今回のテーマは至極、簡単です。

ContarexのPlanar 50mm F2は、まさにその王たる名にふさわしい標準レンズか否か?


ど―――ん!! (°言°;) マ,マジカ…  

という、果てしなく壮大な前フリをしてしまいましたが、これにはきちんとオチがつきます。なので、この記事がいったいどういう結末になるのかは終ってみてのお楽しみ。

でも、先に注意がひとつあります。CONTAX Planar 50mm F1.4との比較はここでいっきに終わらせますが、結論は同時代のPancolar 50mm F2が登場する次の記事まで持ち越しです。というのも、厳密比較をすることでレンズの特性は確実に掴めるのですが、じゃあ、それをどう解釈するか?という段階で、当時と同じ目線が必要になるからです。そこで、入手したのがS/Nの古いPancolar、これでContarex Planarの評価は万全というわけです。

まずは、その第一弾となる比較のはじまりはじまり~。

※山ほど画像を読み込みますので、モバイル閲覧は注意!


まず最初に、F値の違うレンズを比較するのは難しいです。F8付近に絞り込んだときはともかく、絞り開放は被写界深度、諧調描写などが違い過ぎて、レンズ固有の描写を掴む手助けにはなりません。

Contarex Planar 50mm F2(F2)
両者の違いは明確ですが、そこに表れているのは開放F2とF1.4という種別の違いです。
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CONTAX Planar 50mm F1.4 AEJ(F1.4)
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じゃあ、一方を絞ってF値を揃えるとどうなるかというと、周辺減光が大きく改善されて今度は色や諧調の判断ができなくなります。

Contarex Planar 50mm F2(F2)
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CONTAX Planar 50mm F1.4 AEJ(F2)
画面周辺部が明るくなり、レンズの違いなのか光が動いたのかが分からなくなります。
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仕方がないので、妥協案としてRAW現像で周辺減光を足して全体の諧調を似せることでようやく比較が成り立つようになります。

Contarex Planar 50mm F2(F2)
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CONTAX Planar 50mm F1.4 AEJ(F2、周辺光量のマイナス補正あり)
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というわけで、単純にレンズの違いを知るためだけならF値が違っても絞り開放同士で比べれば済むのですが、そのレンズの特性を掴むためにはこの妥協案が必要になり、それでもなお、絞り込んだ余裕という描写の差は消し切れません。つまり、レンズ比較は本質的にはF値の同じもので行わないと意味はないと言えるのですが、多少、後処理を加えることで比較を成り立たせているのがこれ以後の画像ということに注意してください。


最初のカットがContarex Planar 50mm F2、後のカットがCONTAX Planar 50mm F1.4 AEJですべて共通。
注記なければ絞りF2 マニュアル撮影で設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル

※CONTAX Planar 50mmの絞りF2はRAW現像で周辺減光を足し、F8付近に絞り込んだ場合は補正なし。



絞りF8
絞り込んだときの解像力はCONTAX Planarと遜色なく、周辺部を等倍で見てほんのわずかに劣るかな?程度。逆光なので、左下の緑に古いレンズ特有のコントラスト低下が見えます。
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絞りF8
順光の写り。Contarex Planarは基本的にややあっさり、少し青味掛かるといった感じ。
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画角はContarex Planarの方が狭いです。
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Contarex Planarの注目点はこの中途半端な距離感の硬いボケがざわついていないこと。
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CONTAX Planarのボケが大人しいのは一段絞っているので当たり前。
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絞りF4
青味がかる発色は、昔、カメラ誌で見たポジフィルムの印象と合致します。
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オーソドックスなガウス型で貼り合わせが二か所あるのに色収差が抑えられていないのが珍しいです。OrestonやPancolarの50mm F1.8なら、もっと色収差が目立ちませんが、その分の余力はどこに割り振られているかというと……。
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絞りF4
周辺光量は特に豊富でもなく、この時代のレンズとしては普通でしょうか。大きな画像を切り替え比較してみると、下の鉄柵に歪曲の差が明確にあります。
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寄ったときのボケはなめらかです。
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CONTAX PlanarはF1.4から一段絞ったことで周辺光量などの余裕ができ、同じF2でもボケが大きくなめらかになります。これはすべてのレンズに共通する法則ですが、その代わりに絞り羽の形が見えてくるデメリットも。
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後ボケの傾向は過剰補正型のように輪郭強めですが、寄ると気になりません。
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一段絞っているCONTAX Planarも、光が硬ければボケも硬くなります。
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若干の彩度の低さと青味が日陰で冷調を生みます。もちろん、デジタルではホワイトバランス次第。
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わりとContarex Planarの特徴がよく出ているカットで、低彩度、低コントラストに加え、シルバーの柵にハロが出ています。(おそらく、球面収差の過剰補正成分)
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右上に有害光のかぶり。逆光性能はオールドレンズとしては普通です。
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Contarex Planar 50mm F2(F2)
Carl Zeissといえども時代的なコーティング性能の低さは乗り越えられません。ただし、このゴーストはおそらく、絞り機構のリングパーツで発生しているのではないかと思います。
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CONTAX Planar 50mm F1.4(F1.4)
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Contarex Planar 50mm F2(F2)
ところが、反射防止性能の低さは光に敏感な性質を生み、時に、このようなシャドーの浮いた雰囲気描写を形作ります。
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CONTAX Planar 50mm F1.4(F1.4)
こちらの方が正常な描写ですが、見方によってはくどいと言えるかもしれません。このカットは絞り開放で、周辺減光は足していません。
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Contarex Planar 50mm F2(F2)
丸ボケチェック。Contarexは近接時の後ボケに余裕を感じますが、そのとおり、端のボケがかなり丸く整っています。
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CONTAX Planar 50mm F1.4(F1.4)
このカットも絞り開放、周辺減光は足していません。
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後ボケの余裕はこの背景描写を見ても分かります。二線ボケながら、微妙に流れるような描写にはなりません。
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Elmar 50mm F3.5もそうなのですが、引いた距離感では確実に二線ボケなのに寄るとなめらかなボケになります。もともと球面収差補正の形式が似ているのかもしれませんが、球面収差の変動量も大きいのかもしれません。
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歪曲は一眼レフ用50mmとしてはかなり抑えられていて、実測-2.0%以上のCONTAX Planarとは明確な差があります。
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最短30cmなので接写は得意です。ただし、過剰補正型のハロがピントの線を包みこんでいるので、ビシっとした精密描写というわけではありません。
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Contarex Planar 50mm F2(F2)
参考までに絞り開放同士の比較。
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CONTAX Planar 50mm F1.4(F1.4)
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逆光でローコントラスト化。前ボケは絞っているCONTAX Planarよりもふわっとやわらかいので、やはり球面収差の過剰補正型で正しいと思います。
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人工物を撮っても、特に細部が切れるという感じはしません。
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Contax Planarの最短撮影距離が足りないときは、中間リングを使っています。
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かつて、Oreston 50mm F1.8などでこれと似た絵を撮りましたが、ここまで歪みのない丸ボケではありませんでした。Contarex Planarは、コマ収差、非点収差がかなり抑えられているようです。ちいさな丸ボケにぽこっと膨らみができているのもElmar 50mm F3.5と似た現象です。
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Contarex Planar 50mm F2(F2)
参考までに絞り開放同士の比較。
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CONTAX Planar 50mm F1.4(F1.4)
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絞りF5.6
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ContarexのPlanar 50mm F2は王様レンズか? ……というのは次回に持ち越しですが、描写の良い部分と悪い部分ははっきりと掴めました。


良い部分は、
  • 歪曲が少ない
  • 絞ればそれなりに高解像
  • カラーバランスが良好
  • 周辺ボケが乱れない
  • 近接時のボケが柔らかい
  • 最短撮影距離が30cmと短い
悪い部分は、
  • コーティング性能が低い
  • 常に軟調気味
  • 中間絞りで星型になる絞り羽
  • ゴーストを誘発する鏡胴内面反射

これらについて、ひとつひとつ解説していきましょう。

まず、歪曲は設計の苦しい一眼レフ用の50mm、それも1960年以前の設計ということを考えるとかなり良いと思われます。比較したCONTAX Planar 50mm F1.4(-2.0%)よりも歪曲の少ないPlanar 50mm F1.7(-1.6%)が実感としてほとんど差を感じないのに対し、Contarex Planar 50mm F2はきちんと差を感じることができるので。解像力は細い線にぼやっとしたハロが滲む過剰補正型の特性を持つので、全域で高解像というわけにはいきませんが、絞り込んだ時はCONTAX Planarに見劣りしない描写を備えています。ただし、元々の写りがおだやか傾向なので、鑑賞サイズではそのマイクロコントラストの低さで細部のキレはいまひとつです。もちろん、これも現像次第という話になりますが。

カラーバランスはマルチコーティングのContax Planar 50mmに比べるとやや低彩度で青味がありますが、明るいF値で高屈折を得るために黄色みがかった硝材を使わざるを得なかった時代に青味がかるというのは、ある意味、珍しいのかもしれません。もしかしたら、当時の販売価格どおりに良い硝材を使っているのかもしれませんが、前玉は明確にイエローの反射を見せるので、コーティングレベルでも色味の調整をしているようです。(※この話は深いので、また改めて記事にします)

コーティングといえば反射防止性能ですが、これはさすがに時代なりといった感じで常に軟調気味、レンズ間反射はさほど抑えられていないようです。当然、環境光に敏感に反応するクラシカルな性質を持ちますが、逆光の空に向けただけで真っ白になってしまうような性能の低さはなく、比較的、写りは安定しているように思います。


今回、このレンズを撮りこんでいく中で一番、おや?と気になったのは後ボケの良さで、近接時に受ける印象は完全補正型のようななめらかさであり、そうかと思っていろいろな構図を試すと離れた距離感では二線ボケが強いのです。明確な資料がなく、状況証拠的には過剰補正型と言える根拠があるのですが、自分の推測としてはElmar 50mm F3.5の球面収差と似た部分があるのではないかと予想しています。大雑把には二線ボケの輪郭線が太いタイプの過剰補正型で、その輪郭線が近接によって拡散しつつ、マイナス側に動くことでなめらかなボケになるのかなと。


【仮説】 Elmar 50mm F3.5の球面収差と後ボケの関係

これはElmar 50mm F3.5の縦収差図を大雑把にトレースしたものですが、かなり古いレンズのため球面収差が極端なカーブを描いています。(※元の収差図は「アサヒカメラ ニューフェース診断室 ライカの20世紀」より)
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このタイプの球面収差は実写でどうなるのかというと、青線が示す大きなカーブが丸ボケの内側に強い濃淡を作り、中距離の小さな丸ボケの中心にぽこっと目立つ膨らみができます。赤線が示す過剰補正成分は本来は二線ボケの元になるはずですが、そのカーブがゆるやかで深いために鋭さのない太い輪郭線になります。
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こういった特徴のある後ボケが近接域で大きく広がってゆくと、中央の膨らみと太い輪郭線のコントラストが平坦化し、おだやかな丸みのあるボケ像となるのです。さらに、レンズ設計が古すぎるがゆえに球面収差の変動量が大きく、このカーブがマイナス側(上の図では左側)に動きながら変形している可能性も十分にあるということで、これらの要因がElmar 50mm F3.5の離れると二線ボケ、寄るとなめらかなボケ味という印象に繋がっているのでしょう。




そして、ほほうっと感心したのは、その後ボケが周辺部においても丸みを維持していることで、古い標準レンズで起こりがちなコマ収差によるとがりや、非点収差によるざわつき(グルグル)をほとんど感じません。おそらく、この部分がContarex Planar 50mm F2の設計で一番注力した部分であり、当時のカタログには“outstanding flatness of field(卓越した平面度)”という言葉が出ていました。Carl ZeissはPlanar 50mm F2に標準レンズとしての万能性を与えるために像面の平坦性を重視し、画面周辺部の画質にかなり気を配ったことが四隅のボケ像に表れているのかもしれません。(これは画質を上げれば自動的にボケ味も良くなるという言葉の証明でもあります)


ところで、かつてのCarl Zeissはボケ(Bokeh)に対し無頓着だったという説がありますが、それを証明する材料のひとつがContarexです。このレンズの絞り羽はあまり一般的でない方式で、わずかに絞った程度ではCONTAXなどと似たようなギザギザ絞りなのですが、そこから絞り込んでいくにしたがって星形が強まり、最小絞り付近でようやく通常の角型に戻るという不思議なものです。

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まあ、開放F2のレンズで丸ボケを生かす時には絞りませんし、大きく絞り込んだ時はボケ自体が目立たないということで、実用としては大騒ぎする必要はないでしょう。逆光時、レンズに直射光が入ったときの鏡胴内面反射(ゴーストの発生)は絞りユニットの円形パーツ由来で、これについてはよくある話です。



いろいろ書き散らしたので、いったんまとめます。

Contarex Planar 50mm F2は1950年代の設計という時代的な描写のネガを持ちながら、その後のCONTAXにも匹敵するほどの像面の平坦性などのこだわりを見せています。ただし、フィルム時代のカメラ誌などで見かけた「Contarexのレンズは底抜けに良い」という記述は、あくまで古いレンズとしては、という注釈が入るように思います。たしかに、抑えられた歪曲収差や四隅のきれいな丸ボケ、整えられたカラーバランスなど、素性の良いレンズという印象はありますが後継のレンズたちに勝るような特別な切れも感じず、発色、諧調はおとなしめです。それゆえに、短い期間で得たこのレンズの評価は、反射防止性能の低さにより光に敏感というクラシカルな味を備えつつ、特殊エフェクトのような画像の乱れがない万能的な性能の良さで、それは、まさしく1960年代当時にコストをかけ王道を行こうとした標準レンズといえるでしょう。

今回、情報の少ないこのレンズの性能評価をすこしでも確実なものとするために、国内外のWEBサイトを調べまくったのですが、一番共感できたのは“雰囲気のよく出るレンズ”と評していた日本国内のサイトでした。まさに、このレンズが持つ雰囲気描写は、被写体のありさまを正確に伝える誇張のない写りに繊細な諧調変化が加わったとてもオーソドックスなものです。したがって、ぱっと手に取って画質の乱れを楽しむオールドレンズではなく、生活の友として使い込むほどに味わいを感じる、そんなレンズかもしれません。まさしくElmar 50mm F3.5の高画質版のように。


さて、Contarex 50mm F2は当時の王道を行くレンズという方向性が分かりましたが、それが現役時代にどの程度のものだったのかは不明です。そこで、登場するのが同時代のPancolar 50mm F2、果たして、高価なレンズも一般的な価格のレンズも意外と差がないというありがちな結果となってしまうのか、それともContarex Planarがさすがに王様の格を見せつけるのか。


To be continued !!

Planar 50mm F1.4再考 #22


……あ、それとひとつ書き忘れましたが、ContarexのPlanar 50mm F2は後期型でレンズ構成が変わっていて、前側の貼り合わせが切り離された空気レンズが導入されているようです。今回、使用した個体は白鏡胴であり、S/Nからいっても前期型だとは思いますが、そのあたりの描写の変化についてはよく分かりません。あしからず。