Carl ZeissのグローバルサイトはCONTAXの旧レンズやCOSINAの新型レンズのデータシートを確認するためにちょくちょく訪れていますが、この間、こんなリンクを見つけました。

レンズのカビ? なにこれ。
https://www.zeiss.co.jp/camera-lenses/service.html
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個人的に、いまだかつてカビについて解説したカメラメーカーのWEBサイトなんて見たことがありません。カビはメーカーが責任を持つようなものではなく、ユーザーの扱い方次第で発生したり悪化したりするものです。むしろこれに縁深いのは修理業者であったり、防湿庫のメーカーですが、ZEISSが解説するカビの内容とは、いったいどんなものなのでしょう。

https://www.zeiss.co.jp/camera-lenses/service/content/fungus-on-lenses.html
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非常に簡潔に有意義な内容がまとめられているので、ぜひ読んで頂きたいのですが、重要な事柄を抜き出して自分なりに補足してみたいと思います。



■カビはどこからくるのか?

真菌胞子は身の回りに溢れており、環境条件が揃うと発芽します。

(つまり、目に見えなくてもガラス面にはカビ菌が付着している可能性がある)

最低70%の相対湿度(3日以上)
(相対湿度=一般的な湿度計の表示。高湿度で3日以上の放置がまずい?)

空気循環がまったくない、またはほとんどない
(ホコリを避けるように保管すると大抵、密閉空間になる!)

暗闇
(強い紫外線や温度上昇を避けるため、室内の保管場所に日陰を選びがち)

栄養(布の糸くず、グリース跡、ワニス、と土)
(ホコリもカビの養分)

10~35°Cの温度
(ごく普通の生活温度)



■カビを避ける方法

以下の保管方法で、相対湿度を60%以下に保ちます(器具の劣化を招く恐れがあるので30%以下は避けてください)

湿度計で環境状態を確認できる防湿保管庫
除湿剤(シリカゲルのパックなど)と並べて容器に入れる
(これらはカメラ業界で言われている一般的な対策方法)

内側をファンヒーターまたは白熱灯で40°C(最大50°C)に温めることで相対湿度を下げる
(空気中の水分量が同じなら庫内の温度を上げることで相対的に湿気の度合いが減るらしい)


使用を終えた機器はただちに掃除します。可能な場合は、ファンを使って表面水分の蒸発を促します。レザー、布、または木製の容器は保管に使用しないでください。短波長太陽放射または紫外線ライトに晒すこともカビ防止に役に立ちます。
(きちんと掃除することでカビの栄養分を取り除く。太陽光及び紫外線の殺菌効果)



これらの説明を読むと、カビの発生原因は機材の保管と折り合わない矛盾があることに気づきます。機材のホコリよけをすると空気は循環せず湿気を逃がすことができなくなりますし、それらの保管場所は太陽光を遮る作りが一般的です。さらにレザーは吸湿性のあるカビの養分ですが、カメラケースでは馴染みの深い素材です。つまり、昔の人がフィルムカメラを大事に大事にしまっておいた結果、物凄いカビを発生させてしまうのは、なんら不自然な行為ではないということです。
裏返すと、ベテランの方がよく言っている「レンズ(カメラ)にカビを生やさないためには頻繁に外に持ち出して使うことだ」というのはまさに真実で、写真をきちんと撮っていればレンズは日光に当たりピント操作などで内部の空気も動きますし、当然機材も汚れるので清掃も怠けることはありません。

そして、もっとも重要なのは、真菌胞子は身の回りに溢れているという文言で、これは私たちが通常抱いているイメージを根本から覆す事実です。そこで、カビを正しく知るにはカメラ機材から離れてカビそのものについて調べるべき、と検索を掛けると、以下のような説明が出てきました。

株式会社チャフ・スカラップ
「カビはなぜ生える? カビを防ぐには」
http://www.chaff-scallop.co.jp/kabihanasi/

カビというものは、空気中にどこにでも漂っています。カビの胞子が空気中に浮いているのです。スギ花粉のように、タンポポの種のように、浮いています。カビがいることは自然なことなのです。そのカビがあちこちに付着して、発育条件がそろうと芽を出します。

カビは温度が25度~30度、湿度が80%以上で栄養分があるところによく育ちます。しかも風通しが悪いとよく増えます。

日本の季節で言うと、春から夏がカビシーズンですが、現代では住宅事情が良くなり、冬でも室温は高く、しかも結露するので、ほぼ一年中カビシーズンなのです。共稼ぎで部屋を閉めきっておく時間が長いご家庭は、カビにとっては絶好の環境です。

DUSKIN
ご家庭用ホーム>くらしのお役立ち情報>カビについて
https://www.duskin.jp/lifeinfo/hokori/kabi/

カビの胞子は目に見えませんし定着したばかりの時にも目には見えません。実は、カビの色というのは、十分に成長した時に作る「胞子」や「色素」によって見えるようになるのです。


ガビ~~ン。
つまり、カビ対策とはカビ菌を付着させないことではなく、身の回りにあるカビ菌を発芽させないための努力と言えるのかもしれません。油断すると簡単に発生してしまう生活空間のカビにはこんなカラクリがあったのですね。

上で紹介したダスキンのページにはこのような解説もあります。

https://www.duskin.jp/lifeinfo/hokori/kabi/
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私たちが工夫できるのは湿度と時間(悪い環境や状態を持続させない)のたった二つ、結局のところ頻繁に撮影できず、小まめな機材管理をする時間もない一般のアマチュアには防湿庫が最有力になるという話でした。

では、実際に防湿庫はどれほどの効果があるのか?ですが、うちはレンズやフィルムを入れておけるきちんとしたケースや戸棚が最初からなかったために、素直に東洋リビングの防湿庫を導入して20数年、カビの発生=発芽は一度もありません。なぜ東洋リビングか?というのは90年代はこの会社がスタンダードで(ケンコーのフィルターみたいな立ち位置)、それを少し高級感のあるトーリハンが追いかけていたという構図になり、とりあえず無難で買いやすいモデルを選んだだけなのです。



今ではこれら有名メーカーの半額で手に入る物もありますが、簡易日本語説明書などの表記から中国製品がぞくぞくと進出していることが推察できます。右の大石電機は主要電機回路基盤は日本製と、ただの輸入販売ではない品質を保証していますがその分、値段差は縮まります。



カメラ用防湿庫業界に新たなチャレンジャー現る
細かい機能や造りの良さがうれしい「SIRUI HC110」
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/item/1051613.html

今年2月に開催されたCP+2017では、カメラ以外にも多くのアクセサリー類が新たに発表された。三脚や雲台をメインに展開するSIRUI(シルイ)も同様で、いくつかの新しい製品がブースに並べられていたが、そのなかに防湿庫がさりげなく展示してあったことは筆者自身強く記憶に残っている。

近年、三脚や雲台で名を挙げているSIRUIですが、これぐらいのメーカーになると価格優位はないようです。



他のカメラ用品もそうですが、日本製の安心を取るか、実用重視で当たり外れのある中国製を取るかはなかなか難しいところです。昨今の日本製品もいろいろな事情で昔ほどの品質はなくなっているので、結局は国内メーカーの安心料をどう捉えるか?ということになります。正直な話、今、新規に防湿庫を選ぶとしたらものすごく悩むと思います。中国製品といっても以前ほど低品質ではなくなっていますし、逆に10年以上使う物で1万や2万の価格差に拘っても……。

長年の防湿庫の使用感としては、沿岸地域で潮風の湿気にまみれ、屋根が低いために夏は暑く冬は寒いという劣悪な環境でトラブルゼロという実績の上に、なにより機材を庫内にほったらかしにしておけるのはとてつもなく楽です。ユーザーメンテナンスとしては時々故障がないか湿度計を確認するだけで、季節や室温によってその数値も変動しますが、いちいち神経質に調節する必要もなくZEISSの推奨する湿度30~60%に収まっています。(たまに、この数値が上にも下にも越えますが特に気にしていません。)


正直、この置き方はよくないかも……。
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ただ、頻繁に防湿庫から出し入れする時はちょっとめんどくさいので、最近では一時的な保管場所にドライボックスを併用できないかなとも思っています。シリカゲルをコンセントで温めて再利用する除湿ユニットも隠れた便利商品らしいですし。右の広電は安い分、再乾燥時間は15時間と非常に長いです。



ちなみに、おれっちは防湿庫なんて使ってないけど、カビなんて一度も生えたことないぜ? みたいな方もいてたまに防湿庫不要論なんてのも見受けられますが、先に挙げた引用を振り返るに、機材を置く室内環境は個々人によって違うってことではないかと思います。住宅事情や地域による気候の良し悪し、一人暮らしの部屋の密閉時間などなど……。

現代では住宅事情が良くなり、冬でも室温は高く、しかも結露するので、ほぼ一年中カビシーズンなのです。共稼ぎで部屋を閉めきっておく時間が長いご家庭は、カビにとっては絶好の環境です。

そもそも日本は北は北海道から南は沖縄まで縦に長い島国ということで、狭い国土に多彩な生活環境で暮らしているとあれば、あなたのおうちのセオリーはわたしのおうちでは通用しないかもしれない、ということですね。ジャンク好きの人の話では、同じ室内環境でもカビの出るものと出ないものがあるそうで、レンズにカビの養分が定着しているか否かも大きいのではないかと思われます。例えば、前玉後玉なら汚れの拭き残し、中玉なら揮発した油成分の薄い膜(クモリ)など。



*****

元の記事に戻りますが、ZEISSはカビの除去方法にも言及しています。レンズにカビが発芽したとしても、綺麗に落ちる場合もありますので、早期発見が重要だと思います。タバコの灰が研磨剤になるというのは面白いですが、いまではタバコ自体が高い……。


https://www.zeiss.co.jp/camera-lenses/service/content/fungus-on-lenses.html
■カビの除去方法

カビの発生した表面を、殺菌剤にひたしたコットンワイパーで拭います。コットンワイパーは、爪楊枝の先端にコットンを先細の球状に巻きつけることで簡単に作成できます。調整綿や浸透綿ではなく、純綿を使用してください。やや腐食された光学面はレンズ用クリーニングクロスでしっかりこすります。タバコの灰を研磨剤として使用できます。腐食の進んだ光学面は交換する必要があります。レンズ内部に生えたカビを取り除くには、レンズを分解する必要があります。



別の個人サイトでは、レンズに付着したカビの様子を顕微鏡で詳しく観察した方もいます。カビの菌糸にはコーティングに食いついている部分と浮いている部分がありますので、こういったところが痕が残る残らないの分かれ道になるのでしょう。

http://www.geocities.jp/kmaljp/microscope/observe/lens_no_kabi.htm
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そして最後に、ZEISSはこれだけカビについて解説しておきながら、ものすごいオチで記事を締めくくるのでした。


ご注意ください:通常、ZEISSはカビの発生した機器を受け付けておりません。



わはははは。そんな危険なレンズ、うちんとこに持ってくんじゃねえ!ということでしょうか。
まあ、さすがに数百万のマスタープライムレンズなんかは受けますよねえ。いや、そもそもそんな高価な機材を適当に扱わないか。

まとめとしては、やはり論理的にも防湿庫はお勧めで(あちこちの宣伝はメーカーの押し売りではなかった!)、仮に防湿庫を使いながらもカビが発芽してしまったとしたらその時は清掃が不十分=レンズに十分な栄養が付着していたということでしょう。そして、この分野にも中国製の進出は目覚ましく、さらには防湿庫の代わりになるシリカゲルの再生式除湿ユニットなるものがある。

なところで。