1960年代の……頂上決戦………

バンバン。バババン。

ざわ……ざわ………。


SUMMICRON-R 50mm F2 vs Contarex Planar 50mm F2


SUMMICRON-R「標準レンズの王様と称えられ、その実力も数値性能で示されておるこのわたしに挑もうという愚か者はどこにおるか?」

Contarex Planar「光学界の巨人によって世に遣わされた古の王(Rex)たるわたしに並び立つ者があるとすれば、それは我らが同族しかおらぬ。笑止!」


ピカッ ゴロゴロゴロ―――――!!!


神様「はいっ! 両者丸コゲで勝負なし!(だって、ワシが好きなのはXenonだもん)」


という腰砕けの前フリはともかく、いってみましょう開放F2の高級オールドレンズ比較。一方は、ズミクロンというライカの高性能レンズに与えられる名を受け継ぎ、実際にそのとおりの実写性能を誇るSUMMICRON-R 50mm F2、もう一方はまさに王道を行く収差補正によって普及価格帯のレンズとは別格の画質を見せつけたContarex Planar 50mm F2。どちらも改良がある前の前期型なので、年代的な差は発売時期の5年だけです。果たして、その差は光学界にとって大きいのか? 小さいのか?

いろいろと煽っていますが、1960年代の高級レンズであるこれらを正確に対比させることで、ライカとツァイスの技術力および、その時代の空気のようなものを掴めるのではないか?というのが、この記事の本当の狙いとなります。 


SUMMICRON-R 50mm F2(前期型)

レンズ構成: 5群6枚
フィルター径: 43.5mm
前玉径: 25mm 後玉径: 23mm
サイズ: 最大径63mm 長さ39mm(※バヨネットと後玉の突出含まず)
重さ: 310g
販売開始: 1964年


Contarex Planar 50mm F2(前期型)

レンズ構成: 4群6枚
フィルター径: 49mm
前玉径: 29mm 後玉径: 26mm
サイズ: 最大径62mm 長さ43mm弱(※後玉の突出含まず)
重さ: 300g
販売開始: 1959年(ただし、実際の供給は1960年の春だったという記述があります)

※実測した数値はすべておおよそ。長さの注記が違うのは、Contarexはレンズ側がボディの爪を受ける形になっているため。


最初のカットがSUMMICRON-R 50mm F2、後のカットがContarex Planar 50mm F2ですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


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はい、ここでストップ。

この比較画像、実は色の偏り以外にも全体の明るさがかなり違います。具体的には、Contarex Planarの四隅はSUMMICRON-Rよりも明るいのですが、それ以外の大部分はContarex Planarのほうが暗いのです。この差は画像を縦に並べているだけでは感じにくいのですが、クリック後の1000px画像をタブで切り替えたり、ダウンロードして見比べてみるとはっきりとわかります。以前のPancolar 50mm F2との比較のときも似たような雰囲気はあったのですが、今回はそれがより顕著で細かな写りの違いが正確につかめなくなっているので、これ以後の画像ではContarex Planarに明るさ調整を加えて両者のおおまかな露出をそろえることにします。(つまり、ここまでの比較は絞り開放の絶対的な違いとなります)



最初のカットがSUMMICRON-R 50mm F2、後のカットがContarex Planar 50mm F2ですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル

※Contarex Planarは後処理で、絞り開放の明るさをSUMMICRON-Rに揃える


絞りF5.6
この両者の基本的な違いは、写る範囲はほぼ同じ、Contarex Planarの方が青くて地味といったところ。
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Contarex Planarはマウントアダプターの精度の低さがあり、すべてのカットで絵が横にずれています。
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絞りF8
解像力は最周辺部でやや差が出ていて、SUMMICRON-Rの方がきりっと写ります。
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等倍で見ると、Contarex Planarは遠景のマイクロコントラストが弱そうな感触があります。
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画面外の左に太陽。逆光が絡むと、コントラストが維持できるSUMMICRON-R、軟調描写が強くなるContarex Planarとなります。
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SUMMICRON-R、Contarex Planarともに過剰補正型で二線ボケします。
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ボケはとてもよく似ていて、四隅で微妙にとがるのがSUMMICRON-R。
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被写体が平面的になってくると像面湾曲の差が出て、画面各部のボケ量に違いが出ます。
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Contarex Planarは周辺減光が少なく、フラットな画面が得られますが低コントラストです。
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SUMMICRON-Rは画面内に直射光が入らない限りは、ほとんどの逆光に耐えます。
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Contarex Planarはクラシックレンズの特性そのままにシャドー浮き。
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ボケチェック。両者のボケ質はかなり似ていて、画面右上の丸ボケに口径蝕の違いが見えるくらい。
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近接時のボケは微差です。
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フードが役に立たない完全逆光の例。SUMMICRON-Rはゴーストが発生、Contarex Planarは鏡胴内面反射により画面の全域にかかるフレア&ゴースト。
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コーティング性能の差は明白です。
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しかし、Contarex Planarはクラシカルな雰囲気描写があるともいえます。
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絞りF5.6
SUMMICRON-Rの歪曲補正は一眼レフ用の標準レンズとしては良好ですが、Contarex Planarはさらにその上を行きます。Contarex Planarの歪曲はおそらく、-1%付近ではないかと思われます。
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Contarex Planarはすっきりした青味の低彩度です。
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両者のボケは像面湾曲の影響を除いてはほとんど差がないのですが、微妙にボケの落ち着きがあるのはContarex Planarです。
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端の丸ボケが尖るのがSUMMICRON-R、端の丸ボケに丸さはあるが中央のボケが微妙に小さいのがContarex Planar。この差は互いの輝度分布(周辺減光の様子)に関連が見えます。
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Contarex Planarは同じ過剰補正型ながら、若干、丸ボケの輪郭線が太い(強い)です。
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これぐらい引いた絵ではもっとボケに違いが出てもよさそうなのものですが、互いに高級レンズということで、収差補正が高い次元でまとまっているということかもしれません。
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Contarex Planarのフラットな輝度分布には反射防止性能の低さも絡んでいるようで、おだやかな光になるほどにSUMMICRON-Rとの諧調差が目立たなくなります。(※画面内に強い光がないと、反射防止性能の関与が薄くなりコントラストが維持できる)
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絞りF8
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これもボケチェック用の絵柄で大差なし。
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絞りF8
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絞り込むとContarex PlanarもSUMMICRON-R同様の高コントラストになりますが、それは逆光以外の話です。
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絞りF4
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絞りF8
一般的に、絞り込むと絞り羽がフレアカッターのように機能して逆光性能が改善します。
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しかし、本質的なコーティング性能の低さがあると、やはりゴーストは発生します。画面下、右。
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色収差は出方に差がありますが、量としては同じ程度。
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絞りF8
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では、結論です。

勝者、SUMMICRON-R 50mm F2 !!


……まあ、単純に勝ち負けで済む話ではないんですが、このふたつの高級レンズに大きな差をつけたのがコーティング性能です。これはもう比較画像を見れば一目瞭然で、Contarex Planarは逆光ぎみで軟調化が起こるどころか、ほとんどすべての場面でSUMMICRON-Rよりも低コントラストなので、その部分では本質的に反射防止性能の低い旧世代のレンズといえます。

SUMMICRON-Rの発売年が1964年、Contarex Planarが1959年で、実際の設計時期がそのとおり5年差であるとは言いがたいのですが、以前の比較記事を振り返ると、SUMMICRON-Rはマルチコーティングに多少劣る程度の逆光耐性で高コントラスト、それに対してContarex Planarはまだまだ発展途上のそれで、多くの場面でコントラストが維持できていません。となると、Contarex Planar 50mm F2は当時の一眼レフで最高峰を目指したレンズなのに……とがっかりしてしまいますが、比較対象をPancolar 50mm F2(1959年)に移すとそれよりもコーティング性能は優れているのです。

Planar 50mm F1.4再考 #21 Contarex Planar 50mm F2 野外比較
Planar 50mm F1.4再考 #22 ContarexとPancolar 野外比較
Planar 50mm F1.4再考 #24 SUMMICRON-R 50mm F2 野外比較

この事実から浮かびあがってくる事柄は、第二次世界大戦後に民間におりてきたコーティング技術は復活したカメラ製造とともに急速な発展を見せ、わずか数年の差が性能に反映されてしまった(もしくは、大きな進歩があった時期をまたいだ)のがSUMMICRON-RとContarex Planarの関係ではないか?ということです。だとしたら、Contarex Planarは黒鏡胴(1965年?)の後期型でコーティングが良くなったという説もまさに正しく、Contarex初期のコーティングはCarl Zeissにしてもどうにもならなかった時代差があったのかもしれません。(※かなり妄想あり)



【Contarex Planar 50mm F2とContarex Planar 50mm F2の違い】

色調  相対的にSUMMICRON-Rはやや黄色く、Contarex Planarは青い
明るさ  Contarex Planarは画面全体がフラットでやや暗い
コントラスト SUMMICRON-R>Contarex Planar

先鋭度  SUMMICRON-R>Contarex Planar
ボケ  SUMMICRON-R≒Contarex Planar
ボケ(最周辺部)  Contarex Planar>SUMMICRON-R
歪曲補正  Contarex Planar>SUMMICRON-R
周辺光量  Contarex Planar>SUMMICRON-R

逆光性能  SUMMICRON-R>>Contarex Planar
画角の広さ  SUMMICRON-R≒Contarex Planar
絞り羽  SUMMICRON-Rはカーブのある6枚羽 Contarex Planarは特殊なギザギザ
最短撮影距離  SUMMICRON-Rは50cm Contarex Planarは30cm



個々のレンズ性能はすでに過去記事で明らかになっているわけですが、せっかくなので、SUMMICRON-RとContarex Planarの違いを細かいところまで言及したいと思います。

まず、解像力に関連する事柄ですが、絞り開放でピントを操っていて過剰補正型のもやもやが多いのがContarex Planarとなります。ただし、二線ボケの輪郭線が太い丸ボケも合わせて考えるに、単純にContarex Planarの過剰補正量が多いというよりは、球面収差がプラス側に傾くのが早いからハロの量が多いのかなと想像します。α7の2400画素程度では解像線の緻密さに違いは見えないのですが、遠景の周辺部などで感じるのがSUMMICRON-Rのマイクロコントラストの高さで、等倍観察のドット絵がよりくっきりと見えます。写真画質には解像力とコントラストの両方が必要であるというMTF評価の考えに基づくなら、Contarex PlanarはMTFチャートの40本線が低いというイメージです。

発色やコントラストは画像の通りで現代のレンズに通じるのがSUMMICRON-R、古めかしい低彩度、低コントラストなのがContarex Planarです。この差を生んでいるのがコーティング性能(の世代差?)なのですが、Contarex Planarはカラーバランスが青に振れていることもあり、あっさりした印象が強まっています。

画角(写る広さ)については、いつも必ずといっていいほど実効焦点距離52.0mmを超えてしまうライカのSUMMICRON族と差を感じないのがContarex Planarなので、もしかしたら、この時代の一眼レフ用50mmはそんなものなのかもしれません。Pancolar 50mm F2も似た感じで実効焦点距離は長めでした。

“Bokeh”はこれぐらいの高級レンズになると、ほとんど同じに見えるというか、非点収差の扱いなどで画質の均質性が非常に優れているContarex Planarにして、SUMMICRON-Rとの明確な違いを見ることができませんでした。こういった比較をすれば、たしかにContarex Planarの方が四隅までボケが丸く、引き気味の細かい背景でもボケはざわつかないのですが、すごく違うか?と問われれば微妙なところです。

歪曲はContarex Planarが優秀で、おそらく-1.0%付近の樽型ではないかと思われます。一眼レフ用50mmにはもともと設計の不利があり、歪曲補正はレンジファインダー系のレンズにはかなわないのが常ですが、当のライカのSUMMICRON-Rでさえ-1.4~-1.6%の樽歪曲とひかえめです。Contarex Planarの場合、像面の平坦性も歪曲も優れているということで(※通常、これらは相反する要素らしい)、おそらく、Contarexマウントのフランジバックの短さが効いているのではないでしょうか。

最短撮影距離だけはものすごく違い、なんの変哲もない50cm(焦点距離の10倍そのまま)のSUMMICRON-Rに対し、Contarex Planarは30cmと接写の得意なOreston 50mm F1.8をさらに超えます。このあたり、高級レンズの仕様としてはとても大胆に思いますが、もしかしたら像面の平坦性に自信があるからこその余裕なのかもしれません。


以上の良し悪しを加味しても、撮影者に直接のインパクトを与えるのはやはり色彩コントラストと解像力なので、あらゆる場面でコントラストを維持し、シャープなSUMMICRON-Rは分かりやすい高性能レンズと言えるでしょう。ただし、Contarex Planarのコーティング性能の低さも今となっては貴重で、あれだけ画質の均質性があるのにクラシカルに郷愁を誘う一面があるというのは、なかなかにおもしろいと思います。

マルチコーティング時代に迫る優秀さを持つSUMMICRON-Rのほのかな味わいを楽しむか、画面の隅までていねいに収差補正を行いながらも逆光耐性の低さをあわせ持つContarex Planarの独特の古めかしさに価値を見出すか?

あなたはどっち?

Planar 50mm F1.4再考 #27