50mm F2シリーズの最終回で、個性的なXenon 50mm F1.9(EXAKTA)を同時代のさまざまなレンズと比べてみたいと思います。

Planar 50mm F1.4再考 #28 Xenon 50mm F1.9 野外比較

詳しい分析は前回の記事をご覧いただきたいのですが、全体としてはかなり高画質なのに絞り開放を捨てているようなXenonの設計は、当時の最高級品であるツァイスやライカに対してどの程度の位置づけにあるのかを調べることが今回の目的です。素直に考えるなら、写真レンズはまず価格帯で大別され、その上で発売時期の遅いレンズのほうが技術革新の恩恵を受けて有利なはずですが……。


Schneider-Kreuznach Xenon 50mm F1.9 1950年代初頭
Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F2 1959年(Flexonからのマイナーチェンジ)
Carl Zeiss Contarex Planar 50mm F2 1959年
LEITZ WETZLAR SUMMICRON-R 50mm F2 1964年


これらを眺めると、性能面では普及レンズであるPancolarが一番厳しく、発売時期が遅いSUMMICRON-Rが一番有利となりますが、果たして、そのとおりの差が示されるのでしょうか? その中で、ぽつんと外れた古めかしいXenonの性能は?


いざ、シュナイダーの実力拝見!!


※撮影条件はいつもと同じで、Xenon 50mm F1.9を三つのレンズと順々に比較していきます。開放F値はほぼ同じなのでそのまま撮影、微妙な明るさの違いは後処理で合わせています。

注記なければ絞り開放 絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


1、最初のカットがXenon 50mm F1.9、後のカットはPancolar 50mm F2

おそらく、像面湾曲由来で両者ともに滲んだ誌的な絵になっています。球面収差の補正形式の違いが出て、中央はPancolarのほうがくっきり。
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コントラストは似たような印象。ただし、Xenonは球面収差の強い過剰補正型なので、細部のディテールは滲んで軟調。
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Xenonの個性のひとつ、強い二線ボケです。
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Pancolarは中央は柔らかいのに端はきつい二線ボケ、中間画角でグルグル。
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絞りF4
像面湾曲はややXenonが少なく、画面端の被写界深度に違いが見えます。絞り込むとXenonのにじみは消え、Pancolarと同等の画質となります。
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四隅のボケはPancolarのほうが苦しく、Xenonは二線ボケながら比較的、安定しています。
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細かいところでは、四隅はXenonの方が暗いようです。
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絞りF8
これくらい絞り込むとぱっと見の写りに違いは出ません。古いレンズもF8ではみな同じと言われる所以。カラーバランスはPancolarのほうがやや黄色いです。
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色調  相対的にXenonはほぼニュートラル、Pancolarはやや黄色い
コントラスト ほぼ同等

先鋭度  Xenon>Pancolar
ボケ  Xenon>Pancolar
歪曲補正  Xenon>>Pancolar
周辺光量  Pancolar>Xenon

逆光性能  Xenon≒Pancolar? ※比較が不十分
画角の広さ  Pancolar>Xenon

※すでに以前の比較で判明していますが、Pancolar 50mm F2はまさに廉価レンズで、あちこち画質が悪く(特に歪曲と像面湾曲が大きい)、この対比でXenon 50mm F1.9が優れているのは当然です。

Planar 50mm F1.4再考 #22 ContarexとPancolar 野外比較



最初のカットがXenon 50mm F1.9、後のカットはContarex Planar 50mm F2ですべて共通。

像面湾曲が大幅に違うのと、球面収差の過剰補正量が少ないことでContarex Planarはすっきりした写りとなっています。
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この被写界深度の違いはXenonの像面湾曲が多いからです。滑り台にも滲みが出ています。
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Contarex Planarは像面の平坦性が抜群です。(像面が奥に曲がっていないので、背景がよくボケる)
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絞りF8
解像力はほぼ同じで、最周辺部で微妙にXenonのほうが悪そうですが、それも等倍レベルの話。
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Xenonの絞り開放はこれだけ滲むのにコントラストが高いという不思議な描写。
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逆光ではややXenonが劣るようで、微妙なシャドー浮きが見えます。
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完全逆光のクリアネスはContarex Planarのほうが上でしょうか。
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歪曲は実感としての差はありません。
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Contarex Planarも本質的には二線ボケですが、さすがにXenonと比べると大人しく見えます。
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Xenonは周辺に余裕のない強い二線ボケ。
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Contarex Planarは二線ボケ以外はかなり整っています。両者ともにグルグルはなし。
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Contarex Planarは明確に青く、Xenonよりも四隅が明るいです。色調を除いては、Contarex Planarのほうが画質的には正しいです。
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絞りF8
立体物であれば像面湾曲は被写界深度の深さに繋がるので、この場合のシャープネスはXenonも負けてはいません。
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絞りF8
絞り込むとやはり写りの違いは見えません。カラーバランスが正しいのはXenonです。
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色調  相対的にXenonはほぼニュートラル、Contarex Planarは青い
コントラスト Contarex Planar>Xenon

先鋭度  Contarex Planar≒Xenon
ボケ  Contarex Planar>Xenon
歪曲補正  Contarex Planar≒Xenon
周辺光量  Contarex Planar>Xenon

逆光性能  Contarex Planar>Xenon
画角の広さ  Contarex Planar>Xenon

※このまとめだけ見るとXenonの惨敗に思えますが、明らかに違うのはContarex Planarの特長である画質の均質性(像面湾曲の少なさ)だけで、それ以外の項目は大差ではありません。逆にXenonが優れているのは歪曲の少なさとニュートラルな色調で、これらはこまごました画質よりも直接的に鑑賞者の目に飛び込んでくる要素だと思います。

Planar 50mm F1.4再考 #21 Contarex Planar 50mm F2 野外比較
http://sstylery.blog.jp/archives/78075252.html



最初のカットがXenon 50mm F1.9、後のカットはSUMMICRON-R 50mm F2ですべて共通。

Xenonの個性的な開放描写は光の強い状況でなければそれほどしつこくなく、まとまりの良い味付けとなります。クリック後の1000px画像をご覧ください。
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さすがにコーティングの世代が違うSUMMICRON-Rとはコントラストが違います。
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周辺減光はほぼ同じです。
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絞りF4
Xenonはほんの少し絞るだけで、きりっとした高画質レンズへと変貌しますが、SUMMICRON-Rのほうが微妙にコントラストが高い感触があります。
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SUMMICRON-Rは弱めの過剰補正型で、この中では一番ボケがきれいです。ただし、レモン状の変形はそれなりにあります。
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絞りF4
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やはりSUMMICRON-Rの赤は渋そうな気が……。
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中央付近は明らかにSUMMICRON-Rのボケが綺麗ですが、端の方ではその差は縮まります。周辺のボケに一番余裕があるのはContarex Planar。
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歪曲はXenonが優秀です。数値の分かっているSUMMICRON-Rから推測すると-1.0~1.2%くらいでしょうか。
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SUMMICRON-Rにも像面湾曲が残っているのですが、Xenonはそれよりもさらに悪いです。ボケが乱れないように非点隔差が抑えられているのは同じ。
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SUMMICRON-Rの絞り開放はわずかな黄色味。
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絞りF8
Xenonは絞り込むとやや黄色くなるので、開放絞りとはまた違った色調差となっています。
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等倍でのシャープネスはSUMMICRON-Rのほうが上のように感じます。2400万画素程度では明確な差とはなりませんが、SUMMICRON-Rの解像力の高さは数値性能で証明されています。
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同じシングルコーティングですが、さすがに10年近くの時代差がある初期のEXAKTAマウントはSUMMICRON-Rの逆光耐性にかないません。
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SUMMICRON-Rは派手なゴーストを誘発させる鏡胴内部の反射要因がないことも効いています。
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右上の背景で像面湾曲の差が分かります。
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色調  相対的にXenonはほぼニュートラル、SUMMICRON-Rはやや黄色い
コントラスト SUMMICRON-R>Xenon

先鋭度  SUMMICRON-R>Xenon
ボケ  SUMMICRON-R>Xenon
歪曲補正  Xenon>SUMMICRON-R
周辺光量  SUMMICRON-R≒Xenon

逆光性能  SUMMICRON-R>Xenon
画角の広さ  SUMMICRON-R>Xenon

※SUMMICRON-Rはコントラストも解像力も優秀ですが、像面湾曲は残しているというところがポイントです。像面の平坦性にこだわらない代わりにボケの乱れをなくす設計思想は両者ともに同じで、Xenonの歪曲の少なさはSUMMICRON-Rを超えています。

Planar 50mm F1.4再考 #24 SUMMICRON-R 50mm F2 野外比較




結論としては……


Xenon 50mm F1.9は、普及レンズのPancolar 50mm F2よりは明らかに良く、高級レンズのContarex Planar 50mm F2やSUMMICRON-R 50mm F2には今一歩届かないという非常に妥当な性能で、発売時期の差を考慮すると、絞り開放に残る強い癖は(例えそれがシュナイダーの意図だったとしても)、当時の設計の苦しさを物語っています。

しかし、ツァイスとライカが威信をかけて開発した50mm F2に性能が届かないにしても勝る部分があるのがXenonの凄いところで、例えば、ニュートラルなカラーバランスはContarex Planarよりもあきらかに優れていますし、歪曲補正はSUMMICRON-Rの上をいき、コントラストは過剰補正型のハロ(とコマフレア)がありながらも力強さを失ってはいません。当然、絞り込んだ時の性能は2400万画素では見分けがつかないほどに互角です。

像面湾曲は大きめだがボケは乱れず、直線の再現は優れていて、しっかりしたコントラストもありながら色調はニュートラル、これらが意味することは、画質のなかでも特に人の目につきやすい部分に注力し、実際に使う頻度の低い絞り開放だけは個性的にまとめたシュナイダーの巧みなレンズ設計です。こうやって比較してみると、あともう少しだけバランスを取り、残存収差の突出した部分を丸める選択肢もあったかもしれませんが(例えば、歪曲を増やすかわりに像面湾曲を抑えるなど)、シュナイダーはそれを選ばず、思い切りよく画質を割り切っています。なぜ、そうしたのか?という理由については、単純に一眼レフの黎明期にF1.9という数字を売りにした製品コンセプトの無理が出ただけかもしれませんが(※使い勝手の面から考えると、明るさを0.1稼いでも無意味)、シュナイダーが自社でカメラを作らないレンズメーカーだからこそ、その判断に迷いがなかったのかもしれません。

つまり、もしシュナイダーがレンズ交換式カメラを展開していて、そのイメージリーダーにXenonを選んだのなら、現状からさらにコストをかけてトータル画質を整える選択肢もあったはずですが、結局のところ、そこまでは要求されない他社向けのレンズとして商売的にちょうどよい落としどころを探ったのがXenon 50mm F1.9なのかもしれません。そういったシュナイダーの冷静な姿勢は35mmカメラ界でどこか一歩引いた二番手以降のイメージをユーザーに植えつけ、そして実際に硝材も設計技術も発展する中でXenon 50mm F1.9はこのままでいいと古い設計のままContarex PlanarやSUMMICRON-Rなど新世代のレンズたちに置いていかれるのです。

……なんて物語を勝手に想像してみましたが、実のところ、自分は後期型となるM42版 Xenon 50mmF1.9の画質は確認していませんし、まだまだ古いレンズの知識も経験も足りていないので、これらは単なる一素人の妄想であると聞き流していただければ幸いです。(もちろん、中判や大判、はたまたシネカメラの分野には違う視点があるはずです)。ただし、近代のツァイス vs ライカ vs 日本勢という性能競争に挑んでいないように見えるシュナイダーは、どこか現実的な会社経営をするドイツの第三勢力のように思えます。ツァイスのように自身の技術力を誇示することもなく、ライカのように最高品質を追い続けながらずぶずぶと沈んでいくこともなく、堅実に他社が求めるレンズを適正なコストで供給していくシュナイダー。果たして、このイメージがどこまで正しいのかはわかりませんが、すくなくとも今の自分にはこう見えています。


そんなわけで、Xenon 50mm F1.9の秘密はその味わいのある絞り開放画質ではなくて、むしろそれを支えている基本性能の高さがツァイスやライカにあと一歩迫るほどの特殊性にあることが事実として確認できました。そして、それはやや控えめの開放F値と時代性の古さと合わさり、ミラーレス時代の今日でもありそうであまりない描写のバランスとして、決して少なくない人間を魅了するのです。

lensbubbles

My Favourite Lenses Series – Schneider-Kreuznach Xenon 50mm f1.9 DKL
http://lensbubbles.com/my-favourite-lenses-series-schneider-kreuznach-xenon-50mm-f1-9-dkl/

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For over 8 years, I have written more than a 1000 blog entries on my old blog site……
http://oldlenses.blogspot.com/


今回の50mm F2シリーズで、Xenon 50mm F1.9、Pancolar 50mm F2、Contarex Planar 50mm F2、SUMMICRON-R 50mm F2を比較したことで、霧の中にあったこれらのレンズの立ち位置や画質のイメージが自分の中で明確になりました。それは今後のレンズ評価にも役立つことでしょう。


最後に、個人的な感想をまとめると……

Xenon 50mm F1.9: 整った基本性能に味わいのある開放画質、絶妙なバランス。
Pancolar 50mm F2: 単純にあちこち低性能で挑戦しがいあり。
Contarex Planar 50mm F2: 均質性の高い画質に古めかしい諧調変化、高級品の満足度。
SUMMICRON-R 50mm F2: 現代的な直球勝負の高コントラストに解像力、高級品の満足度。

※詳細については各記事をご覧ください。


これにて、謎に満ちたContarex Planarから始まった50mm F2シリーズはいったん終了!!

Planar 50mm F1.4再考 #30
次回未定