えー皆さん……デジタルカメラを使い始めた初期の頃に、強く疑問に思ったことはなかったでしょうか? それは撮像素子に関するテクニカルなことではありません。もっと、単純なことで……


なぜ、ホワイトバランスの日陰設定は使い物にならないのか?


WB(ホワイトバランス)の数ある設定の中で、晴天は当たり前として、蛍光灯、タングステン(白熱灯)などはおおむね納得できる結果なのに、日陰だけは明らかにおかしな色味になるのです。具体的には、なんでこんなにまっ黄色になるの?

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たぶん、木陰で草花を撮影する人にこの経験は多いと思います。WBというパラメーターは基本的に感性で決めるので正解はないはずですが、無難で多くの人に好ましく見える色調というものは存在します。しかし、その範囲から大きく外れるのが日陰設定で、撮影場所が日陰だからWB日陰を選んだのに、ものすごく強い黄色被りになってしまうのです。で、結局、それは使い物にならず、おおむね良好な色を出すためにWBを手動で青方向に動かすことになるのです。


左: WB日陰(7500)   右: WB手動補正(4650)
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フィルム時代を思い返してみても、“日陰は青い”という認識はあっていますし、その証拠に日向と日陰を同時に写すと、日向は黄色く(適切な色に)、日陰は青く写り、それが一種の写真表現でもあるのです。つまり、日陰は青味がかるのでWB日陰設定が黄色味を足すのは正しい。でも、実際に撮影した写真では、そうではない場合の方が多い。なぜ?


ここでいったん、WBというパラメーターについて確認しておきましょう。詳しい説明はカメラメーカーのWEBサイトに任せますので、その仕組みがぼんやりとしか分かっていない方は一度、目を通すことをお勧めします。

OLYMPUS
デジタルカメラの基礎知識 「ホワイトバランスって何だろう?」
https://cs.olympus-imaging.jp/jp/support/cs/DI/QandA/Basic/s0012.html

ここに書かれているとおり、WBは環境光の色の偏りを補正し、正しい白を出すことができるデジタルカメラ特有の機能です。要するに、このWBという数値は撮影現場の色温度に対する補正値であり、白いものを白く写し出す(=被写体の色を正しく再現する)ために、自然界の法則にのっとってカラーバランスを動かすものなのです。

【一般的なホワイトバランスのパラメーター】
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色温度: 黄赤 ←→ シアンブルーに変化する自然光を逆方向の色味に補正する。実際の調整項目はシアンブルー ←→ 黄赤。

色かぶり補正: 緑 ←→ マゼンタという調整項目で、おもに植物や蛍光灯の緑かぶりを打ち消す。

……ということは、WB日陰設定で黄色味が足されるのは日陰が青いと仮定されているからで、そのWB日陰設定がうまくいかない(白が白にならない)ということは、実際の景色は黄色いわけです。

つまり、世の中には黄色い日陰が存在する?


キヤノンサイエンスラボ 光って何?
第2章 光を作る「太陽の光」
https://global.canon/ja/technology/s_labo/light/002/01.html


・太陽の光は「黄色」の波長が最も強い

さて、太陽から地球に来る光の色は、何色に見えるでしょうか。太陽光を分解すると、下図のようなスペクトルとなります。波長約500ナノメートル前後の光をよく放出していて、太陽が「黄色」に見える理由がよくわかります。


・人間の目は太陽光にあわせて進化した

太陽の色は「真っ赤」ではなく、正確には「黄色」であることがわかったでしょうか。人間の目が感じる光を「可視光」といいますが、この可視光は、波長400~700ナノメートル前後の光です。しかも、もっとも感度がよいのが500ナノメートル前後だといわれています。これは、人間の目が、太陽光のスペクトルに適応するように進化してきたからだと考えられています。


この解説を読む限り、自然界に存在する黄色い光は太陽光です。一方の青い光は何かというと、それは空の青です。学術的に日陰が青味がかる理由を解説している記事を見つけられなかったので説明は端折りますが、太陽光が遮られ、青空光だけが降り注いでいるのが日陰の青味のようです。

だんだんと核心に近づいてきましたね。つまり、我々がカメラで撮影する日中の環境光には、直射日光、天空光(+周囲の反射光、物体を通り抜ける透過光)という複数の要素が入り混じっていることになります。


有限会社アーキテクト・シージー
よくあるご質問 「天空光、反射光とは何ですか?」
http://www.e-acg.com/Sun_faq/SF_faq01.html

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この図にある3の地物反射光は1の直射日光と2の天空光の間接的な光とも言い換えられるので、日陰の色味はおおまかには太陽光の黄色い光と、青空光の青い光の量の違いによって変わるということだと思います。


ここまでの推論としては、世の中には黄色い日陰(青味がからない日陰)が存在する。それは太陽の直射光が遮られながら、青空の天空光よりも太陽の黄色い間接光が勝っている状況である。


つまり、その状況は概念的には太陽の直射光が遮られていて日陰かもしれないが、実際は青空光よりも太陽の間接光(反射光)の方が強いので青味がからず黄色味がかっている、もしくは同時に青空光も遮られているので結果的に太陽の間接光の方が強くなっている、ということではないでしょうか。こう解釈すると、ホワイトバランスの日陰設定が使い物にならない理由が納得できるのですが、もしかしたら、その状況は学術的には日陰とは呼ばないのかもしれません。



快晴の日陰ですが、やや太陽光の影響があるのかWB日陰(7500)では少し黄色く、WB曇天(6500)で適正でした。この場合、白い花が目安となっています。
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これも晴天日陰のはずですが、良好なのはWB手動補正(4100)。
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こういう場面は日陰ではないのでしょうか。良好なのはWB手動補正(4250)。
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間違いなく日陰といえるはずですが、手前から奥に向かって太陽と青空の間接光のバランスが変わっていくのか、WB曇天(6500)でこの程度の色味です。こういう場合は、普通、日向が黄色くなり過ぎないように補正するので下段のWB手動補正(6150)くらいが無難かなと思います。
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曇天日陰もWBプリセットが合わない典型です。WB曇天(6500)は黄色く、良好なのはWB手動補正(4600)。
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このように、現像下手の自分の作例を見ていきましたが、ひとつ注意点として、写真レンズには大なり小なり基準光での色の偏りがあるので、その偏りも加味した上でのWB補正となります。例えば、Oreston 50mm F1.8はかなり黄色く写るので、日陰の青味はある程度、自動的に補正されているともいえますし、逆に青色方向にWBを補正するときには、素の描写が黄色い分、強めの補正となります。

最後に、大まとめとして冒頭の問いに答えてみたいと思います。


なぜ、ホワイトバランスの日陰設定は使い物にならないのか?

それは日陰設定の色温度7500があまりにも極端すぎる数値で、実際の景色に当てはまることが少ないためであり、そうなってしまう理由は、日陰の色味というものが間接的な太陽光と青空光のバランスによって変化するどころか黄色味がかる事例も珍しくないからです。



補足として、空の青味と朝夕の黄色味について科学的な説明をするとこうなるようです。

お天気.com
天気に関する知識
「空はなぜ青い?空が青い理由」
http://hp.otenki.com/2129/


空はなぜ青い?空が青い理由を知っていますか?

 宇宙の色が見えている?
 海が関係している?
 空に青い粒子がある?

答えは太陽の光が地球の大気中にさしこんだ際に空気の分子とぶつかり、四方八方に飛び散る事で青く見えるようです。
そもそも太陽の光は紫、藍、青、緑、黄、橙、赤など光の波長が異なる光が含まれています。
赤が波長が長く、紫は短くなっています。

詳しい事は省きますが、波長の短い青が赤の16倍も散乱される程度が大きく、私たちの目により飛び込んでくるためだそうです。
これはレイリー散乱と呼ばれる法則だそうです。
では、より波長の短い紫になぜ見えないかというと、人間の目の感度が紫に対しては青の10分の1にしか見えないという事が原因だそうです。

高い山や飛行機から見た空は濃い青色に見えます。これは高層になるにつれて大気中の水滴や塵などが少なくなるため、空気分子が太陽光を散乱させる青をより見る事ができるためです。

一方、月や宇宙空間では大気がほぼないため、太陽光は散乱されず、黒く見えます。

お天気.com
気象・天気に関する豆知識~秋の豆知識
夕日が赤い理由」
http://hp.otenki.com/633/


太陽が地平線に近づく夕方頃は、昼頃に比べ斜めから光が差し込むため、空気層を通過する距離が何十倍も長くなります。このため、光が空気中のちりやほこりなどの浮遊物質と衝突する機会が多くなり、波長の短い青色の光は途中で散乱して、波長の長い赤色だけが地上に届くため赤く見えます。


しかし、いろいろ書きましたが、多くの人はWBに理論など持ち込まず、グリグリとパラメーターを動かして気持ちいい色味になったらそれで終了だと思います。当然、自分もそうしていますが、ではなぜ、こんなことを延々と書いたのか? それはずーっと疑問があったWB日陰の設定のおかしさに、あるとき、ぽんっとひらめいたからです。それで、芋づる式にいろんなことが分かってきて、なるほどこれは記事にしなければ、と。

このようなことが理解できれば、ポジフィルムがデイライトの色温度固定にもかかわらず様々な場面で通用していたのも(※プロの現場ではゼラチンフィルターなどが使われていましたが)、基本的なフィルムの発色特性の良さに加え、意外と太陽光と青空光のバランスが取れている日陰が多かったのかもしれないと考えることができます。付け加えるなら、曇天の青味はどこからやってくるんだろう……なんてことも頭に浮かびますが、めんどくさいのでむにゃむにゃむにゃ。

まあ、実戦で役に立つ知識ではありませんが、個人的にはとてもスッキリ。 ヽ(・∀・)人(・∀・)ノ .。.:*・