ぐるぐるぐるぐるぐるぐるっ!

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グルグルボケのレンズといえばBiotar 58mm F2とHELIOS-44シリーズ(58mm F2)で、この二銘柄は昨今のオールドレンズ界隈の定番アイテムといえるほどの存在です。特にHELIOSは安価なロシア製かつ、長い間大量に生産されてきたということで、とても購入しやすいレンズとなっています。

そのHELIOS-44シリーズで笑っちゃうのが、その製造期間。なんと、1930年代のBiotar 58mmの基本設計をコピーして、1999年?の製造終了までたっぷり40年近くグルグルという欠点の目立つレンズを作り続けていたなんて、どれだけ競争意識がない独自路線なのかと(笑)。4群6枚の58mm F2なんて、70年代に突入したあたりで普通に高性能化できたはずですが……。(われらが社会主義はこれでいいのだ! 同志スターリン! ( ̄ ^  ̄)ゞ)

もちろん、時代が進むにつれレンズ製造の環境も変わってくるので、同じ基本設計を守り続けていても硝材は良くなりますし、それに合わせた小改良もあるでしょう。さらにコーティング技術の発展も。


というわけで、当記事はHELIOS-44シリーズを‟時空を超えるレンズ”として(べつに瞬間移動はしませんが)、できるかぎり製造年代の離れた本家本元のBiotar 58mmと比較し、その描写がどれほど変わったのか? 変わっていないのか? を確かめることにします。

Casual Photophile
Carl Zeiss Jena Biotar 58mm f/2 – Lens Review

第二次世界大戦後、Carl Zeiss Jenaの工場はソビエトの占領地域に落ち、戦争の賠償としてソビエトは工場の設備、計画、さらにはドイツの技術者さえも奪いました。ZeissのBiotarは、ソビエト連邦には存在しないドイツのショットガラスで動作するように製造されていたため、ソビエト光学の父として知られているD.S.Volosovによって、ソビエトの光学ガラスで利用可能なガラスに光学式を再計算する必要がありました。

レンズはモスクワ近郊のKMZ工場で製造され、長年にわたって数多くのバリエーションがありました。最初のHelios-44は、1958年のStart cameraに付属していました。

M42 Mount Spiral
Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm/F2 3-SISTERS (M42) カールツァイス・イエナ ビオター 3姉妹
https://spiral-m42.blogspot.com/2010/11/carl-zeiss-jena-biotar-58mmf2m42.html

HELIOS-44(M39), 44-2(M42), 44M(M42), 44M-6(M42) 44M-7(M42) 58mm/F2 and Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm/F2(M42)

※基本的な事柄を理解するために、がっつり参考にさせていただきました。


今回、取り上げるのはこのふたつ。

Biotar 58mm F2 1946年 4群6枚 シングルコーティング EXAKTA ※戦後の初期型
MC HELIOS-44M-5 199?年 4群6枚 マルチコーティング M42

その発売年の違いはざっくり50年前後。ちょうど、おぎゃあっ!て生まれた赤ちゃんがちょび髭のおじさんになって、かわいい孫にスリスリしていてもおかしくありません。それだけの長い年月がありながら初期の基本設計を守り続け、最後までグルグルボケが除去されることのなかったHELIOS-44シリーズは、なぜ途中で抜本的な改良が加えられなかったのか? そもそも、なぜBiotar 58mmはグルグルボケというあきらかな欠点をかかえる設計バランスになったのか? 

これらの疑問にも、独自の視点で切り込んでみたいと思います。お楽しみに~~!


※まず最初に、残念ながら、比較に用いたBiotarはどうも像面の傾きがあるらしく、HELIOSと左右の丸ボケの量が微妙に違うことが判明しました。いろいろ撮影してみても、あきらかにBiotarの画質が狂っているというほどでもないので比較は成立するのですが、いつものように細かな画質差に言及することはさすがにできません。

本来は良い個体を買い直すべきなのですが、戦後初期のBiotarくらいになると市場に流通しているのは消耗したレンズが大半となってしまうためにそれも簡単ではありません。したがって、今回は厳密に設計の差異を見分けようとするのはあきらめて、妥協ありきで比較を進めたいと思います。残念。



最初の画像がBiotar 58mm F2(戦後の初期型)、後の画像がMC HELIOS-44M-5ですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


絞りF5.6
もともと開放性能は高くないので、絞り込むとぐんぐん画質が上がります。
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Biotarは黄色味が強く、HELIOSはやや青いのですが、絶対的な色味としてはHELIOSもニュートラルからやや黄色方向に寄っています。また、BiotarもHELIOSも何世代かあるので、硝材が変わるごとに色味が動いているはずです。
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落ち着きのないボケですが、さて、これが気になりますか?
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Biotarは逆光でも大きな破綻はしません。
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HELIOSは内面反射対策に問題があり、フレアっぽくシャドー浮き。
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絞りF4
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逆光でのHELIOSのフレアっぽさは、絞ることで改善します。(※絞り羽根がフレアカッターの作用をするため)
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形のはっきりしない後ボケはどんなレンズでも荒れません。
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若干、ざわついていますが、こういった中途半端な被写界深度では多少なりとも絞るのがセオリーです。逆に、旧来のセオリーを崩すのが近年のオールドレンズの使い方。
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HELIOSは画面内のどこかに強い光があると、フレアっぽく軟調化します。
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人工物はのっぺりしているので、そもそもボケがざわつきません。
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左のボケが荒れていますが、普通ならこういう絵は一段か二段絞ってボケを落ち着かせます。
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40年以上もの発売年の差があるはずですが、両者にボケの違いは見えません。
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古めかしいぼてっとした画質+グルグル感。
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絞りF5.6
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丸ボケは中央がやわらかく、端はきつい二線ボケと変形があり均一感はありませんが、なだらかな変化に見えます。
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絞り開放は厚みのある軟調描写なので、そのへんの物をぱっと撮っただけで雰囲気が出ます。
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HELIOSは差し込んでいる光で中央付近がさらに軟調化。
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絞りF2.8
絞るとぎゅっと画質が締まります。
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HELIOSは絞ることで内面反射のフレアを切ることができます。
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これぐらいうるさい背景でもグルグル感は薄く。
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ボケ描写に差異は見いだせません。
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グルグルの発生条件は中途半端なボケ。
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例によってHELIOSはソフトタッチ。
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今回の撮影で一番、派手な絵です。
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絞りF5.6
数値性能は分かりませんが、とても真っ直ぐです。
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こちらも真っ直ぐ。設計バランスは何も変わっていないことが推察できます。
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寄ると、とろんと写るので草花には向いているレンズです。
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ボケが大きくなると、さしたるグルグル感はありません。
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絞りF8
絞り込むとビシッと写りますが、端の方はやや甘いです。
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絞り込んだときのコントラストは新しいHELIOSのほうが上。
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絞りF8
2400万画素では等倍で見ても実用十分の画質です。ただし、画面端は崩れるというほどでもありませんが怪しい描写です。
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HELIOSのほうが微妙に高画質かな?というくらいで、等倍の印象はまったく変わりません。
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内面反射の影響により、シャドーの浮いたHELIOSのほうが詩的。
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本来は絞るべき絵ですが、思ったより普通に写っています。
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絞りF8
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鏡胴内部に反射要因がないので、完全逆光でもおだやかな画質低下です。ただし、さすがに初期のシングルコーティングなので右下方向にゴースト。
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こちらは内面反射による派手なフレア。オールドレンズとしてはこのほうがうれしい?
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絞りF5.6
直線の歪みがないので、人工物はとても気持ちよく写ります。
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強い光の影響がなければ、マルチコートのHELIOSのほうが色抜けは上です。
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ぐるぐるぐるぐるぐるぐるっ!

しないよ! 

……あれ? 

( ˙ - ˙ )( ˙ - ˙ )( ˙ - ˙ )( ˙ - ˙ )( ˙ - ˙ )( ˙ - ˙ )


というのは画像を見ていただければ一目瞭然、世間でグルグルレンズと判を押されているBiotar、HELIOSともにほとんどの場面で強いグルグルボケなんて発生しませんでした。

この結果がたまたまの個体差でないのは、実際にBiotarやHELIOSを手にした方から「意外とぐるぐるしない……」という声が上がっていることから間違いなく、ようするにこれもまた日本のオールドレンズ市場でありがちな言葉のインパクトだけが実際の描写よりも先行してしまっている例だと思います。

正直な話、これだけグルグルが言われているのだから、2013~14年にLomographyが企画した新造ペッツバールレンズみたいに豪快な回転ボケを想像していたのですが……。

ePHOTOzine
Lomography x Zenit 85mm f/2.2 Petzval Art Lens Review
https://www.ephotozine.com/article/lomography-x-zenit-85mm-f-2-2-petzval-art-lens-review-24105

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ここで、また誤解を生んでしまうと面倒なので訂正しておきますが、たしかにグルグルボケは出るんです。でも、とても限られた条件でしか出ません。例えば、被写体の背後に細かく密集した草木があると出やすいのですが、それもできるだけ小さなボケ量、あるいはピント面から連続したボケに移行しきらない絵でなければいけません。大きくボカしてしまうと非点収差由来の像ブレは目立たなくなり、個性的な回転感は消失します。これが街中などの景色になるとどうでしょうか? 人工物はもともとのっぺりしたディテールの集合体が多く、ボケの荒れは本質的に見えにくいですし、回転感を生む要因のひとつである画面全周のレモンボケは夜景などの特殊条件を除いてほとんど得られません。

つまり、公平に言ってBiotar 58mm F2やHELIOS-44シリーズは条件によっては回転感のある乱れたボケが楽しめますが、それはいつでもどこでも得られるわけではなく、グルグルがあたかも得意技のように宣伝されるのは少し違うのでないかと思います。


BiotarやHELIOSのグルグルボケは頻繁に画面に現れるようなものではなかった。この事実を踏まえると、これらの基本設計の狙いが浮かび上がってきます。(HELIOSはBiotarのコピー品なので、これ以降はBiotarに限定して話を進めます)

専門的には、Biotarのグルグルボケは非点収差(非点隔差)の大きさが原因であり、設計者は他に優先すべき収差補正があったのでボケの乱れには目をつぶったと考えるのが妥当でしょう。1930年代の大口径レンズで、すべての項目を一定以上の水準に整えるなど、土台無理な話でしょうから。

では、設計者はなにを優先したのか? それは実用的観点に基づくトータル画質ではないかと思います。


Biotarを使ってみると驚くのは歪曲をほぼ感じないことです。昔の一眼レフ用レンズは設計が苦しいから直線が歪んでも仕方がない、などという思い込みがあると、Biotarのびしっと立つ建物描写は気持ちがいいほどです。解像力とコントラストははっきり言って優れていませんが、58mm F2というスペックの余裕からかその全体画質はとても落ち着いた雰囲気で、近接域ではさらに甘やかな味が増します。特筆すべきは色収差で、逆光撮影では被写体がカラフルに縁取られることもなく、とても堅実な万能性を備えているといえます。

総じて、Biotar 58mm F2は戦前の設計にしてはバランスの良い写りで、Bokehに固執しない通常の撮り方ではほぼグルグルは問題になりません。それでも、像流れが目についてしまうような状況はとても中途半端なボケを生み出すメリハリのない距離感や被写体配置であり、そういった場合、写真家は自らの写真術として多少なりとも絞り込むことを選択するはずです。冷静に考えてみてください。グルグルボケが魅力的だから作画に生かそうなんて考え方は、デジタル時代の新しい潮流なのです。

おそらく、Biotarの設計者は通常撮影でさして目につかない(発生したとしても絞り込めば回避できる)グルグルボケ――非点収差を補正することは重要でないと割り切り、その余力でもっと目立つ歪曲収差を筆頭に、被写体像に直接関与する収差補正に注力したのではないかと思います。

これを端的に表せば、Bokehよりもピント面を重視した設計といえますが、忘れてはならないのはBokehとピントは複雑に絡み合っている事実であり、Biotarは非点収差によるグルグルボケを修正しなかった結果、画面周辺部のピントはあきらかに悪くなっていますし、解像力ばかり重視してボケ味をさらに悪化させてしまう球面収差の強い過剰補正型(二線ボケの発生原因)も選択してはいません。Biotarの設計バランスはあくまで精妙な検討の結果であり、当時の実用的観点からこれで十分であると結論付けた設計者のリアリズムが体現されたもの、というのが今回の比較撮影で得た自分の見解です。

この考察がどれほど真実に近づいているかは当記事に掲載した画像を精査するなり、皆さんが実際にBiotarやHELIOSを使ってみてご判断ください。ただし、そのような設計意図をロシアの技術者が理解していたとするならば、HELIOSが抜本的な改良を受けることなく延々と作られ続けたのも納得できます。普及型レンズの写りとしては、まさにこれで十分だと。


そしてもう一点、大事なのは、BiotarやHELIOSがグルグルボケ以外でも現在の評判を得ていることで(※特に海外ではsweetな写りをする古典的レンズという論評を見かけます)、これが設計者の巧みなバランス感覚が再評価された結果だとしたら夢のある話だと思います。戦前戦後にBiotarを手にしたひとたちが、その時代の機材環境で実際にどう思ったか?などは知る由もないのですが……。



で。

今回の記事で一番重要な部分、MC HELIOS-44M-5は50年近くもの時空を超えて、Biotar 50mm F2からどれほど変わったか、変わらなかったのか、というと……

本当に描写はまるで変わらず、グルグルボケの量も発生具合も同じ感触でした。当然、歪曲その他の収差補正も明確な変化は感知できず、すでに先人たちの研究やZENITのWEBサイトで明らかにされているように、発売年の遅いMC HELIOS-44M-5のほうがコントラストと解像力が上がっているという妥当な結果となりました。わずかにHELIOSのほうが画角が狭かったのですが、これは個体差でもあり得る話であり、優秀な色収差補正もそのままでした。(※最初に注記したとおり、Biotarに像面の傾きがあるようなので、微妙な収差量の変化については言及できません)


MC HELIOS-44M-5はBiotar 58mm F2の画質を受け継ぎながらコントラストと解像力が上がっていて、マルチコーティングまで付与されている、これは大昔のレンズが近代化されていることを意味し、むしろグルグルボケ以外は味が薄れたと言えるかもしれません。たしかに、ガラスの抜けの悪さからくる描写の厚み、繊細なフレアなどの郷愁感はBiotarのほうが上なのですが、しかし、さすがロシアレンズ、只者ではありませんでした(笑)。


硝材やコーティングの進歩により、本来なら、より画質が上がっているはずのMC HELIOS-44M-5はコストダウンによって逆光にとても弱くなっているのです。まるで、Planar 85mm F1.4 AEGか?というくらい。(あ、いまワクワクした人います?)


左: Biotar 58mm F2  右: MC HELIOS-44M-5 (ハレ切りなしで共通)
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左: Biotar 58mm F2  右: MC HELIOS-44M-5 (ハレ切りありで共通)
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つまり、それだけ正面寄りの光に敏感に反応し、おおっぴらなフレアやコントラスト低下が起こるということで、なぜそうなるか?というのはMC HELIOS-44M-5の前玉側にプラスチックみたいな鏡枠が差し込まれているからです。そんなふうに反射防止の甘い側壁がレンズ内部にあれば、どう頑張っても逆光での画質低下は防げませんし、実際、それがより近代化されたHELIOSにクラシカルな味わいを付加しているというわけのわからない状態になっています。たぶん、このコストダウンのプラス面についてZENITは予想できなかったはず(笑)。


( ̄ー ̄) ニヤリ < べつにこんぐらいの手抜きしてもいいだろ?

ヾ(≧∇≦)〃.☆ キャー < ふんわりエアリー!!


MC HELIOS-44M-5は古いBiotar 58mm F2に比べ、ピントもよく決まるしコントラストも良好な透明感のある画質です。ただし、コストダウンされたいいかげんなパーツがフレアいっぱいの雰囲気描写をもたらすという、とてもおもしろいレンズでした。



【Biotar 58mm F2(戦後の初期型)とMC HELIOS-44M-5の違い】

色調  相対的にBiotarはHELIOSよりも黄色い
明るさ  HELIOS>Biotar
コントラスト HELIOS>Biotar

先鋭度  HELIOS>Biotar
ボケ  Biotar≒HELIOS
歪曲補正  Biotar≒HELIOS
周辺光量  Biotar≒HELIOS

逆光性能  Biotar>HELIOS
絞り羽根  Biotarは17枚 HELIOSは6枚
最短撮影距離  Biotarは90cm HELIOSは50cm


結論として、両者のレンズ評価は、

Biotar 58mm F2(戦後の初期型): まさに古い時代を体現した厚みのある階調に繊細なフレア
MC HELIOS-44M-5 : Biotarよりもクリアな描写なのに、逆光にかんたんに負けるふんわり描写

と、どっちも別の意味で味わいがあるという、なんとも予想外のものになりましたとさ!


【補足】
  • MC HELIOS-44M-5は44M-6、44M-7と同じ鏡胴なので(※ZENITのおでんマークあり)、いちじるしく逆光耐性を落としているパーツもすべて同じだと思われます。
  • Biotar 58mm F2にはヘリコイドアダプターを装着して最短撮影距離をHELIOSと揃えています。
  • Biotar 58mm F2がとても古めかしい描写とはいっても、プリセット絞りとなる次のモデルですでにコントラストは上がっています。


今回、使用したのは外観に癖のないこのタイプ。