タイトルを見て目ん玉飛びでた人もいるでしょうが、あのCONTAX N Planar 85mm F1.4です。
なぜだか、今手元にあるので、いつも以上にていねいな分析をいってみましょー! (=゚ω゚)ノ

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この新型AF版Planar 85mm F1.4は発売当時、レンズ径が大きすぎて実物を見た時に開いた口がふさがらなかったという思い出があります。フィルター径は82mm、近年の高画素時代に至っては特段珍しくないように思えますが、きちんと調べてみると各社の85mmはOtusやARTなど突出したレンズを除いてまだまだ77mmなど常識的なフィルターサイズが多いようです。これを2002年に発売した京セラがいかに飛び抜けていたか――。

ヨドバシカメラのCONTAX Nデジタルの隣でキラキラと店内照明を反射させている前玉をのぞいた自分は「どんぶりのお茶碗に見える……」とつぶやいたものです。


左: N Planar 85mm F1.4  右: Planar 85mm F1.4 MMJ
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鏡胴の質感が違うのは色かぶりの影響ではなく、塗装の黒そのものが違います。N Planarの外装はプラっぽいぼてっとした感じがありながらも金属に似た剛性感と冷たさがあるというよく分からない手触りとなっています。同じAFでもCONTAX 645の外観はYASHICA/CONTAXを踏襲しているので、もしかしたら中判との連携をうたっていたCONTAX Nだけ視覚や触感で区別しやすくしたのかもしれません。

ボディ外周の文字や指標は残念ながらすべてプリントですが、正面の銘板は彫刻で従来どおりです。
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N Planarの現物を手にすると、実はこの太さは性能のためではないことに気づきます。その証拠に、前玉は旧CONTAXの85mmとさほど変わりません。後玉はさすがにマウントの大きさを生かしてひとまわり大きい径となっていますが、全体としてレンズ外周部の体積はレンズ構成とは無縁であることがわかります。

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では何のためにこの太さなのか……答えは推測にしか過ぎませんがデュアルフォーカスメカニズムにあるのではないかと思います。“デュアルフォーカスメカニズム”というのは京セラが名づけたフルタイムMFの仕組みですが、AF/MF切り替えのスイッチを使わず、クラッチを用いた機械的な動力伝達でダイレクトかつ違和感のないMFを可能にするものです。

レンズのAF技術が煮詰まってきた昨今、現実的にはバイワイヤの電子式MFでもスムーズで満足できるものも多いですが、CONTAXのAF化に当たって当時の京セラが一番腐心したのがピントリングの操作感だったことは想像に難くありません。これらの画像が示すとおり、まるでMFレンズかと見紛うばかりの幅広のピントリングがYASHICA/CONTAX以上の存在感でどんっと鎮座しているくらいなので。

そして、従来のユーザーを裏切らないようこまやかなチューニングがされていると思わせるのが二段式の鏡胴の動きです。N Planarを初めて手にするまで気がつきませんでしたが、このレンズ、隣り合った距離指標とピントリングが別々の動きをするのです。具体的にはピントリングを回しても距離指標はそれよりも小さな回転角でゆっくりと追従し、AFの時にはこの距離指標だけが回転するようです。


付箋と距離指標の位置関係がピントリングを回すほどにズレていきます。
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まさに京セラの意図通りにMFレンズの操作性が再現されたN Planar 85mm F1.4は、超音波モーターで静かなAFをしつつ幅広のピントリングに力を加えればすっとMFに移行してストレスのないピント合わせが可能です。もちろん、金属ヘリコイドのような精密感はなく、内部のギア駆動を連想させるざらついた音もありますが、遊びがなく回転角の大きいピントリングがぬーっと動く感触はMF専用で使っても不満が出ないほどの完成度を誇っています。


デュアルフォーカスメカニズムに関連して、インナーフォーカスの動きを示します。
左: 無限遠オーバー  右: 最短撮影距離
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リアはガラスを一枚残してフォーカス群が移動し、フロントは前玉より奥まった部位が前後します。この様子をレンズ構成図と突き合わせると、絞りを含んだ5群6枚がごっそりと移動するかなり大掛かりなインナーフォーカスということが推測できます。このレンズ群はピントリングが∞マークを越えても追従しているので、CONTAX NとCONTAX 645はすべてオーバーインフ設定だと思われます。(※Apo-Makro-Planar 120mm F4は特殊低分散レンズの熱膨張に配慮したためか、MF専用なのにオーバーインフ)

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他に特徴的な部位としては、レンズロックの溝がマウント基部ではなくバヨネットに彫られています。NマウントとEOSマウントは非常によく似ていて、少し爪を削れば入るのではないか?と思わせるくらいなのに、ここだけは独自性があります。この構造はCONTAX 645も同じですが、ロックピンがマウント内部の深い位置で上下するためやや面倒な作りに思え、初期の中国製CONTAX 645用アダプターではロック解除のストロークに余裕がなくレンズが外れなくなる事故も起こっていたようです。

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もうひとつ不思議なのは電子接点の右端が小さくなっていることで、これもコスト面からわざわざひとつだけ小さくする意味が分かりません。手持ちのCONTAX N - NEXアダプターは、たまにレンズの着け直しで通電しないことがありますが、この部分の相性の悪さが原因なのかなーとぼんやり首を傾げています。
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最後に、これだけは欠陥構造だと声高に言いたいパーツを挙げておきましょう。

CONTAX Nになってフードはバヨネット式になりましたが、後部はなんと細いプラリングと三つのネジだけで全体を支えているのです! これはどういうことかというと、頑丈な金属フードの最後尾にスリットの入ったプラリングをネジ止めし、その弾性=リングのたわみによって装着時のロックをおこなっているのです。

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全体が軽いプラならこの方式で良かったでしょうが、重い金属フードをプラリングで支えつつ、そのスリットが歪むことでフードの着け外しができるというのは、どう考えても無茶過ぎる構造です。実際にレンズ装着時に無理な力を加えれば簡単にスリットが割れそうな雰囲気はありますし、プラリングの破損したフードはCONTAX NおよびCONTAX 645では珍しくないそうです。いったいぜんたい、誰がこんな設計を良しとしたんでしょう? ( ゚Д゚) ハア ?

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おまけで、現役時代にCONTAX Nレンズが嫌われた理由……。どっちが135判用だか分からない……。
画像はありませんが、もちろん、同じマクロでもApo-Makro-Planar 120mm F4よりMakro-Sonnar 100mm F2.8のほうが大きいです。

左: Apo-Makro-Planar 120mm F4  右: N Planar 85mm F1.4
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