この問題は自分だけだろうか……と調べてみるとそんなことはなくて、価格.comでも似たような疑問を書いている方がちらほらといるようです。

 緑が綺麗に出せません
http://bbs.kakaku.com/bbs/K0000789764/SortID=19197598/

 α7の発色について
http://bbs.kakaku.com/bbs/K0000586357/SortID=17014434/

α7/α7IIは、旧世代のEOS 5Dと比べると発色や階調感が雲泥の差でとても満足しているのですが、そのわりに葉の緑の現像がうまくいかず、最近はどうもトイカメラ調の仕上げで逃げてばかりです。これをもっと繊細で自然な仕上げにするにはどうしたらいいのだろうか…? なにしろ、以前の機種が古過ぎなので、今の世代の撮像素子に慣れるには時間が必要だろうと覚悟はしていましたが、まさか発色が良いのが仇になるとは思ってもいませんでした。

そんなこんなでいろいろ考察し、なんとか現時点での改善策を見つけたのでそれを記事にしてみたいと思います。なお、Google検索してみても、この話題が特に引っかかるわけでもないので、これはRAW現像が苦手なマイノリティの話としてしょんぼりしておきます。

なので! どんな機種でもどんな場面でもセンス一発で現像できる方はさよ~なら~。 ( ;∀;) ウラヤマシー


まずはα7/α7IIの写りを評価してみると、どんな状況でも色がよくでる!に尽きると思います。これは、フルサイズ黎明期の画素ピッチだけが取り柄であるEOS 5Dからのジャンプアップだったこともおおきく、順当に機種を変えてきた方が同じように感じるのかはわかりません。ただし、この発色の良さ=やわらかな光の中でさまざまな色が競演するようなα7の持ち味は単純なセンサー性能の他に、SONYが用意したカラープロファイルにも理由がありそうです。

そのことを相対的に示したのが、これ。

α7/α7II クリエイティブスタイル: ニュートラル→スタンダード
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EOS 5D ピクチャースタイル: 忠実設定→スタンダード
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同条件で撮影し、右から三番目のグレーに明るさを合わせたマクベスチャートですが、この中で異質なのがα7/α7IIのスタンダードです。通常、スタンダードと呼ばれるカラープロファイルは汎用性を重視し、後処理なく使えることを目指したものですが、α7/α7IIの場合、コントラストは軟調のニュートラルとほぼ同じで、おもにマクベスチャート中段の彩度が上がるだけです。これは実際に撮影したRAW画像に対し、Image Data Converterでプロファイル切り替えを試してみれば気づくことですが、α7/α7IIのニュートラルとスタンダードはよく似ていて、複雑な味つけはほとんど感じません。

一方、スタンダードのもとになっているニュートラルをEOSの忠実設定と比較すると、コントラストはほぼ変わらない軟調ながら下から二番目のグレーが濃く、それに引っぱられてか全体の色が濃厚な印象があります。

このように、SONYの基本プロファイルはフィルムを模して明確な用途を設定したEOSとは違って(※たとえば、EOSのスタンダードはプリント用の高コントラストで鮮やかさと渋さを兼ね備えている)、色彩感の個性は少なく一様に発色が良い設計となっています。おそらくSONYの考える色彩設計としては、さまざまな閲覧環境となるデジタル時代に多くの方が喜ぶであろう見栄えの良さ、すなわち、撮像素子の性能を生かした軟調かつすべての色が綺麗に発色するチューニングを目指したのかもしれません。試しに、α7/α7IIのスタンダードをEOSと同じコントラストまで持ち上げてみると、非常に彩度が上がってくどくなります。

  • 近年の撮像素子の性能は素晴らしく、とてもよく現場の色を拾う。
  • SONYのカラープロファイルはあまり各色に差をつけず、発色が一律。
    (※特別な色彩効果を狙ったものは除く)

以上の特徴は、弱い光でも豊かな色彩感が楽しめる強みでもあるのですが、その一方で、各色の主張が強すぎる人工的な発色になりやすいデメリットをも含んでいます。SONY機及びそのカラープロファイルは一律の色の強さを持ちますが、それが極端な撮影条件になると不自然な緑色となって撮影者を悩ませるのです。



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しかし、SONYのプロファイルを使わなくても緑色が変になるよ、という声に対してはもうひとつ、写真の基本原理を説明しておきましょう。


はっきり言うと、α7シリーズで緑色が手に負えなくなる絵柄はこういうものが多いです。

スタンダード WBオート
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プロファイルをニュートラルに変えて彩度を落としてもただ地味になるだけだし、どうすればいいんじゃ~とRAW現像のセンスが問われる場面です。ただし、これは全機種/全メーカーで起こる現象で、色温度のズレと色かぶりというふたつの問題を認識することで、とりあえずの形まではもっていくことが可能です。

それにはまず、日陰で起こる黄色かぶりを取ってやり、次に全体にかぶっている緑色を薄めるのです。
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なお、色かぶり補正のマゼンタですが、WBオートの場合はたいてい緑色に対しマゼンタが強くなる補正が入っているはずです。それはなぜかというと、カメラのWBは撮影現場の色温度を理解しているわけではなく、単に画像の色分布に対し、反対色を入れて中庸な色彩になるように調整しているだけだからです。(※もちろん、メーカー独自の複雑なアルゴリズムがある)

なので、こういったケースではどの程度、黄色味を抜いてマゼンタを足すか?ということが手動調整の肝となるのですが、マゼンタは他の部分に赤みを乗せるので、必ずしも主要被写体の色かぶりをしっかり補正すればうまくいくとは限らないことに注意してください。

参考までに反対色となる色の関係。これをイメージすると、WBオートでは青みが強い場面が黄色に濁ったり(=無理やりニュートラルグレーに補正している)、夕焼けが青っぽくなっていたり(=カメラが夕焼けという状況を理解していない)、緑が妙にくすんだりする理由(=補色のマゼンタを入れ過ぎている)がよくわかると思います。

女教皇の聖壇 「色彩学講座 色相関」
http://rock77.fc2web.com/main/color/color1-2.html

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ついでに補足すると、街中スナップが無難なWBに収まりやすい理由は、コンクリートの灰色がニュートラルグレーの基準になるのと、あちこちに点在するさまざまな色は計算上ほとんど無視できる(画面内の色が多いとそれぞれの補色が互いの効果を打ち消し合う)からです。


話をもとに戻しますが、色温度のズレはさておき、日中の木陰などで写真を撮ると、なぜ強い緑かぶりになるかというのは、その場所が周囲の葉による緑色の透過光や反射光に厚くおおわれているからです。緑の中に人を立たせると肌が緑色ににごるのはポートレート撮影をしている方には常識でしょう。昔話になりますが、ポジフィルムのベルビアはこの緑かぶりでさえ美しいと思わせる素晴らしい色彩表現を備えていました。

イメージ画像
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以上をまとめると、α7/α7IIの緑色の難しさは、

近年の撮像素子の色ノリの良さ + 各色が一律に発色の良いSONYのカラープロファイル + 木陰の黄色かぶり + 木陰の緑かぶり

が、一体となって発生していると言えます。これらを単純にとらえると葉の緑色が飽和気味ということであり、発色の良いレンズ、または黄色味の強いレンズほど、この扱いが難しい感触があります。


では、この問題を解決するにはどうすればいいでしょうか?
現像を苦手とする人間がα7IIを三年くらい使ってようやく分かってきたことは、とにかくSONY機は緑色が強いことを意識して、

彩度の上がるスタンダードのプロファイルを選ばない(第一の選択肢にしない)
・木陰の色かぶりは先にできるだけ取り除く
・緑色のみ彩度をがっつり下げる
・必要があれば黄色も彩度を下げる
・それでも気に入らなければ緑の色相をシアン方向に動かす

つまり、重要なのは突出した緑色を限定的な補正で狙い撃ちすることで、全体の彩度を上げたい場合は、まず地味な色調でバランスを整えてから、彩度のパラメーターを上げていったほうがうまくいきます。


緑と黄の彩度下げ。これはAbobe Camera Raw(Lightroomと同じ)ですが、個人的にはグリーン-30をひとつの目安としています。
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緑色の微調整。グリーンを右方向へ動かすとシアン味のエメラルドグリーンに近づいていきます。
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※以下の実例は、お手本ではありません。

カラープロファイルはSONYのスタンダード、WBは晴天です。
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カラープロファイルをニュートラルに変更。やや彩度が落ち着きますが、スタンダードとニュートラルにあまり差がないのがSONYのプロファイルの特徴となります。
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WBで黄色を抜き、マゼンタを足して木陰の緑被りを修正。発色が良すぎて葉に反射した青が異様です。
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黄と緑の彩度下げ。リアリティのある写りを目指します。
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青の彩度下げ。写真的誇張はなくなりますが、今回はこれで。
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コントラスト調整で完成。実際の作業はこれらを行ったり来たりします。
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この問題の本質はおそらく、色の渋さや微妙なさじ加減を望まないSONY機のチューニングに木陰などの偏った環境光が合わさると、崩れたカラーバランスがばきばきに強調されてしまうということではないでしょうか。したがって、とにかく発色の良いレンズは彩度を下げる意識を強くしないと色が強くリアリティのない写真になりがちですし、逆に発色の悪い地味なオールドレンズは特になにもいじらなくても良い雰囲気になる傾向があります。

余談ですが、なぜEOS 5Dではこれが問題にならないかというと、フルサイズ黎明期のCANONセンサーは発色が浅めなので木陰の難しい状況でもけっこう様になるのです。基本的に写真は硬い光に軟調現像、やわらかい光に硬調現像という足し引きでバランスするので、発色がいまいちなEOS 5Dと緑色が飽和気味の絵柄というのは組み合わせの良さがあるのでしょう。しかし、他の場面では物足りなくなったりもするんですが……。


結論としては、色のよく出る現在のカメラでは、反射光/透過光の色被り、画面内の色温度の違いをいっそう強く意識して現像操作を行わないと自然な質感再現は得られないということと(※太陽光が射し込む素直な環境光ではそのような心配はない)、渋みの演出がないSONYのカラープロファイルは特定色の彩度/色相を操作するとうまくいく可能性があるということですね。また、そういった色の強さが一見、なんの変哲もない絵柄に複雑な色彩感をもたらし、現在のデジタル写真のインパクトを形作っているともいえるのでしょう。たぶん。