えー、ただいまFD50mm F1.4という優れた解像力を持つレンズをテーマにしているので、ここでいったん「解像力とはなにか?」という部分について整理しておきたいと思います。


まず、世間ではレンズやカメラのとても良い写りを称賛する際に、解像力、解像度、解像感、シャープネスなど、さまざまな言葉がごちゃまぜで使用されていますが、果たしてそれらの用法は正しいのでしょうか? 

コトバンク

【解像力】
写真レンズで結像された像や写真感光材料上に形成された画像の画質を表わす量の一つで,どの程度まで細部を正確に再現しているかを示す。普通は 1mm幅の中に等間隔に引かれた線を何本まで分離して見分けうるかの最小値で表わす。

【解像度】
ディスプレー、プリンター、スキャナーなどで扱う画像の精細さを表す尺度のこと。画像を構成するピクセルの数で表し、数が大きいほど精細。

【解像感】
写真や画像のきめの細かさを表す言葉。「解像感が良い」

【シャープネス】
《鋭さの意》画像処理の方法の一。デジタルカメラなどの画像において輪郭を強調したり、逆に弱めて柔らかな印象にしたりすること。

【鮮鋭度】
~写真像が粒状性を呈することから,写真では被写体の細部の再現には限度があることが理解され,これと関連して写真像が鮮明に仕上がっているか否かという評価がなされる。写真像の鮮明さは鮮鋭度で表される。

これらをきちんと調べてみると、えー……自分たちの言葉づかい、めちゃくちゃじゃないか……と呆気にとられてしまいました。


まず、一般的に写真画像の高精細な写りを表すときに使える言葉は「解像力」「解像感」がもっとも無難と思われ、「解像度」はモニター解像度、印刷解像度などというように専門的な指標とともに語られているようです。「シャープネス」は画像処理を指し示す言葉なので論外ということになりますが、「シャープだ」という描線の鋭さをイメージした言葉づかいは十分伝わるはずです。また、その鋭さという単語を内包する「鮮鋭度」はまさに写真用語のようですが、写真画像の細かさをコントラスト主体で評価する言葉のようです。

特に注意が必要なのは、デジタル機器の世界でよく見かける「解像度」で、その用法はセンサー解像度(6000×4000px)など具体的な数値を示す場合が一般的であり、写真画質のような曖昧なものを評価する際にはいまひとつ馴染まない気がします。ただし、本質的にこの言葉にはどこまで細かいものを識別できるか?という意味合いがあるようで、工業用サイトでは高解像度レンズという言葉も出てきますし、専門的には解像力や空間分解能によって表されるのが解像度であるとの解説も見かけました。

次に「解像力」「解像感」の違いは何かというと、ずばりアサヒカメラの計測する二点分解能を指しているのが前者であり、そこまで専門的な表現でなくても、もうすこし感覚的な細部のくっきり感、キレの良さを伝えたいということで、誰もが等倍観察のできるデジタル時代に用いられはじめたのが後者ではないでしょうか。写真の世界では、解像線の細さよりも(マイクロ)コントラストの強さのほうが視覚的に強い印象を残すので、人の目で感じる精細感を言い表すには分解能とコントラストの両方を加味する必要があり、それがすなわちMTFという概念につながっていくわけです。


OLYMPUS
 顕微鏡の能力 その1 ~分解能と倍率~
https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/03/045/

基礎編でも簡単に触れている通り、顕微鏡の能力を決定する機能は、「2つあるものをしっかりと2つと見分けられているか」、「その見分けられたものが見やすい大きさに見えているか」、「そして見えているものがはっきり見えているか」、という「分解能」「倍率」「コントラスト」にある。
この顕微鏡の能力を決める3つの機能は、単独で成り立っているものではなく、それぞれ関わりあって成り立っている。

これは顕微鏡の話なので‟倍率”という要素が入っていますが、それを除けば、写真画質について重要なことをとてもわかりやすく説明しています。


たとえば、これがレンズの等倍描写だとして、分解能が高くてもコントラストが低ければ(細い線が出ていてもくっきり感がなければ)悪い写りであるというのが画像a、その逆に、コントラストが高くても分解能が低ければ(くっきり感があっても線が太ければ)やはり悪い写りであるというのが画像cです。当然、一番良い写りといえるのが、分解能とコントラストのバランスが取れている画像bです。

MTF曲線はこのような解像特性をグラフに表したもので、肉眼の印象とかけ離れない妥当な評価方法と言えるのかもしれません。

SIGMA
MTF曲線とは
https://www.sigma-global.com/jp/lenses/cas/product/popups/mtf2/

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このMTF曲線は、絞り開放時の空間周波数10本/mm(1ミリの中に白黒の組が10組)に対応する曲線を赤線、空間周波数30本/mm(1ミリの中に白黒の組が30組)に対応する曲線を緑線で示しています。
10本/mmの曲線が高いほど(1に近いほど)コントラストがよくヌケのよいレンズとなり、30本/mmの曲線が高いほど(1に近いほど)高解像度でシャープなレンズといえます。


……と、このような言い回しをすると、分解能のみを評価するアサヒカメラの解像力テストは、現実的な写真の写りから乖離していると思われるでしょうが、実はまったくそのとおりで、とあるレンズの写りが画像aに近い状態でも、チャートの線が分離できてさえいれば高い解像力であると評価されるのです。


このことについて、ライカ社はかなり早い時期に、学術的な解像力測定は実際の写真撮影には直接の関係がないとコメントしていますが、アサヒカメラ誌もそれを受けて、あくまでもレンズの欠陥(特性)を検知しようという意図であるという補足を載せています。


つまるところ、写真画像がフレアっぽくぼやっとしていても、その中に精緻な解像線がありさえすれば解像力が高くなるのがアサヒカメラの解像力テストであり、だからこそ、球面収差の過剰補正量やコマフレアの多い昔のレンズでも優れた数値性能を残せたわけです。


  • 解像力は二点分解能を示すもの
  • 解像力(二点分解能)の評価にはコントラストは加味されない(※コントラストが高ければ解像限界の識別に有利という側面はある)
  • したがって、解像力だけが高くても、写真の理想的な写りとは乖離する場合がある
  • 昔の大口径レンズは絞り開放でフレアっぽく写りながらも解像力が高い物が多い

それでは、以上の要点を頭に入れたところで、アサヒカメラの解像力測定ではトップクラスに位置するFD50mm F1.4とSUMMICRON-R 50mm F2のチャートの写りを見てみましょう。



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これが撮影画像で、L版の写真用紙に印刷したチャートの一部をガラス窓に張り付けています。当然、余計なものが映り込んでいるので、必要な部分以外はグレーで塗りつぶしています。チャートの貼り付け場所は通常のピント合わせで使いそうな領域を想定しているので、中心部や本当の四隅は外しています。

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このテストはあくまで実撮影に即したものとして行っているので、ピントの合わせ方はコントラストと解像力のバランスを取った中庸なものとし(※収差量によっては、必ずしもコントラストの最大点が解像力の最大点にはならない)、①、②、③とそれぞれピントを合わせ直して都合三枚の写真を撮影しています。したがって、今回、観察するのは像面湾曲の影響しないピンポイントの解像力であり、画面全体を一度に見る面積平均などは対象外です。また、絞り開放では周辺減光によって画面端にいくほどチャートが暗くなるので、それを後処理で補正しています。


※クリックで等倍表示
① 左: FD50mm F1.4(F1.4) 右: SUMMICRON-R 50mm F2(F2)
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いかがでしょうか? この比較で分かるのは、2400万画素のデジタルカメラ程度ではセンサー性能の限界が先にきてしまって、ある程度以上のレンズの分解能の差など分からない、ということです。それでも、まったく画質差が出ていないわけでもなく、フレアの量はもちろんのこと、チャートの濃さはさすがにF2であるSUMMICRON-Rの余裕が出ていますし、FDもF1.4ながら色収差が少ない特徴がよく見えています。

また、フレア/ハロのために細部に明瞭感のないFDがSUMMICRONと遜色ない数値性能を出していることから、解像力評価にはコントラストは重要な要素ではないことも証明されています。

アサヒカメラ ニューフェース診断室より
FD50mm F1.4(F1.4)         中心200 平均155(本/㍉)
SUMMICRON-R 50mm F2 前期型(F2) 中心224 平均131(本/㍉)


参考として、これがFD50mm F1.4をF8に絞り込んだ画像です。ハロによる曖昧さがなくなった分、偽色が出ていますが、細い解像線が描写しきれていないのは変わりません。この場合、コントラストが桁違いに良くなったために(MTF曲線が急激に底上げされたために)、画像の鮮明さが増したとでも表現すべきでしょうか。

① FD50mm F1.4(F8)
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では、なぜ2400万画素ではレンズの解像限界を見るのに足りないのか?というのは計算で推測がつきます。

まず、α7IIの画素数は2400万画素で6000×4000pxです。その長辺6000pxをセンサーサイズ36×24mmの横幅36mmで割ると166px、つまり1ミリに166本の線が描けることになりますが、隣り合った二本の線を描写するには空白の1pxが必要なので、166÷2で83。すると、1ミリの中に描ける線数は83本となりますが、ここで冷静に考えてみてください。この数値は黒1px、白1pxの限界解像で、これはモノクロセンサーか三層センサーのFoveonでなければ実現できません(※実際にはチャート線が1pxに近づくと輝度モアレが起こると思います)。というわけで、ローパスフィルターとデモザイク処理の入るベイヤー2400万画素は、ミリ83本よりもさらに少ない線数しか描写できないはずです。

通常、正確なデジタイズを行うにはサンプリング側に2倍の情報量が必要らしいので、83本÷2で41.5本。つまり、ローパスフィルター付き2400万画素フルサイズで完全なチャート再現ができるのは1ミリに約40本までの線ということです。アサヒカメラがミリ100本やミリ200本の線数を計測していることを考えると、フルサイズ2400万画素はそんなに少ない線数しか描写できないのでしょうか? これは間違い?


実際の画像で確認してみます。

① FD50mm F1.4(F8) ニアレストネイバーで400%拡大
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こうしてみると、指標の6付近は4pxごとの規則性があり、良好に黒と白を分離していることが分かります。そこからさらに線間の狭まる方へと進むと、だんだんと色が混ざり合って描写が怪しくなっていき、指標8を越えるとそれまでなんとか描写できていたチャートの黒線も曖昧になります。

この結果から、ローパスフィルター付きフルサイズ2400万画素でチャートの黒白を明確に分離するには4pxが必要であり、その4pxで1ミリに何本の線数が描写できるかは数字に強い人なら自明でしょう。

ここで、また違う計算をしてみます。

フルサイズ2400万画素の画素ピッチはセンサーサイズの長辺36mm÷6000pxで0.006mmです。4pxが繰り返し線を正しく描写できる最小単位とすると、0.006×4=0.024mmで1セット。これが1ミリに何個入るか?を計算すると、1÷0.024=41.6個。先ほどと近似した数値が出てきましたが、4pxで良好な繰り返し線が描写できているその部位はミリ40本の解像線ということです。

指標6と8付近のチャートの縦幅の差からざっくり計算すると、なんとか黒線が描写できている(正しい輝度情報が取れている)部位はミリ53本に相当し、ローパスフィルター付きフルサイズ2400万画素ではそれ以上のチャート線は再現不能という結論となりました。


以上をまとめます。

  • フルサイズ2400万画素の理論上の解像力はミリ83本
  • しかし、ローパスフィルター付きベイヤーで再現可能な線数はそれよりも下がり、およそミリ40本前後
  • そのようなセンサー性能でレンズの解像限界は見えないが、コントラストの差は如実に見える
  • したがって、現在のメーカーがMTFを指標とし、10本/mm~40本/mmで性能を見ているのは理にかなっている
  • 参考値として、フルサイズ4200万画素(α7R III)の理論上の解像力はミリ110本、ベイヤーセンサーで再現可能な線数はミリ50~60本あたり?

フルサイズ2400万画素というのは今現在のスタンダードであるわけですが、ミリ40本程度の解像力しかないとするとけっこう腰砕けだと思います。なにせ、アサヒカメラの解像力テストでは画面端の一部分でもそれぐらいの数値は出ていますし、中央ならミリ100本超えは当たり前、高性能なレンズならミリ200本にも達するわけですから。

では、その性能は単なる贅沢なのか?という疑問に対しては、はるか昔にアサヒカメラの記事が明確に答えています。いわく、仮にフィルムの解像力がミリ30本だったとしても、それに対応するレンズが同じ解像力では画質が悪すぎて(収差が多過ぎて)、まともな描写が得られないと。

要するに、レンズが撮影媒体の二倍、三倍もの解像力を持つのは写真画像に実質的な影響をもたらす解像線の質を上げるためであり、たしかにコントラスト性能はやや違う話となるが、癖のない素直な画質を得るために収差を取り除くと必然的に解像力は高くなる、ということらしいです。

アサヒカメラ1993年12月増刊号 
カメラの系譜 郷愁のアンティークカメラ III レンズ編

レンズ雑学辞典 用語編 
1958年11月号からの採録
「解像力」小穴純(東大理学部教授)




そして、重大な注意点ですが、解像力テストは黒白の繰り返し線を撮影する特殊な撮影なので、実際の景色の写りとは印象がだいぶ違います。例えば、この画像。α7IIの等倍画像の一部切り出しですが、個人的にはかなり高精細な写りだと思います。

α7II FD50mm F1.4(F8) 等倍画像の一部
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それでは最後に、お楽しみです。

オールドレンズとしてはかなり古い部類であるXenon 50mm F1.9とBiotar 58mm F2(戦後の初期型)をチャート撮影してみます。大雑把なくくりとしては、第二次大戦後に民間に下りてきたコーティングとともに、目覚ましい発展を見せていく近代一眼レフ用交換レンズの先駆けのようなXenonと、それよりもさらに古い基本設計で弱点もあらわ、今ではグルグルボケが愛されるBiotarです。

公平に見て、どちらもかなり性能が悪く、現代では味を愉しむレンズですが、いったいどんな写りを見せるのでしょうか?


もう一度、ピント位置の確認。
①は画面のど真ん中ではないことに注意してください。
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※クリックで等倍表示
① 左: Xenon 50mm F1.9(F1.9) 右: FD50mm F1.4(F1.4)
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Xenonは実写どおりにフレアの多い画質ですが、チャートで記録された解像力はなかなかのものです。①~③ともにミリ40本は分離できていて、もっと細かい部位もFDと同等の描写を見せています。これは実撮影でフレアっぽいながらも、きちんと細いピントの線をとらえることができるXenonの特長がよく出ています。フレア量は①で若干、FDに劣るぐらいなのに、②、③であきらかに増大していくのはコマフレアが原因なのでしょう。コマフレアをいかにおさえるか?が明るい50mmレンズの課題だったことを考えると、時代の雰囲気を感じます。


※クリックで等倍表示
① 左: Biotar 58mm F2(F2) 右: Biotar 58mm F2(F8)
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このBiotarはさすがにグルグルボケだけあって、全体的に非点収差による像ブレが激しいです。①はなかなかの解像力ですが点像の精度が悪いのか、きちんと分離できているミリ40本の線間(指標6のあたり)がグレーになっています。②ではいっきにフレアが増大し、①でなんとなく描写できていたセンサーの解像限界付近がつぶれます。③になるとまさにフレアの嵐となり、完全な低画質となります。

これを右列のようにF8に絞ると描写がとんでもなく豹変し、①と②は申し分のない画質、③は収差の影響がまだ残っているようで、やや像が甘くコントラストが落ちています。絞りの威力にも驚きますが、全体的にBiotarの基本設計の古さがまさに表れた画質といえるでしょう。