktaの価格表に出てくるのがツァイスのBiotar 58mm F2、マイヤーのPrimoplan 58mm F1.9、シュナイダーのXenon 50mm F2であり、そのライバル関係、スペック、価格差に興味深いものを感じたからです。
これが戦前の価格表で、戦後しばらくしてExakta VX(1951年~)の時代に入ると、Xenon 50mm
F2の名前は消えます。代わりに登場したのが、新設計のXenon 50mm
F1.9ですが、このレンズは評判がよかったのかM42、DKLなど複数のマウントに展開され、長らく生産が続けられることとなります。当サイトでもContarex
Planar、SUMMICRON-Rなどと一緒に取りあげています。
Casual PhotophileCarl Zeiss Jena Biotar 58mm f/2 – Lens Review
こちらは自分で入手した戦後のカタログですが、戦前のものと同じく共通仕様のカメラ本体が含まれた価格です。
ここで問題なのはXenon 50mm F2の価格です。戦前/戦後の価格表を見ても、PrimoplanはあきらかにBiotarよりも格下関係、そのPrimoplanとまったく同じ値付けで売られていたのがXenonなのです。
- Kine Exakta + Primoplan 58mm F1.9-185ドル
- Kine Exakta + Xenon 50mm F2-185ドル
- Kine Exakta + Biotar 58mm F2-270ドル
は? PrimoplanとXenonが同価格帯なんてウソでしょ? ( ̄ー ̄ )?
だって、Xenon 50mm F2って……
初見でSUMMICRONかと思うほどの高画質だったし。
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Planar 50mm F1.7はたぶん……性能にそつがなさすぎるから話題にならなかったレンズという気がします。プラ鏡胴の質感のなさにがっかりしつつも、Planar 50mm F1.4がときおり見せる気難しさのない万能性はスナップ撮影の即戦力になるはずです。
まあ、ちょっとだけ寄れないんですが。
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Tessarの記事で予告しましたが、本格的に戦前戦後シリーズのはじまりです!!
そもそもこれを思いついたのは、Planar 50mm F1.4を中心にオールドレンズの描写を調べていくなかで、単純にその範囲がノンコート時代にまで拡大したから……ではなくて、以前、BiotarとHELIOS-44をテーマとした際に、おもしろい画像を目にしたからです。
それは、1939年に流通していたKine Exaktaの価格表。これにはPrimoplan 58mm F1.9とXenon 50mm F2、Biotar 58mm F2が名を連ねており、当時のライバル関係がわかります。
Casual PhotophileCarl Zeiss Jena Biotar 58mm f/2 – Lens Review
Kine Exaktaは現代の35mm一眼レフの祖先でイハゲー(Ihagee)というカメラメーカー製、そこにマイヤー(Meyer-Optik Görlitz)、シュナイダー(Schneider-Kreuznach)、ツァイス(Carl Zeiss Jena)というドイツの名門が似たような標準域で肩を並べている状況はなんとも興味深い!
特に注目すべきはそのスペックで、Primoplanは開放F2を突破した58mm F1.9、Xenonは画角の広い50mm F2と、両者には明確なアドバンテージがあるはずなのに、それらよりも一見、凡庸なスペックであるBiotar 58mm F2が一番高い値付けなのはなぜなのか? この謎を解き明かすために、 いつもの厳密比較で三者の写りの違いを把握し、第二次世界大戦前の写真界を取り巻く空気にふれることで、「Planar 50mm F1.4再考」というオールドレンズ研究にいったんの終着点を与えることが今回の目的です。
特に注目すべきはそのスペックで、Primoplanは開放F2を突破した58mm F1.9、Xenonは画角の広い50mm F2と、両者には明確なアドバンテージがあるはずなのに、それらよりも一見、凡庸なスペックであるBiotar 58mm F2が一番高い値付けなのはなぜなのか? この謎を解き明かすために、 いつもの厳密比較で三者の写りの違いを把握し、第二次世界大戦前の写真界を取り巻く空気にふれることで、「Planar 50mm F1.4再考」というオールドレンズ研究にいったんの終着点を与えることが今回の目的です。
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えーと……わし、キャノまにを名乗ってよろしいでしょうか……。
というのも、当シリーズ記事でFD50mm F1.4を取りあげた理由は、アサヒカメラのニューフェース診断室で記録されたSUMMICRON並みの解像力に着目しただけで、話は単純にそこで終わるはずでした。ところが、たまたま手にしたFD50mm F1.4 S.S.C.はなんだか画質が違うぞ、もしかしたらこれは設計変更があったのでは? なんて疑惑が浮上してからはまさに泥沼。どんどんとFD50mmの謎にはまっていったのです。
そして、とうとうCANONの一眼レフ用50mm F1.4は入手していないレンズのほうがあとわずかという状態になってしまいました。
FL50mm F1.4 ×↓FL50mm F1.4 II 描写確認済み △↓↓FD50mm F1.4 S.S.C.(I) 描写確認中 △↓↓New FD50mm F1.4 当記事 ○↓
ちゅうわけで、今回、わたくしはキャノまにの仮面をかぶってFD時代の50mm F1.4をコンプリートすべく、New FD50mm F1.4の描写性能をあきらかにしてみたいと思います。CANONのレンズ開発の流れとしては、オートフォーカスのEF50mm F1.4 USMへ切り替わる前のMF最終型、とても興味深い分析となるはずです。
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あれ? Planarと同時代のレンズはあんまり違いが見えないから、もう取り上げないんじゃなかったっけ? なんて言われそうですが、実はこちらにも事情があるのです。
たしかにマルチコーティングが標準化した1970年代後半以降ともなると、高級レンズであれば反射防止性能は十分、50mmの描写も一定の完成度に達していて鑑賞者の視点ではそんなに違いは見えません。ようするに、オールドレンズの肝である「このレンズはこんな雰囲気で味がある」とは言い難くなるわけです。
それなのに、なぜNew FDなのか? その理由はひたすらレンズ比較の記事を書いている裏で地道に調べ続けているFD50mm F1.4三世代の謎にあります。
実は、FD50mm F1.4 S.S.C.(II)の設計変更は1976年のAE-1発売よりもあとだったっぽい。
となると、1979年発売のNew FD50mm F1.4の設計はS.S.C.(II)にかなり近いか、もしかしたらほとんど同じなんて可能性もあるのではないか?
このことを確かめるために、さしてロマンのないNew FD50mm F1.4、いってみましょうか!!
たしかにマルチコーティングが標準化した1970年代後半以降ともなると、高級レンズであれば反射防止性能は十分、50mmの描写も一定の完成度に達していて鑑賞者の視点ではそんなに違いは見えません。ようするに、オールドレンズの肝である「このレンズはこんな雰囲気で味がある」とは言い難くなるわけです。
それなのに、なぜNew FDなのか? その理由はひたすらレンズ比較の記事を書いている裏で地道に調べ続けているFD50mm F1.4三世代の謎にあります。
実は、FD50mm F1.4 S.S.C.(II)の設計変更は1976年のAE-1発売よりもあとだったっぽい。
となると、1979年発売のNew FD50mm F1.4の設計はS.S.C.(II)にかなり近いか、もしかしたらほとんど同じなんて可能性もあるのではないか?
このことを確かめるために、さしてロマンのないNew FD50mm F1.4、いってみましょうか!!
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テッサー!!(風を切るイメージで)
というのはオールドレンズに足を踏み入れた方なら、多少なりとも聞き覚えがある言葉だと思います。テッサーおよびテッサータイプというのはその昔、一世を風靡したレンズ構成であり、望遠/標準/広角はもとより、マクロ、暗室引き伸ばし、コンパクトカメラなど、ありとあらゆる領域で長年にわたり活躍しました。
ここで、いま一度、テッサーを理解し直すために写真レンズの発展の歴史をごくかんたんに説明しておきます。これを知ると知らないとでは、戦前戦後のレンズを頭のなかでイメージできる度合いが違ってきますし、今後の記事の布石にもなるので。(このあと、当シリーズ記事は第二次世界大戦直後のレンズからノンコート時代に足を踏み入れる予定です)
ここで、いま一度、テッサーを理解し直すために写真レンズの発展の歴史をごくかんたんに説明しておきます。これを知ると知らないとでは、戦前戦後のレンズを頭のなかでイメージできる度合いが違ってきますし、今後の記事の布石にもなるので。(このあと、当シリーズ記事は第二次世界大戦直後のレンズからノンコート時代に足を踏み入れる予定です)
~ 収差をまんべんなく抑えることに難儀していた時代 ~
約1886年 ショットが新ガラスを発明
1890年 ツァイスのルドルフがすべての収差を補正できるプロターを発明
1894年 合理的かつ発展性があり、明るく透過率も良く、
安価に製造できるトリプレットの発明1899年 ルドルフがウナーを発明
1902年 ルドルフがウナーとプロターを組み合わせ、テッサーを発明
~ テッサーが大ヒット ~
1932年 Contax I型と交換レンズのテッサー、ゾナーが発売
~ 反射防止コーティングの発明、実用化 ~
1939年 第二次世界大戦勃発
アメリカで新種ガラスの発明
1945年 終戦
~ 反射防止コーティングと新種ガラスがひろまり、
現代へ通じる写真レンズの高性能化がはじまる ~
※太字がツァイスが関与した事柄※これらはレンズ設計の歴史のごく一部にしかすぎないことに注意【参考文献】「アサヒカメラ 1992年2月号」[特集] コンタックスレンズ研究 コンタックス用レンズの発達吉田正太郎 著 朝日新聞出版社「アサヒカメラ 1996年12月号」[特集 I] カール・ツァイスの150年 プラナーの100年 ツァイス・イコンの70年高島鎮雄 著 朝日新聞出版社「レンズデザインガイド」高野栄一 著 写真工業出版社
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その辺写真の機材ブログ。画像と記事は時々整理、日付も変更。
お問い合わせ: ahocontaxmania@gmail.com

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*メインはCONTAXレンズで、その他ROLLEI、HASSELBLADなど少々。レンズ構成ごとにページが分かれていてわりと読み応えあり。ボディはなし。乱発され内容も薄かったこのシリーズの中で唯一面白かったZEISS本。作例よりも語り中心。
*おすすめ。文字の分量は少なめだが書いてあることは濃い。写真よし、記事よし、品よし。
*おすすめ。レンズ描写にテーマを絞っていて文章が読み応えあり。内容的には無難なレンズ本と濃厚なマニア本の中間あたりで、レンズの特徴はそれなりに出ています。いまいち売れなかったのは作例に面白味がないため。
*メーカーの公式本。たしか、MM時代のレンズ群にMTFチャートとプロの作品とZEISS技術者のインタビューなど。メーカー発なので当たりさわりのない内容、コレクター向け。定価4,000円くらいの豪華本だったので、それを目安に購入検討を。
*詳細なボディ解説で、たしかレンズはクローズアップされてなかったはず。あんまり記憶に残っていません。
*「季刊クラシックカメラ 10ツァイスTレンズの描写力、表現力」に参加している築地氏が書いているので兄弟本みたいな内容。平均以上の充実度ですが、わりとあちこちに記事を寄せている人なので内容が重複する印象あり。
*CONTAXレンズを数値評価でばっさり。当時のユーザーの情熱的な声とは対照的に、たいして褒められていないのが面白かったり。
*90年代クラカメブームの隠れた先駆者で、古今東西のレンズを一律で横並びに評価した記事は一部の人たちにじわじわと火をつけました。レンズの階調描写について水墨画の複写を例に出していたのは今にして思えばまさに的確。レンズ評そのものは淡泊なので、ネット時代に参考になるとしたら機材運用に対する現実的なものの見方でしょうか。
*マルミ製リアキャップ。形は純正とは違います。
*Planar 50mm F1.4はこの67mm金属フードに55-67ステップアップリングを合わせると軽快かつほどほどの深さでベター。
*上記組み合わせの55-67ステップアップリング。
*中華アダプタやレンズフードの反射防止に。
*ここまでのクオリティがいるかはともかく、安心の国産アダプター。中国製を選ぶ方は確実な遠景撮影ができる代わりにミラー衝突の危険が高まることを承知の上で。宮元製作所の直販サイトの方が安いかも。