今回は 解像力!がテーマです。

解像力が優れたレンズというと、和製ズミクロンのXR RIKENON 50mm F2が有名ですが、このレンズ、ちょっと誤解があるのです。和製ズミクロンという言葉はアサヒカメラの解像力評価が元となっているのできちんとした根拠があるのですが、その数値は“廉価レンズながら同時代のSUMMICRON-M 50mm F2に匹敵する”という注釈がつきます。

つまり、これを正確にとらえると、XR RIKENON 50mm F2は解像力が極限まで優れたレンズではなく(※ここがイメージだけで勘違いされがち)、国内外のレンズ設計がコントラスト重視へと移行しつつある中で、M型SUMMICRONといえども昔ほどの解像力を求めなくなっていた時代の優秀さということです。

たしかに、XR RIKENON 50mm F2はその実売価格と比較して驚異的な解像力を記録しましたが、絶対的な数値性能を見ると上には上がいるのです。そのひとつが……


開放F1.4なのに、中心解像でも平均解像でもXR RIKENON 50mm F2を超え、SUMMICRON-R 50mm F2にも匹敵してしまうFD50mm F1.4です。


しかも、どうやらそれは眉唾ではないらしい……ということが前回の室内テストで判明してしまったのです。

Planar 50mm F1.4再考 #23 FD50mm F1.4 S.S.C. (II) 室内比較
http://sstylery.blog.jp/archives/81575532.html


それでは、いつもの野外比較をいってみたいと思いますが、皆さんは固唾をのんで見守っていてくださいね。今回のシリーズは、いろいろなことが判明して、すっごくおもしろいですよ、と。


最初の画像がFD50mm F1.4 S.S.C. (II)、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


FDのおおざっぱな特徴は、Planarよりも画角がやや広く、周辺減光がとても大きく、色味はニュートラル。
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Planarは絞り開放ではやや黄色く、絞り込むとそれが抜けて青味が増します。ごくごくわずかな変化ですが、その原因は内面反射でしょうか。
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ここまでがシャッタースピード固定による絞り開放の比較で、FDはとても周辺減光が大きく画面全体が暗く見えます。(縦に並んでいる画像を見ても分かりにくいので、クリック後の1000px画像をタブ切り替えしてみてください。かなりの差であることが分かります)

自動露出を使っていないこの状態が本来のFDとPlanarの写りの違いといえるのですが、このままでは細かな違いが分からないので、次からは明るさの微調整を行って、おおまかな写りの印象を揃えることにします。



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最初の画像がFD50mm F1.4 S.S.C. (II)、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル
※RAW現像で明るさの微調整あり


絞りF8
絞り込むと四隅まで差といえるほどのものはありません。微妙にFDのほうがくっきりしている部位もありますが、2400万画素程度では明らかにPlanarよりも上とは言えません。
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FDは過剰補正型のハロがあるので、逆光ではややぼわっとした感じが強まります。
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とはいえ、Planarもそれほどキリっとした写りでもなく。
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像面湾曲ではなく強い周辺減光の影響で、画面端のボケが小さくなっています。
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絞りF2
過剰補正型の特長で、一段絞るとかなりくっきりします。左奥には絵に書いたようなコマ収差の三角形も出ていて、FDは複雑な画質特性のようです。
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こういう小さなボケにはグルグルが出やすいのですが、背景は安定していてかなり優秀です。
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FDは像面湾曲が小さいので背景のボケが得やすい性質ですが、大きい周辺減光(口径食)によってむしろ画面端のボケ量は小さくなっています。
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FDは近接時の収差変動が大きいのか、中央のボケはPlanarよりもやわらかく見えます。その代わり、四隅はコマ収差による強い変形。
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絞りF5.6
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Planarは角度の付いた逆光ではフレアっぽくなります。ある意味、クラシカルな雰囲気描写ともいえます。
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絞りF2.8
FDはピント性能が良いので、今回、ふたつのレンズのピント位置を完全に一致させるのがとてもシビアで苦労しました。この絵は等倍で微妙に後ピン。
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絞りF2.8
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絞りF2.8
このあたりの絞り値ではFDのほうがキレがあると感じる場面があります。
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画面中央はPlanarよりもシャドーが締まっていませんが、全体としては内面反射の少なさでFDのほうが整った写りです。
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絞りF5.6
これぐらい絞ると、実感としての写りの差はなし。
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ピント面は+0.2mmの過剰補正型とは思えないぐらいにくっきり写ります。
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近接時は昔のレンズゆえの安定のなさか、ボケにやわらかみが出ています。
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絞りF5.6
歪曲は数値上ではFDが優れていますが、実感としての差はそれほどありません。
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日陰、暗がりでもFDの発色はPlanarと遜色なく、カラーバランスの良いFDレンズ群という評判は本当のようです。
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で。FD50mm F1.4 S.S.C.を実写比較した感想はどうだったのか?というと……


たしかに、その凄さの片鱗は垣間見えました。


と、控えめな感想になるのは、そもそも解像力というものはある程度以上優秀になると、たかだか2400万画素程度ではその差が見えづらいこと、野外のような複雑な環境下では様々な収差(像面湾曲、収差フレア)が入り混じり、常に一定条件が保たれる平面のチャート撮影とは違った難しさがあるからです。

そういった単純ではない一面を考慮した上で等倍画質を比較してみると、FD50mmの解像力は画面中央ではPlanar 50mmと同等で、画面端に至ってはあきらかにFD50mmのほうが上となりました。これは別に当Blogのような比較をしなくても、通常のスナップ撮影で十分に感じられるものであり、F1.4の絞り開放でも端のピント合わせがピタっピタッと決まるのはオールドレンズとしてはかなり珍しい感覚です。さらに、もとから画面全域の解像力が優れているわけですから、F2、F2.8に絞ればコントラストも上がって言うことなし、とても几帳面な快感が得られます。


しかし、舶来高級レンズではないFD50mmがその画質を実現するには、大きな代償を払う必要があったのです。


FD50mmには標準レンズとしては珍しいくらいに広範囲の周辺減光があり、これは実際に使ってみればすぐ気づきます。自分が体験した50mmのなかでは間違いなくこのレンズがワーストで、その程度はPlanarのほうが一段くらい絞ったんじゃないか?と思えるほどです。

なぜそうなってしまったのか? その設計バランスに込められた意図は、FD50mmの周辺減光が中間画角の比較的早い段階から目立っていることで明白です。それはすなわち、50mm F1.4としては極めて優れた周辺解像を得るために、点像の精度を乱す端の光線をかなり大胆に切っているのです。


大口径レンズの周辺画質を整えるために意図的にケラレを使う手法は、アサヒカメラ誌でもたびたび言及され、例えば、周辺光量が異常に少ないと評されたNOCTILUX-M 50mm F1.0では、そうしなければ周辺画質の格好がつかなかったのだろう、とまで書かれていました。

大口径レンズで周辺光量を増やすと周辺画質が乱れる→その改善にはさらなるコストが必要→メーカーとしては販売価格と性能のバランスが大事→結像性能を優先し、周辺光量が犠牲になる

この理屈は現代においても不変のようで、近年の高画素対応レンズがあれだけ豪華な光学系を採用しながら周辺減光やボケのレモン形状がいっこうに改善されないのも、絞り開放の結像性能を優先している結果だと思われます。


つまり、FD50mmの解像力の高さ、周辺減光の大きさは表裏一体の長所短所であり、本来はコストをかけるべきところで大胆に設計を割り切ることで実現できたのが、F1.4としては出色の出来となる画面全域に渡る高解像だったのです。

Edmund Optics
「センサーへの周辺光量 – ロールオフ (周辺減光)と口径食」
https://www.edmundoptics.jp/knowledge-center/application-notes/imaging/sensor-relative-illumination-roll-off-and-vignetting/

レンズ内の口径食

Figure 3aの口径食は、光学素子の直径の制限や、一部の光線を遮ることで迷光の透過を遮断するなどの幾つかの理由が考えられます。何か目的があって口径食が生じるようレンズ系をデザインし、レンズの全体性能を改善したり、或いはコストを削減したりするといったことがあります。

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数値性能だけならSUMMICRONにも匹敵してしまうFD50mmのずば抜けた解像力の理由はこれで納得できたと思いますが、しかし、やや首を傾げることがあるのです。

このレンズ、明確な球面収差の過剰補正なのに、完全補正のPlanar 50mmとあまり差を感じないのです。本来、収差図から予想されるFD50mmの開放描写は、細く繊細な解像線が得られながらもぼやっとしたハロ(光の滲み)が出て低コントラストになるはずなのですが、ミラーレスのピント拡大ではやけにくっきりとした細部描写で、かなり違和感があります。


【画面中央付近】
FD50mmは色収差が目立たない分、ピントの収束が良くすっきりとした写りです。
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【画面右端】
画面端ではハロの様子が違います。
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そもそも、アサヒカメラの解像力評価が指し示すものは平面チャートによる二点分解能であり、これには解像線のコントラストは考慮されません。すなわち、チャートの写りがいくらフレアっぽく低コントラストでも、二本の線が分離できてさえいれば高い数値となるのです。(この一面的な評価が現実的でないとされ、現在ではMTF測定が重視されている)

左の画像が過剰補正型の一例で、解像線が細いのにコントラストは低く、視覚的なメリハリを失っているのが特徴です。右の画像は解像力もコントラストも良好な理想画質。
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したがって、FD50mmに予想される画質は、解像線は精緻だがハロによる滲みが多く設計の古さが否めないレンズ、となるはずでしたが、なぜだかコントラストの優秀なPlanar 50mmに肉薄する写りなのです。これはおかしい。自分の試したのが初期のタイプではなく、S.S.C.のII型だから設計変更でもあったのでしょうか?

このレンズ、シングルコーティングの初代FD50mm F1.4のあとにマルチコーティングのFD50mm F1.4 S.S.C.が発売し、さらにII型にマイナーチェンジしているので、どこかで画質の微調整が加えられていても不思議ではありません。

この謎は、次の記事まで持ち越しとしましょう。



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FD50mm F1.4 S.S.C.(II)は画面端の解像力が優秀で、なおかつ中央部もそれなりにくっきりしているという特徴以外の細かい部分をいっきに解説しておきます。

まず、発色はニュートラルで、後にほぼISO標準と評されたEF50mm F1.4 USMと遜色ありません。マルチコーティングの性能は微妙にPlanar 50mmよりも劣るようですが、その代わりにPlanar 50mmで発生する鏡胴内面反射はなく逆光でも描写は安定しています。

歪曲はPlanar 50mmよりも優れていますが実用上のさしたる違いはなく、像面の平坦性はPlanar 50mm以上、周辺減光が広範囲に発生しているのが明らかな欠点です。その他、特徴的なのはコマ収差で、強い光線を受けたときの画面周辺部には教科書に載せたいくらいはっきりとした三角形や、鋭く二方向に広がったコマフレアが観察できます。そのフレア面積はPlanar 50mmよりも少ないのですがコマ状の変形は強く、おそらくFD50mmは画面周辺部の有害光線が切られているために点像の密集度が高いだけで、コマ収差自体は別段、良い補正ではないのかもしれません。

さらにFD50mmで見事なのは細部の色滲みが目立たないことで、これがこのレンズのピントの決まりやすさ、ひいては解像力の良さに繋がっているのでしょう。Bokehは基本的に二線ボケでグルグルやざわざわはほぼ発生しませんが、周辺部の丸ボケは口径食とコマ収差によってあきらかに歪んでいます。

まとめると、FD50mm F1.4 S.S.C. (II)はPlanar 50mm F1.4 AEJよりも優れた部分はいくつもあるが、子細に観察すると、その性能の代償として収差補正の劣る部分も明確に表れている、といったところです。



FD50mm F1.4 S.S.C. (II)とPlanar 50mm F1.4 AEJの違い】

色調  FDはPlanarよりもニュートラルに近い
明るさ  Planar>FD
コントラスト ほぼ同等

先鋭度  FD>Planar
ボケ  Planar>FD
歪曲補正  FD>Planar
周辺光量  Planar>FD

逆光性能  FD>Planar
画角の正確さ  FD>Planar
絞り羽  FDは8枚羽根 Planarは6枚羽根でギザギザ
最短撮影距離  両方とも45cm


自分はこのレンズの数値性能を見て、F1.4なのに一段暗いSUMMICRON-R 50mm F2に匹敵していると煽りましたが、実際に正しく画質を見渡してみるとそこまで完璧なレンズではありませんでした。ただ、上の単純比較を見れば分かるとおり、あきらかにPlanar 50mm F1.4よりも格下というわけでもなく、全体としてはCANONが一般大衆の手に届く最高級の国産レンズとして精いっぱいの性能を絞り出している印象です。

その設計バランスは、まさしく絞り込むことで画質が急変する典型的な国産レンズと同じですが、その意味合いは硝材の性能不足などで絞り開放画質を捨てざるを得なかった過去のレンズたちとはすこし違い、かなりPlanar 50mm F1.4 AEJの開放画質に迫るところまで近づいている(球面収差の過剰補正型なのにぼわっとしない)ことが特徴です。

しかも、鏡胴は重厚な金属製で絞り羽根は8枚と手が込んでおり、色収差補正は特筆すべきレベルで高解像となると、たしかに当時のCANONが目指した高みが想像できます。

【キヤノン通信 13号 1989.8.30】
【特集】EOS-1に至る50年────キヤノンのカメラ技術史
http://itonokai.com/300_index/315_canon-tsushin/013_camera.html

 1971年(昭和46)にプロ用最高級機キヤノンF-1が、膨大なシステムパーツとともに発売になります。「やがて、世界の高級カメラはF-1を追う」というキャッチフレーズは、5年の開発期間と、通常の10台分の開発エネルギーを投入した自信にあふれていました。
~ 中略 ~
 加えて、レンズそのものの画質もプロが要求する光学性能を実現するため、以後10年間トップレベルの性能を維持するという目標で設計しました。

F1.4のみならず、F2、F2.8の緻密な描写力がとても美味しいFD50mm F1.4 S.S.C. (II)を、あなたのコレクションに加えてみてはいかが?

Planar 50mm F1.4再考 #25 FD50mm F1.4 野外比較
制作中