解像力がものすごいFD50mm F1.4の最終章で、初代とS.S.C.のII型を比べます。

べつにFD/FLマニアでもないのに、なんでそこまでするのかというとFD50mmは安いからではなくて、この50mm F1.4はどうもマイナーチェンジの回数が多いらしく、しかも、アサヒカメラで計測された数値は一番最初のモデルだからです。つまり、すごいすごいと騒いでいたFD50mmの解像力はS.S.C.のII型には当てはまらない可能性があり、しかしそうは言っても、同じレンズ構成なのだからそこまで明確に性能が変わることはないだろう、ということで画質を調べたのがここまでの記事となります。

このFD50mm F1.4がいろいろめんどくさいレンズである理由は、そもそもCANONの公式ページが堂々と間違いを載せているからです。それはこんな感じ。

CANON CAMERA MUSEUM

誤)
FD50mm F1.4 1971年3月 黒のフィルターリング、Aマーク
FD50mm F1.4 S.S.C.(I) 1973年3月 黒のフィルターリング、Aマーク
FD50mm F1.4 S.S.C.(II) 1973年6月 黒のフィルターリング、〇マーク
     ↓
たぶん、正)
FD50mm F1.4 1971年3月 銀のフィルターリング、〇マーク
FD50mm F1.4 S.S.C.(I) 1973年3月 黒のフィルターリング、〇マーク
FD50mm F1.4 S.S.C.(II) 1976年?月 黒のフィルターリング、Aマーク

※当時のカメラ誌などで突き合せ確認をしていないので、発売年月日はこれで確定ではありません。

この中で外観写真の間違いはいちおうは同じモデルなので許せるとしても、一番、重大なのはS.S.C.(II)の発売年月日で、たった三か月でマイナーチェンジって、このレンズにいったい何があったの?と驚いてしまいます。しかし、他のレンズをながめるとII型の発売年はほぼ1976年で、仮に50mm F1.4だけが先行でモデルチェンジしていたとしても、絞りリングの〇マークからAマークへの変更の足並みがそろわなすぎるのは工業製品としてあきらかにおかしいです。つまり、客観的に考えられるのは、外観写真でこれだけ間違いをやらかしているWEBページなのだから、FD50mm F1.4 S.S.C.(II)の発売年は単なる入力ミスの可能性が高いということです。

英語版 Wikipedia
Canon FD lens mount

The third variant, made from 1976 to the end of production of breech ring FD lenses (around 1980) changed the green "o" to a green "A" and the chrome aperture ring lock button was changed from chrome to black.

というわけで、1971年 - 1973年 - 1976年(仮)と三つのモデルがあるFD50mm F1.4の描写がどこかで変わっていてもおかしくないわけで、それを確かめるために初代の描写を見てみよう!というのが今回の趣旨です。当然、その疑いもあてずっぽうではなく、前回の比較で感じた違和感が元となっています。

果たして、この推測の結末は……。


まず最初に重大な注意点ですが、今回、新たに入手したFD50mm F1.4は後玉表面のコーティングに若干の劣化がありました。これがなかなか微妙な状態で、ある程度以上の強い光を通さないかぎりレンズの透明度にはまったく影響がないという悩ましいものでした。そういった不完全なレンズは本来、比較には使えないのですが、まあ基本的な写りはS.S.C.のII型で掴んでいるし、解像力をテーマとするなら逆光の写りは見なくてもいいだろうということで、 新たに正常な個体を探すことはやめにしました。そんなわけで、当記事では逆光撮影はなし、したがって絵柄のバリエーションが少なくなっている、ということにあらかじめご留意ください。



最初の画像がFD50mm F1.4、後の画像がFD50mm F1.4 S.S.C. (II)ですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル
※今回に限り、逆光撮影はなし


絞りF4
初代はS.S.C.(II)よりも微妙に青みがありますが、この程度なら個体差ともいっていい範疇です。
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画角はS.S.C.(II)のほうが広く、ライカ基準の51.6mmよりも短めと思われます。
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絞りF8
絞り込むとコントラストは同一、解像力は場面によって“かすかに”違いが見えます。
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絞りF8
等倍画像を観察すると、ごくごく微妙に初代のほうが高解像と思える箇所があります。
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絞りF4
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絞りF2
ピントは左の白いネジ。
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絞りF4
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なぜ、実効焦点距離の長い方が中央のボケが小さいのか理由が分かりません。
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絞りF2.8
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絞りF2
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斜光なので直射光は完全にフードで切られています。球面収差の過剰補正量が大きいのか、初代は光の滲みが大きいです。
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絞り開放のみ細部のコントラストはS.S.C.(II)のほうが上ですが、ハロはそれなりに出ています。
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柔らかい光では、初代のほうが暗く写ります。今回の個体はごくわずかなコーティング不良があるので、この件についての考察は保留です。
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初代は中央の丸ボケの輪郭線がS.S.C.(II)よりも強く、端のボケは微妙にやわらかい感触。
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基本的な画質はまったく変わっていません。
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絞りF5.6
歪曲も変化なく、両者ともにPlanar 50mm F1.4 AEJよりも多少マシといった程度。
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絞りF4
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同一設計のレンズで中央のボケが小さく、端のボケは同等というのはどういう現象なのでしょうか?(普通は口径食の影響で逆になる)
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被写体に強い光が当たっているので、明確にハロの差が出ています。
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S.S.C.(II)のほうがスッキリ。
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古いレンズなら確実にボケがざわつくところですが、さすがに設計が良く安定した背景描写です。
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いや~、わたくしベイヤーセンサーの2400万画素あたりではある程度以上の解像力の差なんてわからないと経験上申しておりましたが、どうやらそれは間違いのようです。きっちり等倍でのピントの入り方まで神経を使った結果、FD50mm F1.4とFD50mm F1.4 S.S.C. (II)という同一設計を元にしたレンズ比較では、解像力(細部の鮮明さ)の違いはかすかに画質に表れていました。すなわち、周辺画質は初代FD50mm F1.4のほうが優れている可能性が高い。


これが違う銘柄のレンズならさまざまな収差補正、特に像面湾曲の違いによって微細な解像力の差などうやむやになってしまうのですが、最初、単純なピントのズレかな?と思った周辺画質の差が、あらゆる場面で確認できてしまうのです。その結果、ああなるほど、アサヒカメラで計測された数値はまさにFD50mm F1.4の初代を表しているのだなと、素直に納得できました。

とんでもない解像力を持つ50mm F1.4は初代FD50mm F1.4で間違いありません。ただし、それを体感できるのはF2以降の話。


昔のオールドレンズでよく見られるのが球面収差の過剰補正型です。これは、当時の技術ではバランスをとることが難しかった球面収差をやりすぎというほどに補正することで、絞り開放のフレアっぽさを許容しながら半段~1段絞った後の画質を理想的なものとする、ある意味とても合理的な方式です。FD50mm F1.4もこの例に漏れず、絞り開放ではふわっと細部が滲んだようないまひとつ締まりのない画質で、特に逆光気味や反射の強い白っぽいディテールなどではその傾向が顕著となります。


【画面中央付近】
左: FD50mm F1.4  右: FD50mm F1.4 S.S.C. (II)
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左のように解像線の緻密さがありながらフレアっぽいのが典型的な解像力重視の過剰補正型で、これに対し、撮影者の観点からキレがあると感じるのが右の画像です。つまり、初代FD50mmはS.S.C.(II)よりも計測的な意味で解像力が高いことが予想されるのですが、絞り開放だけは細部にフレアっぽさがあるのでそれほど高画質には感じないということです。

そして、これらの比較により、前回、S.S.C.(II)で感じた違和感が間違いではなかったことが証明されました。明確な過剰補正型であるはずのFD50mm F1.4 S.S.C.(II)は、絞り開放で完全補正型のPlanar 50mm F1.4 AEJに迫るほどのマイクロコントラストの高さを見せていましたが、それは初代FD50mm F1.4とは微妙に画質が変わっていたからです。


やはりFD50mm F1.4 S.S.C. (II)は設計変更を受けていた。では、どの収差がどのように?


これが難しく、初代とS.S.C.(II)は等倍を精査してもほとんど変わらない画質といえ、FD50mmにずば抜けた解像力を与えていると思われる特徴的な画面周辺部の光の切り方やそれに関連したコマ収差の見え方までも同一なのです。唯一、手がかりとなるのは、画面中央付近の丸ボケが初代の方が実効焦点距離が長いのにボケ量が小さく輪郭線が強まっていることで(※本来は実効焦点距離が長ければボケの拡散量が増える)、これにより、どうやら球面収差の補正カーブが変わり、マイクロコントラストが上がった分だけ解像力が影響を受けたのがS.S.C.(II)と考えられます。

この推測を裏付ける事柄として、CANONの50mmは球面収差がFD50mm F1.4(過剰補正量0.20mm)→New FD50mm F1.4(過剰補正量0.05mm)→EF50mm F1.4 USM(過剰補正量0.00mm)とかなり明確に完全補正型へと進んでいった流れがあり、初代FD(過剰補正量0.20mm)とNew FD(過剰補正量0.05mm)の間でワンクッションとして過剰補正量が減らされていてもおかしくないことと、S.S.C.(II)のマイクロコントラストの向上は中間画角までであることが挙げられます。(※画面の端の方は球面収差よりも他の収差のほうが支配的なため)


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① 左: FD50mm F1.4(F1.4) 右: FD50mm F1.4 S.S.C. (II)(F1.4)
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ここで、初代とS.S.C.(II)の画質の違いを簡単にまとめておくと、設計の方向性はまったく変わらずほぼ同じ写りですが、絞り開放のくっきり感だけは確実に差があるといえます。これにより、F2以降はどちらも高画質ながらF1.4の扱いやすさが若干違い、より無難で現代的なのがS.S.C.(II)、コーティング性能も含めてやや古めかしさを感じさせるのが初代となります。これらの基本設計について、詳しい解説は前回の記事をご覧ください。

Planar 50mm F1.4再考 #24 FD50mm F1.4 S.S.C. (II) 野外比較


さて、このあたりでFDマニアの方にはどうしても突っ込みたいことがあってムズムズしていたことでしょう。はい、わかります。FD50mm F1.4にはS.S.C. のI型があるけど、こっちはどうなんじゃい!という疑問です。

いやー……さすがにめんどうなのでこれ以上、調べる気はないのですが、CANONの公式をまるまる信用すると、初代 22,000円→S.S.C.(I) 25,500円→S.S.C.(II) 32,000円という価格の変更から、大幅に価格が上がったS.S.C.のII型で画質調整が入ったと考えるのが妥当ではないでしょうか。販売戦略的にも、一回目のマイナーチェンジでマルチコーティングの付与、二回目のマイナーチェンジでより良い硝材が調達できたと仮定するとしっくりきますし、完全補正型の高性能タイプであるPlanar 50mm F1.4 AEJが登場したのも1975年11月となりS.S.C.(II)と時期が揃います。



【FD50mm F1.4とFD50mm F1.4 S.S.C. (II)の違い】

色調  初代とS.S.C.(II)はほぼニュートラル
コントラスト(開放) S.S.C.(II)>初代
コントラスト(絞り込み) 初代≒S.S.C.(II)

先鋭度(開放)  S.S.C.(II)>初代
先鋭度(絞り込み)  初代>S.S.C.(II)
ボケ  S.S.C.(II)>初代
歪曲補正  初代≒S.S.C.(II)
周辺光量  初代≒S.S.C.(II)

絞り羽根  両方とも8枚
最短撮影距離  両方とも45cm


本来、こういった微妙な画質差は何本も同じレンズを調べないと確定できないのですが、仮に個体差があったとしてもよほどの不良品でもなければ写りの基本特性が変わることはないので、おおむね妥当な見解ではないかと思います。が、そうはいっても自分自身が満足していないこの比較でこれが真実であるとは言い難いので、あくまでこれはひとつの調査結果としてお願いいたします。


最後に個人的な感想としては、FD50mm F1.4の解像力が優れているのは本当で、特に色収差の少なさと周辺画質の高さが印象的でした。ただし、初代FD50mm F1.4は絞り開放がややふんわりするので、最低でも一段以上絞って緻密なキレの良さを楽しむほうが向いているかなと思います。というのも、初代の絞り開放は微妙なフレアっぽさがあるにしても味というほどの雰囲気はなく、やや中途半端な使い勝手に感じるからです。その意味では、開放画質の改善されたS.S.C.(II)のほうがより順当な進化版といえ、まさに解像力重視からコントラスト重視へと転換していった時代の過渡期をあらわしているのがこの二者だと思います。

その昔、まぎれもなく最高峰の数値性能を実現した高画質タイプながら、1960年代の郷愁感から脱却しきれていない初代FD50mmF1.4、そこからの小改良によって1980~90年代の現代的な写りを予感させるFD50mm F1.4 S.S.C. (II)。

まあとにかく、FD50mm F1.4はF2以降を主体に目の前の景色をスパスパ切りまくれっ!!