タイトルはケラレ検証ですが、ありふれたF1.4の一眼レフ用レンズくらいではまったくケラレないことが分かったので、今回はショートフランジバックのEマウントに対し、純正レンズがどういうふうに後玉を収めているのかを中心に調べてみます。

まず、いきなりこの記事に辿りついた方は前回の作図記事をご覧ください。図形に関しての詳しい説明は省きますので。

Eマウントのケラレ検証 その3 
Eマウントとマウントアダプターの関係を作図してみる
http://sstylery.blog.jp/archives/77042641.html


このEマウントに対し、実際のSONYの設計は?
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最初に、SONYが自社の設計で後玉から射出される光線の角度をどこまで許容しているか?を判断するための基準を得ておきます。その基準となるのは、α7で周辺色かぶりが発生するらしいコシナのZM、Biogon 28mm F2.8で、これをLEICA M - NEXアダプターを使ってマウントした状態を作図してみます。

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ただ、この図はちょっと問題ありで、レンズが手元になく鏡枠から露出している後玉の直径が計測できないのはもとより、対称型の光路がどのようになっているのかまったく見当もつかないことです。仕方がないので、てきとうに描いてみたこの光路図を、だいたいこんなイメージであるという程度にとどめて、次以降の比較対象としてみてください。ひとつ、この段階で気づくのは、そりゃあこんな角度で光線がカバーガラスに入射すれば、屈折で収差も増大するよなあと。

ビオゴンタイプの周辺画質低下の真相
http://sstylery.blog.jp/archives/63791037.html


……なんて、対象型広角レンズのやっかいさはさておき、ここから先の話は単純、α7で周辺色かぶりの発生するBiogon 28mmはこのくらい光線角度がきついけど、それに対して純正レンズはどのような感じなのか?を後玉の配置と合わせて見ていきます。

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まずは基本の標準レンズ、Planar FE 50mm F1.4 ZA。これはレンズをばんばん詰め込んだ高性能タイプで、さすがにフランジバックの短さを有効活用しています。計算上の後玉径は約36-34mm(※2段になっているため)で、鏡筒の厚みを考えると、このくらいがEマウントの限界なのかもしれません。作図上では、レンズ側に後玉を引っ込ませて、端の光線がケラレるぎりぎりの大きさを狙うことはできそうですが。
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標準レンズといえば、精緻な解像力が評判のSonnar FE 55mm F1.8 ZA。設計思想はPlanar FE 50mmとは別物で、焦点距離がやや長いのに後玉の曲率はこちらのほうが上です。やや暗い分だけ径は小さく、計算上の数値は約31mm。
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中望遠のFE 85mm F1.4 GM。これも高性能タイプとなり、上記のレンズと似たような配置。性能を狙ったこの三者がほぼ同じ後玉の深さとなっているために、後部の鏡筒に入る後玉径と端の光線角度を考慮した場合の最適解がこのあたりということが読み取れます。後玉径は約35-33.5mm。
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廉価版のFE 50mm F1.8。後玉はかなり前方に位置しますが、一眼レフ用のレンズよりは後ろです。普通の変形ガウスを素直に配置したレンジファインダー用レンズに見られる設計で、後玉径は約25mm。
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大口径標準ズームのFE 24-70mm F2.8 GM。これもショートフランジバックの利点を生かして、一眼レフでは不可能な後玉の配置です。後玉径は約33mm。
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望遠ズームのFE 70-200mm F2.8 GM OSS。望遠系なので、後玉はかなり前方に移動しましたが、これでも一眼レフでは不可能な配置でミラーが当たります。後玉径は約33mm。
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参考までにEOS - NEXのマウントアダプターを装着した状態でFE 70-200mmの後玉を置いてみます。一眼レフの中ではフランジバックが短いとされるEOSでも、後玉がこの深さにある設計は無理ですね。
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いかがでしょうか? これを見る限り、後玉からの光線角度はおおむね一定の範囲に収まっていて、Biogon 28mmのような無理はありません。つまるところ、自由なレンズ配置が可能なミラーレスは時にバックフォーカスを短くして後方にレンズを詰め込み、時に長いバックフォーカスで素直なレンズ構成の廉価版を作るという一眼レフにはない多彩さがあるということでしょう。これが昔ながらのライカ型カメラの場合には測距の限界があり、望遠レンズもズームレンズも現実的ではなくなるので、ミラーレスカメラは一眼レフの万能性とレンジファインダーのレンズ設計の自由度をあわせもった次世代のカメラと言い換えられるかもしれません。

ミラーレスの利点とは、
  1. 一眼レフのミラーがないのでボディが薄くなる。
  2. ミラーがないので、広角レンズを無理やり前に出す必要がなくなる。
  3. ミラーがないので、絞りより後ろのレンズを増やすことができ、バランスの良い高画質化が可能となる。
ということですね。そして、これらが小型化に寄与すると。



一方、このBiogonの周辺画質問題がとてつもなく拡大したのが、CONTAX GのHologon 16mm F8です。マニアにとって特別なHologonは、あまりにも後ろに突き出たレンズ構成のためにカメラにマウントすることさえためらわれるのですが、作図上では自由にできる!ということで試してみました。例によって現物がないので画像検索を駆使しながら疑似計測してみましたが、作成した図にはいまひとつ信頼性が足りていません。

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とんでもない後玉配置になって、光路図はBiogonよりさらに斜めになっています。こんなの現行のセンサーがまともに対応できるはずがありません。しかも、コサイン4乗則とやらの光学的な理由で、周辺が真っ暗になるのです。(※Hologonの光路図はこちらの光学シミュレーションをもとにしてみました。http://www.photo-china.net/sinsaku/r3.html

この特殊なHologonは元は15mm F8で、ZEISS IKONのレンズ一体型カメラと超希少なMマウントしかなく、新設計のCONTAX G用は16mm F8になって定価が280,000円。そんな状況を商機!と見たフォクトレンダー立ちあげ時のコシナはHologonなんてけったいなものじゃなくて、もっと使いやすい15mmをうちで出しますよ~と発売したのがSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Asphericalです。

Hologonには存在しない絞りがついて、同じ画角で定価65,000円のこのお買い得レンズは兄弟レンズを増やしながら(12mmと10mm!)リニューアルを繰り返して、とうとうIII型になってEマウント版も作られましたとさ。


……と、話が脇道にそれましたが、“ケラレ検証”というタイトルを裏切らないように、申し訳程度にEマウントで問題が起こると思われる組み合わせを作図しておきます。使うレンズはCANONのEF85mm F1.2Lで、EOS - NEXマウントアダプターを装着します。

※内部構造が示してある画像を見つけたので、画像を修正しました。
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計算上の後玉径は約42mm、金枠内は39.5mmとなりました。大口径のEOS(EF)マウントの鏡筒いっぱいまでガラスがはめられた超大口径レンズにしては意外とケラレはわずかです。ただし、EF85mm F1.2Lで作画上、問題となるのは周辺減光ではなくボケのケラレであると考えられ、特にミラーボックスの狭いEOSの絞り開放では大きめの丸ボケが横に切られている画像が散見されます。

これは、かつてのEF50mm F1.0LとともにCANONが黙認している構造的欠陥なのですが、新しいEOS RのEFアダプターが開口部をめいっぱい円形に近づけているところを見ると、CANON自身もこの問題をきちんと意識していてどうにかしたかった、という内情が透けて見えます。

※以下の図は撮像センサーの対角長ではなく短辺で作成しています。つまり、単純にカメラを側面から見たときのイメージで、ミラーボックスも奥の方は計測できないので、いつも以上に単純化しています。
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では、シグマのMC-11はどうなのか?ということでおおまかに計測してみたのがこの図です。開口部はミラーがないぶん、一眼レフよりも余裕がありますが、Eマウントの電子接点のおかげでかなり苦心した内部加工となっています。特に、この図で示せていない四隅の斜めカット及び電子接点両側のでっぱりがボケのケラレにどう影響するのかは現物で撮影してみないとなんとも言えません。
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Bokeh使いはご用心 マウントアダプターのボケのケラレ
http://sstylery.blog.jp/archives/70687022.html


そして、最後の最後にまた注意をしておきます。

今回の作図は実際のレンズを計測したものではなく、目安となる光路も必ずしも後玉の最端を通るわけではないはずなので、正確さが保証できません。

SONY 
G MASTER Engineers' Interview - G MASTER 開発者インタビュー
https://www.sony.jp/ichigan/lens/G-Master/interview/

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なので、だいたいこんな感じ~というふうにゆるく眺めていただければ助かります。もちろん、鏡筒から露出している後玉径などを教えていただけるのなら喜んで修正しますし、そしたらみんなが幸せになるはずです。いや、ならないか。

べつに、どうでもいい話ですしね。しょぼ~~ん。