多少なりとも詳しい方なら、マウントアダプターのオーバーインフはインナーフォーカスやフローティングとの相性はどうなんだろう?と疑問に思うはずです。レンズ設計の意図としては、無限遠の基準位置がずれた状態のフローティングは論外。しかし、それはいったいどの程度、画質劣化に影響するのだろうか?

これをあきらかにしてみようの第一弾。

ただ少し片手落ちなのは、インナーフォーカスのレンズを一本も持ってないんですよね。基本的にインナーフォーカスはレンズ駆動の軽さ(俊敏さ)を実現するためのものなので、そういった性質のAFレンズが今現在手持ちにありません。

というわけで、今回はDistagon 35mm F1.4とApo-Makro-Planar 120mm F4のフローティング機構についての検証になります。続いての第二弾は、Distagon 18mm F4とVario-Sonnar 28-70mm F3.5-4.5といったより厳しい条件となるレンズを予定していますが、なんで記事を分けるのかというと、テストを思い立った時にこれらのレンズが思い浮かばなかったからです。

ははは、二度手間じゃ。 ┐(´ー)┌


今回のセッティングの概念図で、C/Y - EOSとEOS - NEXヘリコイドアダプターを使います。

間にEFマウントをはさんだのは、アダプターの二段重ねでオーバーインフを明確にするためで、ヘリコイドアダプターを縮めた場合にはピントは余裕たっぷりに無限遠を通りすぎます。このヘリコイドアダプターを実景で無限遠に合わせ正位置とし、意図的にフランジバックを動かしたオーバーインフ状態と画質を比較します。

3119

フルサイズ対応のEOS - NEX ヘリコイドは国内に安い物が入ってきていないので、KIPONしか選択肢がありません。M42やC/Y - NEXなら数千円で買えますが製造不良に注意。


【撮影条件】
1: レンズの距離指標は無限遠、ヘリコイドアダプターで正確なフランジバック調整をして画質の基準とする。
2: ヘリコイドアダプターのフランジバック調整なし、明確なオーバーインフのままピントを合わせて画質劣化を見る。


Distagon 35mm F1.4(F1.4)
1: 無限遠正位置
3080

2: オーバーインフからピント合わせ
3081


遠景中央
3082
3083

遠景左端
右がやや暗いのは日差しの変化。
30843085

近景右端
3086
3087



Distagon 35mm F1.4(F2.8)
1: 無限遠正位置
3088

2: オーバーインフからピント合わせ
3089


遠景中央
3090
3091

遠景左端
30923093

近景右端
3094
3095



【撮影条件】
1: ヘリコイドアダプターで正確なフランジバック調整をしてからピント合わせ、画質の基準とする。
2: ヘリコイドアダプターのフランジバック調整なし、明確なオーバーインフのままピントを合わせて画質劣化を見る。
3: レンズの距離指標は無限遠固定、ヘリコイドアダプターでピント合わせしてフローティングを完全に無視する。


Distagon 35mm F1.4(F1.4)
1: 無限遠正位置からピント合わせ
3096

2: オーバーインフからピント合わせ
3097

3: 無限遠固定でピント合わせ
3098


中央
3099
3100
3101

左上隅
3102
3103
3104

右端
3105
3106
3107


Apo-Makro-Planar 120mm F4(F4)
1: 無限遠正位置からピント合わせ
3108

2: オーバーインフからピント合わせ
3109


中央左
31103111

左上隅
3112
3113

右下隅
3114
3115

左下隅
3116
3117


これらの等倍画像を見比べるかぎり、事前に予想したボケ像のゆがみ、色収差の増大、周辺解像の悪化はなく、マウントアダプターのオーバーインフ程度の誤差ではフローティングによる画質変化は感じられません。専門的な点像観察などをすればなんらかの劣化があるのかもしれませんが、個人的には、アダプターのオーバーインフよりもピント合わせの誤差の方が画質に与える影響が大きいというのが実感です。

フランジバックの基準位置の問題を人間の誤操作とはき違えていないか?と言われそうですが、現実にこのテストで画質差が確認できたのはすべて撮影時のライブビューで見えないくらいの微細なピンズレによる被写界深度の変化が原因でした。このように書くと、単に自分がピント合わせの下手な人間のように思えてしまいますが、この微細なピンズレはテスト画像をPhotoshopのレイヤーで重ねて精密に観察してようやく見えてくるものです。


なぜ、フローティングが厳密に動作していなくても描写にあらわれないのか?というのはおそらく、フローティングというのはあくまで無限遠から近接までなだらかに収差補正をしていくもので、多少、無限遠位置の誤差があっても急激な劣化が起こるようなものではない、ということではないでしょうか。

ただし、その例外がフローティングを無視して無限遠固定のままヘリコイドアダプターでピント合わせをする行為で、この場合はピント位置が他と同一のまま明らかに画質が落ちたと思われる違和感がありました。具体的にそうなったのが三番目のDistagon 35mm F1.4の近景テストで、Apo-Makro-Planar 120mm F4で同様の操作をした場合もやはり同じ印象でした。

これは理屈としても納得でき、遠景の収差補正のまま近接していることで撮影者が認識できるほどの画質低下が起こっていることが推察できます。つまり、フローティングのあるレンズはできるだけ距離指標と実際の撮影距離の齟齬をなくすことが好ましい(あまりにも距離指標と撮影距離の乖離が大きいと悪い結果になる)ということですね。ヘリコイドアダプターを繰り出して最短撮影距離を越える場合には、できるだけレンズ側のヘリコイドを最短近くになるよう調節した方が良さそうです。


現時点でのまとめは、

  • フローティングとオーバーインフの掛け合わせは特に問題とならない。
  • それよりも人間のピント合わせの不確実性の方が画質低下の要因となっている。
  • フローティングのあるレンズを無限遠固定のままにしてヘリコイドアダプターの操作をするのはよくない。

となりますが、最終的な結論はより厳しい精度が求められる超広角のDistagon 18mm F4と、複雑な内部構造となるズームレンズのVario-Sonnar 28-70mm f3.5-4.5を試してからとなります。いちおう念を押しておきますが、今回の話は一般的な全体操出のレンズにはまったく関係のない話なのでご注意を。

アダプター問題 オーバーインフとフローティングの組み合わせ その2
http://sstylery.blog.jp/archives/70242527.html


※YASHICA/CONTAXでフローティング/インナーフォーカスがあるのは以下となります。(記入漏れあり)

Distagon 15mm F3.5
Distagon 18mm F4
Distagon 21mm F2.8
Distagon 28mm F2
Distagon 35mm F1.4
PC-Distagon 35mm F2.8(シフト)

Planar 85mm F1.2(記念レンズ)
Makro-Planar 100mm F2.8

Sonnar 180mm F2.8
Apo-Sonnar 200mm F2
Apo-Tele-Tessar 300mm F2.8