当Blogで初登場となるコシナZEISS、Distagon 21mm F2.8 ZEです。

このレンズ、CONTAXのかなり遅い時期に発売された超広角の決定版、Distagon 21mm F2.8 MMJが元になっており、その開発コンセプトは21mmの明るさF2.8という何の変哲もないスペックにどかどかとレンズを詰め込み、フローティングによる画面全域の高画質化と、異常分散ガラスを使った色収差低減でシャープネスとコントラストを可能な限り引き上げようという贅沢なものです。今で言うシグマのARTレンズに近い方向性を90年代に実現していたと説明すれば分かりやすいでしょうか。

そんなMMJが2009年にリファインされてコシナZEISSとなったわけですが、しかし、今回の記事はさらっと一回で終わらせるのです。そんな凄いレンズをなぜ複数回に分けて研究しないのか?……という理由は……まあ最後まで読んでみてのお楽しみ。

YASHICA/CONTAXが終了して、その後のZEISSレンズがどう変わっていったのか、その片鱗を味わえるかもしれない初めてのコシナZEISSをお馴染みの当Blogのスタイルで徹底比較してみましょー!


……あ、いつも熱心にうちのBlogを読んでくださっている方は、ZEで?( ̄ー ̄?)と、疑問が湧くかと思います。MC-11は個体差で使い物にならなかったのに、どうやってα7IIでテストしたのかと。ふっふっふ、それは内緒ですがフランジバックがずれていないことだけはご報告しておきます。


最初のカットがDistagon 21mm F2.8 ZE、後のカットがDistagon 28mm F2.8 MMJですべて共通。
すべて絞り開放 マニュアル撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル

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ここでいったんストップ。

Distagon 21mm F2.8 ZE、撮り比べてすぐに分かったんですが、絞り開放で写りが暗いです。つまり、マニュアル撮影で露出を固定してDistagon 28mm F2.8と比較すると、常にDistagon 21mm ZEの方が1/3段ほど暗く写り、その印象はすべてのカットで同じです。こういった場合、もともとのコントラスト差、周辺減光による輝度分布の違いなど絵柄の明るさが変わってしまう複数の要因があり、単純に実行F値(T値)のせいにはできないのですが、RAW現像でアレコレいじってみても、いくらなんでもDistagon 21mm ZEの補正値が大きすぎるということで(例えば他のレンズ比較なら1~2クリックで済むような明るさ合わせが5~6クリックの操作になる)、この差はさすがに13群16枚というレンズ枚数による光量損失が出ていると考えたほうがよさそうです。なにせ、Distagon 28mmは7群7枚、反射面でおよそ2倍の差が出ているわけですから。


というわけで、仕切り直し。

最初のカットがDistagon 21mm F2.8 ZE、後のカットがDistagon 28mm F2.8 MMJですべて共通。
注記なければ絞り開放 すべて絞り優先で明るさ調整あり、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


この二者は画角が違うので、写る範囲、被写界深度、周辺減光と比較についての注意点が多数あります。ただし、周辺減光(輝度分布)についてはかなり似ているので特に意識する必要ななさそうです。
すべてのカットはフード未着用、ハレ切りもしていないので、レンズの素の実力があらわになっています。


Distagon 21mm ZEの特長はDistagon 28mmよりもかなり黄色く、絞り開放から高コントラスト、ボケも整っていて周辺まで余裕ありといったところです。
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ボケは周辺光量が豊富なレトロフォーカスタイプを贅沢に作るとこうなるといった見本のような写りで、四隅まで丸ボケを維持し、広い画角特有の苦しい感じがありません。
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同じ位置から撮影すると、28mmは寄りとなるのでボケが大きいのですが、隅の丸ボケは変形します。この柔らかい描写はクローズアップによるボケの拡散量の違い+本質的なコントラスト差が合わさったものです。
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ボケは四隅まで綺麗ですが、色収差は見えます。アポクロマートに近いかというと、そうは思えませんでした。
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絞りF5.6
コントラストは絞ってもDistagon 21mm ZEのほうが上というのは驚きでした。WEBで縦に並んでいる画像を見ても違いが分かりにくいので、クリック後の大きい画像をブラウザのタブ切り替えで見てみるか、ダウンロードして手持ちの画像閲覧ソフトで観察することを推奨します。
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Distagon 21mm ZEの歪曲は皆無でなく、近接域では糸巻きが観察できます。
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Distagon 28mmは樽歪曲。
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絞りF5.6
ピントは基本的にはDistagon 28mmの方が取りやすいです。Distagon 21mm ZEはどうやら球面収差の過剰補正成分があるようで、ミラーレスのピント拡大では細い線の周囲にもやっとしたハロが見えます。
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Distagon 28mmは完全補正型で画面の中央付近ではピントがピタッと決まりますが、端の方では像の乱れが目につきます。
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同一条件で撮ると、二者の写りは画角の要素を抜きにしてもまったく違います。
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絞りF8
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CONTAXの中でもきりっとしてメリハリの強いDistagon 28mmが、F8に絞ってもDistagon 21mm ZEより軟調だとは……。
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絞りF5.6
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ホワイトバランスはDistagon 21mm ZE寄りで合わせているのでDistagon 28mmは青く写っていますが、このレンズの本来の写りはほぼニュートラルです。
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絞りF8
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絞りF8
左側の空の諧調が違うのはパースによる背景描写の差です。
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左の空間に、うっすらと絞った形のゴーストが出ています。
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絞りF8
Distagon 21mm ZEは黄色みが強いのでこってりして見えますが、実際はホワイトバランスしだいです。
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木の幹にわずかなゴーストが出ていますが、レンズ枚数が倍以上あり、画角も広いDistagon 21mm ZEがDistagon 28mmに遜色がないというのは凄いです。
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Distagon 28mmは前玉の丸みがDistagon 21mm ZEよりも強いので、この前玉側面に画面外の急角度から直射光が当たるとこのような内面反射が発生するようです。繰り返しますが、フードなしです。
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引いたボケを見るために特殊な構図で、ピントは左端に取っています。焦点距離の違いを考慮すると、Distagon 21mm ZEはとても落ち着いた背景描写といえます。
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絞りF5.6
さすがにフードをしていないので、ところどころゴーストが出ています。Distagon 21mm ZEは右上、Distagon 28mmは左下。
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画角が明確に違うのに、周辺減光の印象はさほど変わらず。
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絞りF8
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解像力はDistagon 28mmでも特に不満はないのですが、Distagon 21mm ZEと比較すると左隅の線路に色収差が多く、中央左上に電灯のようなゴーストが出ています。
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絞りF5.6
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それで……この凄いレンズを徹底的に掘り下げない理由ですが……

はっきりいって、Distagon 21mm F2.8 ZE、高性能すぎてつまらないです。


なによりも印象が悪かったのが絞り開放でも絵に柔らかみがないことで、これは比較画像をきちんと見比べれば一目瞭然、Distagon 21mm ZEは細部のメリハリが強すぎて情緒的な雰囲気がまったくありません。現代の高画質レンズは開けても絞ってもコントラストが変わらないので絞りは被写界深度の調整のみ、なんて言われますが、まさにF8の印象とさして変わらないF2.8の描写をこれでもかというくらい見せつけられました。

このことはZEISSのデータシートでも証明されていて、MTFチャートのF2.8とF5.6の中央はほぼ同じ、F5.6で周辺がより持ち上がって画質の均質性が増し、逆にど真ん中では解像に関わる40本線がやや下がってしまうくらいの高性能です。

ZEISS Download Center

Distagon T* 2,8/21

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そして、CONTAXの中ではハイコントラストで味が薄いDistagon 28mm F2.8 MMJを自分がなぜつまらないと思わないのかという理由もまざまざと実感できました。ようするに、Distagon 28mmはくっきり写る高発色のレンズとしてもまだ旧世代の設計で、そこには十分な柔らかみが存在していたのです。つまり、小型軽量で完成度の高いDistagon 28mmも現代のレンズと比較すれば、まだまだ味のあるレンズであり、その気持ちのよい高彩度と古さによる柔らかみが絶妙なバランスを保っていたといえるのかもしれません。このDistagon 28mmのMTFチャートは以下となりますが、普段、こういったデータを見てもぴんとこない方も、当Blogの比較を眺めたあとではものすごく納得できるはずです。


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これは両者の撮影距離を変えて絵を揃え、WBで色味も合わせた絞り開放の画像です。大差なく見えるかもしれませんが、周辺画質に明確な差が出ているMTFチャートどおりにDistagon 28mmは中央の円形部分から外へいくにしたがってコントラストが浅くなる様子が確認できます。特に違うのは、右のカラフルなポスターと左上の屋根のメリハリ感で、これが光の変化でないことは複数回撮影で確認済みです。

Distagon 21mm F2.8 ZE
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Distagon 28mm F2.8 MMJ
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こちらはDistagon 21mm ZEのF2.8とF8の画像。絞り込みで大きく変わるのは周辺減光だけで、被写体のメリハリ感(コントラスト)はまったく変わっていないことが分かると思います。

絞りF2.8
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絞りF8
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ただし、ここでひとつ、公平な意見を置いておきます。Distagon 21mm F2.8 ZEがつまらないという感想は、あくまで現在の自分がオールドレンズ寄りの嗜好になっているからで、そのときどきで変わっていく被写体や撮影環境によってはこの描写も受け入れられるかもしれませんし、レンズが絞り開放でも硬いというのならRAW現像でコントラストを下げる手段もあります。この感想はあくまで、レンズの素の写りを調べてみたらこうだったという程度に軽くとらえてご自身の感覚を尊重し、あんまりCONTAXを盲信しないようにお願い致します。

そして、もう一点、自分はDistagon 28mmに味があると言いましたが、多くのオールドレンズがそうであるように、ある程度、画質の悪さは受け入れています。例えば、近接時に画面周辺部できっちりした解像力が欲しい場合にはDistagon 28mmはNGです。

しかし、2009年の発売で決して新しくはないDistagon 21mm F2.8 ZEがこんなことになっているのなら、現代の最新の高画質レンズってどんな世界になっているんだろう、と恐れおののきます……。



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今回、掲載画像が少なめで、特に建物スナップがないのは、この高温多湿の中でレンズの掃除をさぼったことで後玉表面の小クモリ状態に気付かないまま撮影を進めてしまったからで、泣く泣く二日分の撮影を捨てています。しかし、撮影回数だけは十分にこなしているので描写の把握に自信はあるのですが、それでもまあ、記事の完成度をより上げるために建物などはもう少し追加撮影をしたいと思います。
→画像を追加しました。


で、あまりにDistagon 21mm ZEの味のなさが驚きだったので、ついでみたいな解説になりますが、全体の描写性能としては絞っても諧調の変わらない正真正銘のハイコントラスト、画面全域でシャープでボケもきれいで逆光性能も問題なし。ただし、歪曲はそれなりで構図を作る際に気になったので、広角系の設計に有利なミラーレス用レンズには劣るのではないかと思います。それと色収差は少ないながらも普通に見えるので、これをApoと呼ばないZEISSの見識は正しいです。ただ、超広角ともなると一眼レフ用の設計といえどもα7IIのセンサーガラスとの相性はありそうな気もしますが。

カラーバランスの黄色味ですが、これはかなり強い偏りでコシナZEISSはニュートラルだと思い込んでいた自分にとって、もうひとつの驚きでした。その程度は、CONTAX Nレンズの雰囲気にかなり近いので流れとしては納得でき、何か技術的な必然があるのかもしれません。


Distagon 21mm F2.8 ZEとDistagon 28mm F2.8 MMJの違い】

色調  相対的に21mmは黄赤が強い、28mmはほぼニュートラル(ややクール)
コントラスト 21mm>28mm
先鋭度  21mm>28mm
ボケ  21mm>28mm
歪曲補正  21mm≒28mm
周辺光量  21mm≒28mm

逆光性能  21mm>28mm
接写  21mm>28mm


この単純比較を見ても分かる通り、より画角が広く設計の難度が上がるDistagon 21mm ZEがほとんどの項目で勝っているということで、このレンズはまさに世間の謳い文句通りの高級高画質レンズ、しかし、その完璧すぎる描写が自分には合わなかったと、まとめたいと思います。<(_ _)>