アサヒカメラは写真誌のなかではかなりお堅い印象があり、一昔前までは写真評論がかなりのページを占めていました。近年は他紙との競合でそれなりにやわらかい雰囲気になったようですが、そんな真面目な紙面作りの一環として、カメラやレンズを学術的に分析した「ニューフェース診断室」という製品紹介が連綿と続けられていました。(※過去形で示すのは、デジタル時代になって若干、形態が変わったため)

実際に分解され内部構造まで確かめられたカメラ診断も価値あるものですが、それ以上に何十年も前から一定の形式が守られている写真レンズの数値評価は、時代を超えた性能比較を可能にするとても意義深いものです。撮影者の主観でない収差図、解像力数値、MTFチャートがあることで、我々は本来は知りえないレンズ設計の歴史や設計者の意図にふれることができるのです。

収差図なんて知る必要もないし、撮影者にとって実写がすべてでは? なんて声もごもっともですが、いやしかし、ミラーレスのピント拡大によって前もって確認した球面収差や非点収差の様子がリアルタイムで観察できるなんて、すっごくおもしろいじゃないですか!!


……そんなこんなで、いまや収差図が大好物になってしまった自分ですが、あるときアサヒカメラの記事を眺めていて目ん玉が飛び出てしまったのがFD50mm F1.4の数値性能でした。

絞り開放の解像力(本/㍉) 中心200 平均155
F5.6の解像力(本/㍉) 中心250 平均187

これがどれだけすごいのかというと、ひと絞り暗いSUMMICRON-R 50mm F2(前期型)がこの数値です。

絞り開放の解像力(本/㍉) 中心224 平均131
F5.6の解像力(本/㍉) 中心250 平均157

おマニア様ならご承知のとおり、本来、暗いレンズは設計がしやすく、明るいレンズと暗いレンズで同じコストをかければ、間違いなく暗いレンズのほうが高性能になるわけです。しかし、この場合は……

開放F1.4の国産レンズが開放F2の舶来高級レンズと遜色ない数値を出していて、しかも部分的に勝っちゃってるよ!!

ヽ__乂__乂__乂__乂__ノ  ⊂(。Д。) ウソダロー


それでは、このとんでもない事実を確かめるべく、いつもの比較をおこないますが、まず最初に調べるのはS.S.C.のII型というのにご注意ください。このあたりのモデル違いについてはあとで整理します。


※上記の数値性能はこの二冊に載っています。(他にレンズテスト 第一集/第二集などもありますが、そちらにはMTFはありません)


ピントの出方とその前後の描写を見るために、画面のど真ん中に定規を置いた画質チェック。FDはPlanarに比べて実効焦点距離が短いので、微妙な距離調節をして絵の大きさを揃えています。

A: FD50mm F1.4 S.S.C. (II)
12400

B: Planar 50mm F1.4 AEJ
12401


まず、ピントの200線はAの方が太く、それなりの濃さも出ていてボヤッとハロに包まれるはずの球面収差の過剰補正らしくありません。これは近接域でテスト撮影をしているため、球面収差がマイナス寄りに動いてしまっていることが考えられます(RE. Auto-Topcor 58mm F1.4のケースとよく似ている)。ボケ像に関しては撮影倍率の完全一致ができていないのでなんともいえませんが、手前側はAのボケ量がBよりも大きい割には黒が濃く出ています。

そして、特筆すべきはAの色収差がかなり抑えられていることです。1960年代の標準レンズでは、このように色収差補正が優れた物をいくつも見ていますが、1970年代以降はBくらいの色収差が標準的になるはずですが。その意味ではAは珍しい部類なのか、あるいは色収差補正の程度が変わる過渡期なのかもしれません。


FD50mm F1.4は解像力がずば抜けていると最初に言いましたが、その数値性能で驚くのは画面中央だけでない平均画質の高さです。開放F1.4なのに画面周辺部でも高い解像力を維持している、そんなアサヒカメラの評価を裏付けるために定規を画面端に移動して、もう一度、同じ撮影を行ってみます。どんな結果になるでしょうか?

※フレーミングのイメージ
12406


C: FD50mm F1.4 S.S.C. (II)
12404

D: Planar 50mm F1.4 AEJ
12405


こりゃビックリですわよ、奥様!!  Σ( ̄□ ̄;) あらま!!

ピント位置は最初のテストと同じ200線ですが、画面端では歴然とした違いが出て、Cはとてもくっきりとした描写です。一方のフレアっぽいDは別段、周辺画質が悪くない優等生レンズなので、なるほど、これなら解像力がSUMMICRON-Rに匹敵していてもおかしくないわ……と納得です。

ボケ描写の差はこれぐらい画面の端になると様々な収差が絡み合ってくるのでひとことでは言えませんが、色収差は依然として優秀であり、多少、横の色ズレである倍率色収差が見えています。



次はマクベスチャートです。

AはBよりもなんとなく黄色味があるかなあという程度で、絞り込むとやや青くなるBの性質から、ほぼニュートラルと言っていいはずです。この色味は、のちにISO標準と評されたEF50mm F1.4に酷似しているので、CANONがFD時代からカラーバランスを正確に整えはじめたという話は確かなのかもしれません。コントラストはAのシャドーが微妙に浮いており(チャートの平面反射が原因)、コーティング性能はややBに劣るようです。

A: FD50mm F1.4 S.S.C. (II)(F5.6)
12402

B: Planar 50mm F1.4 AEJ(F5.6)
12403


Planar 50mm F1.4再考 #24 FD50mm F1.4 S.S.C. (II) 野外比較
http://sstylery.blog.jp/archives/81618933.html