うちのサイトはWB固定の厳密比較などやっておりますが、いくらでも色補正が可能なデジタル時代にそんなことを把握するのは意味があるのか?という疑問が湧くことでしょう。

Planar 85mm F1.4 MMJと、N Planar 85mm F1.4の違い
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答え: 実用的な意味はほぼありません。


……なんですが、実際に色の偏るレンズをRAW現像でぐりぐりいじると、例えばN Planar 85mm F1.4なんかは元の黄色味を補正し過ぎない方がしっくりくるなんて感覚も否定できません。その昔、有名だったコダックカラーネガの黄色っぽさも、それをプリント時に抜き過ぎると色に力がなくなるとも言われていました。

それらの感覚の正体は何か? カラーバランスの偏るオールドレンズで写した画像には、いったい何が起こっているのか?

これらの謎をぼんやりと解き明かしてみたいと思います。


いきなりですが、核心的な実験です。
カラーバランスの良いレンズを使って色温度5200k付近のライトでマクベスチャートを撮影、さらにLBB-12を装着して再撮影します。
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ノーマル撮影
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LBB-12を装着して撮影
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二回目の撮影は強いシアンブルーの色かぶりとなるため、当然、このような違いとなります。これをオールドレンズの個性と仮定してRAW現像で強制的にニュートラルグレーに補正してみましょう。被写体がマクベスチャートなので、スポイトツールで最上段中央のグレーをクリックするだけで適切なカラーバランスに復帰します。


LBB-12を装着して撮影+WB補正
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一発できれいな色が出て、さすがデジタル処理の力は凄い…と感心しますが、ノーマル撮影とこの結果を厳密に比較すると各色にはズレがでているのです。


マス目の左半分: ノーマル撮影
マス目の右半分: LBB-12を装着して撮影+WB補正
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これは何が起こっているのかというと、撮影時に濃いシアンブルーの色が足されることによって可視光線のバランスが崩れてしまっているので、単純なグレー矯正ではノーマル撮影と同じにはならないということです。つまり、これにならってオールドレンズの色かぶりの実態を解釈すると、強い色かぶりのあるレンズはWB補正後も描写の個性は消えることはないということですね。

今回の実験では、強い青かぶりをニュートラルグレーに補正すると適正より青色が薄くなるという結果が出ているので、強い黄色かぶりをニュートラルグレーに補正すると適正より黄色が薄くなる、すなわち、コダックの黄色味を抜き過ぎると色に力がなくなるという言説が正しいとするならば、その理由は、この法則によって他より黄色が薄くなる=画像のこってり感が後退するからではないでしょうか。


しかし、現実的な話として、この実験ほどに濃厚な色かぶりの起こる(基準光でまともな色が出ない)のは黄変したアトムレンズくらいと思われるので、レンズの色の個性はカラーバランスを自由に動かせるデジタル撮影において、それほど明確に意識すべき事柄でもないだろう、というのが公平な意見だと思います。

もちろん、色というのはコントラストや彩度なども関与しているので、それらも含めた意味では反射防止技術の不足などで性能の安定しない古いレンズほどデジタル修正がしにくい=個性を消しにくいということはいえるはずです。その逆で、性能の安定している新しいレンズほどデジタル修正で個性を消しやすいとも。

いちおう補足しておくと、カラーバランスの崩れたレンズをWB補正後にさらに適正に追い込むことは可能で、その場合は個別の色をひとつひとつ直していくことになります。また、そういった各色の矯正を自動計算で行うのが、商品撮影などで便利なカラーチェッカーパスポートです。

DENJUKU
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というわけで、レンズの色の個性はWB補正のあるデジタルカメラではほとんど意味がないが、現像操作時に撮影者がなんとなく感じる違和感にはきちんとした根拠があるっぽい、とまとめたいと思います。


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カテゴリ :「よもやま話」