今年最大のプロジェクト!  (゚∀゚)

……になってしまった理由がありましてね……ええ、EF50mm F1.4を入手したのは今年の春ぐらいなんですが、それがやや難ありで軽いクモリがあったのですよ。それならそれで、逆光はナシにした比較で終わらそうと思ってのんびり撮影を進めていたら、いつのまにかクモリがものすごく進行しているじゃありませんか!

泣く泣く修理にだし、余計な費用をかけたからにはMC-11を入手して、きちんとした比較記事にしようと準備ができた頃にはもう猛暑がはじまっていたわけです。そんでヒイヒイ言いながら撮影を再開したら、MC-11が無反応で撮影中断したり、ボケ描写を見るために入ったビニールハウスは格子状の窓のおかげで意外と光が安定しなかったりと、なんでこんなに撮り直しばっかりしてるんだろう状態。

それで、9月に入って、ようやく涼しくなってきたと思ったら、雨、雨、雨!

呪いかっ!! (°言°)


てなわけで、ようやくできあがったこれらの写真には、表にでていないものすごい手間がかかっているということを理解していただきながら、フーン ( ´_ゝ`) と軽く読み流していただければ幸いです。


結論の前フリとしては、本当にそっくりだけどまったく同じではないというわけで、これだけ似ているのにどこがどう違うのか?というのを探してみるとおもしろいと思います。今回のトピックとしては、EFはユーザー数がものすごく多く、幅広い層にひろがっているということで、わりとマニア以外の人にも内容を理解してもらえるように、解説を多めにしてみました。

撮影は9割方快晴なので信頼度はとても高く、ボケの比較は温室で撮った完全無風なのでこの比較に疑いの余地はありません。

いざ、EF50mm F1.4の正体を白日の下に!


最初の画像がEF 50mm F1.4 USM、後の画像がPlanar 50mm F1.4 AEJですべて共通。

注記なければ絞り開放 マニュアル/絞り優先AEで設定固定、WBは5200kから大雑把に調整
Photoshop Camera RAWの現像設定はα7でEOSのスタンダードを模したプロファイル


最初の注意としては、EFはPlanarよりも実効焦点距離が短く、すべての写真が微妙に広く写り、被写界深度も深くなる(ボケが小さくなる)ことです。
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色味はEFがPlanarよりもやや青く、スッキリした感じがあります。
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EFは隅の小さな丸ボケに若干、外向きのとがり(コマ収差)が見えます。この丸ボケの変形、寄り気味だと気にならないので、Planarとはほんのわずかな味付けの違いかも。
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普通はこういったこまかなボケで、もうすこし違いがでるのですが……。
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絞りF4
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絞りF8
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絞りF2.8
日没で太陽が隠れていく最中だったので、光がややそろっていません。
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絞りF4
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今回、初めて気づいたのですが、PlanarのAEJは絞ると微妙に黄色味が抜けるようです。
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絞りF8
歪曲は微妙にEFのほうが優れているように見えますが、Planarよりもフレーミングが楽だと思うほどではありません。ほんのわずか。
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EFは周辺減光が大きく、Planarと同じ露出で撮った場合にはやや暗めに写ります。画像をクリックしてタブに並んだ1000px画像を切り替え比較するとかなりの差があり驚きます。
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夕日が建物に隠れていく状況。あとに撮ったほうが青くなるので色味に信頼性はありませんが、ここで見るべきは背景描写で、癖の出るはずの小さなボケがとてもよく似通っています。
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色収差は実用上の差はなし。中央上の葉を見るかぎり、コマフレアの出方が違う?
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ほぼ最短撮影距離での接写。左側のボケ量に微妙に差が出ているのは、EFが若干、実効焦点距離が短いのと(※やや引き気味の絵になるのでボケが小さくなる)、周辺光量不足の影響で口径食が強いため。
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絞りF2
EFの周辺減光はF2.8まで絞っても、まだPlanarとの差があります。左上のボケは絞り羽根の差で、EFは8枚羽根なのでまあまあ綺麗、Planarは羽根の長さが足りないギザギザの6角です。
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絞りF2.8
撮影時の時間差が大きく、この画像の色味はあまり当てになりません。
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Planarは絞り込むと常にギザギザの影響が出るわけではありません。
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絞りF2.8
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周辺光量不足によって周辺部のボケも小さくなるので、この二つの画像を比較すると、中央と周辺のボケ量に差が出ています。手すりにひとつだけ見える丸ボケには変形が。
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こういう強いボケでは描写の本質的な違いがあきらかになります。基本的なボケ描写はほぼ同じですが、Planarの方がボケの輪郭が立っています。
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ただし、この輪郭の強さは手持ち個体の癖で(※この描写が気に入っているので使っている)、もうすこし平均的なPlanarだとこの差はなくなるかもしれません。
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木漏れ日が動いて光がそろわなかったので、RAW現像でEFの周辺減光を補正してグルグル感を比較してみました。背景のボケをよく見れば、これまで言及した特長もでていますが、やっぱりよく似ています。
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絞りF2.8
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絞りF8
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絞りF8
気のせい程度ですが、こういった絵柄の等倍解像ではEFがPlanarを上回りました。
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あまりに気持ちよく解像していたので、EFの一部切り抜きを掲載します。(※クリックで等倍表示)
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絞りF4
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Planarは内面反射によって、こういう場面では必ずシャドーが浮きます。よくいえばクラシカル、悪くいえば低性能。逆光時の描写はおもにコーティングと鏡胴設計というふたつの要因にかかっていますが、PlanarのAEJは後者に弱点あり。
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EFの発色はどんな状況でも安定していて、Planarと写りの印象は変わりません。
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最初に結論をどかんと置くと、観賞者のごく一般的な目線ではEF50mm F1.4 USMとPlanar 50mm F1.4 AEJはまったく同じ写りといえ、CANONユーザーがPlanar神話に惹かれるのなら、普通にEFを買っても変わりはありません。ただし、そこにはいくつかの注釈がつきますが。

まず、今回の比較に使ったのが前期型のAEJということで、仮にこれが改良のある後期型のMMJだったなら、この評価も多少違ってくるということです。

そしてもう一点、ここが一番重要なのですが、EFはAFという絶大なアドバンテージがある代わりに、MFで精密なフォーカシングをするのが難しいです。きっちり等倍レベルのピント合わせができないわけではありませんが、金属製のMFレンズとは比較にならないほど神経を使います。その理由は、AF速度優先のためにピントリングの内部が軽いギアの組み合わせとなっていて、ピント合わせの最後の微調整に追従する繊細さがないからです。

したがって、MFレンズならグリスの粘度を利用しながら、ス――ククッと手早くピントを合わせられるところが、このレンズの場合は、気難しいピントリングに神経を使いながらジワ――ジワ――ジワ――(たぶん、ココ)と、いまひとつ心もとない感じになります。

つまるところ、描写のよく似た両者の得意分野はまったく違うということで、俊敏なAFで被写体をとらえるEF、精密なMFを思いどおりに操れるPlanarと、お互いに相容れない個性があるといえます。


一方、直球で語った結論とは別に、こまかな描写の違いについてはこのようになります。

ほとんど同じ写りに見えるEFとPlanarの最大の違いは周辺減光であり、これは画面周辺部のボケにも若干の影響を与えています。EFは広範囲の周辺減光によって画面が暗く見え、状況によっては光が変わったかと思うほどなのですが、その強い周辺減光が画面端のボケ量を小さくし、丸ボケのレモン形状を大きくするのです。実際には、さして絵作りには影響しない程度ですが、周辺減光に関しては個性の強いオールドレンズ風味に見えるかもしれません。

左: EF50mm F1.4 USM  右: Planar 50mm F1.4 AEJ
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その他の違いはほんとうに微差となるのですが、画角はEFのほうが微妙に広く、これは実効焦点距離51.6mmを基準として長い方にばらつくことが多い標準レンズとしては珍しいタイプです。Rollei Planar 50mm F1.4(実効焦点距離50.6mm)ほどのあきらかな短さではありませんが、CONTAXのPlanarと比較するとほんのわずかだけ広角ぎみに写ります。

発色はPlanarと遜色なく、日陰や夕闇でも鈍りませんが、MMJよりもやや青くなるAEJよりもさらに微妙な青味があり、スッキリとした抜けのよい色彩感です。EFレンズはもともと発色に定評があるので納得の結果ですが、この青味にはさらに発売年代の新しいNOKTON 58mm F1.4ほどではないバランスの良さがあります。レンズの色については、時代がCONTAXに追いついたという感じで、1993年発売のEFにひけを取らない1975年発売のPlanarの発色性能恐るべしといえるでしょう。

発色と密接にからみ合うのはコントラストで、これについては本質的にはまったく同じといえますが、EFには広範囲の周辺減光が、Planarには内面反射によるシャドー浮きがあり、強い環境光ではその差が明確にあらわれます。レンズ内部に反射要因がなく、逆光に強いのはEFです。(もし、EFがすぐにフレアっぽくなるというのなら、前後からライトを透かせてクモリの確認をしてみたほうがいいでしょう)


みなさんが一番興味あるであろうボケ(Bokeh)についてですが、おそらくEFの球面収差はPlanarと同じ完全補正型と思われ、この二者の画像をごちゃまぜにすると、どちらがどちらだかわからなくなります。ただし、EFは若干、口径食が強く、四隅の小さな丸ボケは外向きにとがる変形も見えるので、Planarとは微妙に設計バランスが違うようです。これにより、丸ボケはPlanarのほうが有利ですが、絞り羽根はEFの8枚に対してAEJはギザギザという難点があるので、結局はどっちもどっちという評価に落ち着きます。

以下は、マクロスライダーを使って実効焦点距離の差を吸収し、明るさの微調整も加えて可能なかぎり絵柄を一致させたボケ比較。

画面隅のボケに口径食の差が見えます。
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背景のざわざわしたボケなどは描写の違いが出やすいはずですが、まったく同質です。
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ボケの拡散量が大きくなると描写の癖が消えていくため、さらに区別がつかなくなります。
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像倍率をそろえたことで余計にPlanarのボケの輪郭が目立ちますが、これは手持ち個体の癖だと思います。
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その他、解像力は絞り開放では特に差は見えませんが、絞り込むとEFの方が気のせい程度に上に感じることがあり、歪曲は微妙にEFが有利ですが実用上の差は感じず、色収差はフリンジの出方に差はありますが量としてはほぼ同じという具合で、明確な差といえるほどのものはありません。


【EF 50mm F1.4 USMとPlanar 50mm F1.4 AEJの違い】

色調  相対的にEFに微妙な青味、絞り込むとほぼ同等
明るさ  中央はほぼ同等
コントラスト ほぼ同等 

解像力  EF≒Planar
ボケ  EF≒Planar
ボケ(周辺部) Planar>EF
歪曲補正  EF>Planar
周辺光量  Planar>EF

逆光性能  EF>Planar
画角の正確さ  EF>Planar
絞り羽根  EFは8枚 Planarは6枚でぎざぎざ


EFとPlanarの違いについてわかりやすくまとめると、実用上はまったく同じ写りだがEFの周辺減光の大きさだけは目立つ欠点で、ピントはつかみやすいが、精密さのないピントリングのおかげでMFは難しい、となります。

AF主体で撮るならEF、MFでじっくり開放撮影を楽しみたいのならPlanar。どちらも良い悪いがありますが、トータル性能では若干、EFが上回るかな?といった印象です。また、アダプター遊びが花盛りの現代的な観点からは、Planarの逆光耐性の低さはオールドレンズ的ともいえるので、そちら方面の雰囲気描写が好きな人にはPlanarのほうが合うかもしれません。

補足として、Planar 50mm F1.4 MMJ以降のレンズ(N Planar、ZF/ZE含む)はAEJの弱点である逆光耐性と絞り羽根のギザギザが改善されていますし、設計バランスの変更がある可能性もあるので、この評価はあくまでAEJだけのものです。


EF50mm F1.4 USM
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Planar 50mm F1.4 MMJ
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このシリーズ記事はPlanar 50mm F1.4 AEJを主役としているのでMMJはおまけ扱いですが、若干のカラーバランスの変化があり、EFとの印象の差はAEJよりも広がっています。



……ふう。長い文章ですが、まだついてきてますか? 最後の締めくくりに入ります。

EF50mm F1.4 USMは「写真術」の日沖宗弘氏が“レンジファインダーカメラ用の名玉に太刀打ちできる”と評したレンズです。これを今回の比較結果に照らし合わせて解釈するならば、彼の目にとまったのは、1993年というかなり遅い時期に発売された一眼レフ用50mm F1.4の完成度の高さだったのではないでしょうか。

それは、Planar 50mm F1.4の優良個体以上のピントが得られる素性の良さに加え、逆光に耐えるコントラストの高さと色彩感の良さ、暗がりでも発色の鈍らない安定度と適度なやわらかみ、すなわち彼がさんざん苦言を呈してきた一眼レフ用の50mmが新しい硝材や進歩したコーティング技術を得たことによって、ようやく(彼の中で)レンジファインダー用の50mmと勝負できるほどになってきたということです。

【各社のAF用50mm F1.4の発売年】
1985 MINOLTA AF50mm F1.4 (MINOLTA α)
1986 Ai AF Nikkor 50mm F1.4S (NIKON F)
1991 FA 50mm F1.4 (PENTAX K)
1993 EF50mm F1.4 USM (CANON EF)

いや、新しいレンズが良いのはそりゃそーでしょうよ、という意見もあるでしょうが、EFを実際に使ってみても特段の癖は見当たらず、むしろトータルバランスの良さが印象に残ったことに加え、もともと日沖氏は古いレンズに固執しているわけでもないのです。少なくとも「写真術」の中ではできるだけフラットな目線でレンズ評を書くことを明言しており、その追記においては、1990年代末期に発売されたシグマの軽量ズームさえ優秀だと認めていたくらいです。

なので、時代の趨勢として、ある時期の国産標準レンズに日沖氏は不満があり、それが段々と改善されていく流れの中で、そつのないEFの写りが目に留まったのかな、というのが当方の見解です。

一方のPlanar 50mm F1.4ですが、はっきりいうと現代においてこのレンズは名前ばかりが持ちあげられすぎで、他社となんら変わりない6群7枚の変形ガウスになにか素晴らしい特徴があるわけがないのです。言い換えれば、1970年代当時に頭抜けていた性能バランスの良さもやがては各社横並びになり、レンズ構成でも特別な個性がないこのレンズは描写の差異も見い出せなくなってくる。そんな物語を浮かび上がらせるのがEF50mm F1.4 USMかもしれませんし、実際に1990年代後半のカメラ誌によるレンズ比較でも、いつも他社との差がわかりづらいのがPlanar 50mm F1.4でした。

しかし、逆に考えれば、発売が30年近くもあとのレンズにひけを取らないPlanarはたしかに先進的な写りだったのでしょうし、仮にその個性が時代とともに埋没してしまったとしても、AFレンズにはない金属製MFレンズの精密さをあわせもつPlanarには、やはり独特の存在感があるのかもしれません。


今回、新たな発見があったのは、Planar 50mm F1.4 AEJは絞るとわずかに黄色味が抜けることで、F2以降ではPlanarのほうが青いと感じるときも少なくありませんでした。この変化の理由にはひとつの仮説が思いつき、おそらく、AEJに残るわずかな内面反射が絞り羽根によって切られるからではないでしょうか。

なぜ、そう考えるのか?というのは、他の記事で作成した自作ソフトフィルター(わざと傷だらけにしたPフィルター)をPlanarに装着したら色再現がおっとりした暖色系に変わったので、レンズ内部の有害反射がカラーバランスを変えてしまうこともあるのかな?と。

そんなこんなで、いろいろな発見があった今回の比較ですが、最後にまとめると、他社レンズとの比較でこんなに似ていたレンズは初めてだ!という感想と、このふたつは両方買ってもAF特化、MF特化でちゃんと使いわけられるよ!という困ったアドバイスで終わりにしたいと思います。

 ( ̄ー ̄) ニヤリッ