大物記事の撮影前第二弾。
ZEISSが公開している数値性能を見てみます。

と、その前に、ふと疑問が起こらないでしょうか。
昔から言われているのが、中判カメラはフィルムサイズが大きく拡大率が低いので、35mmレンズほどの解像力は必要ないという話。実際、過去に目にしてきた中判レンズの数値評価はそれほど高いものではなく、日本カメラの評価でも大抵は性能の良い35mmレンズの二段下といった具合で、それならばMTFも同じ次元で評価してはいけないのでは?と疑問が募ります。
ちらっと耳にした話では、マイクロフォーサーズなどは撮像素子が小さいので35mmフルサイズよりもさらに高解像が要求されるとか。昔のハーフ判でも似たような記述を見た覚えがあり、さらに懐かしのAPSフィルムではプリント時の拡大率が上がるので、フィルムメーカーはさらなる粒状性の微細化を推し進めそれがネガフィルム全体の性能アップに繋がった、など。

小さなフォーマットでは高解像が要求され、大きなフォーマットではそこそこの解像度で十分だとするとMTFの評価の仕方は?


さて、検索検索。



ところがまあ、システム全体がかさばる中判カメラともなると、お遊びでレンズをとっかえひっかえなんてあるわけがなく、皆さん真面目に写真を撮っておられるので実撮影とかけ離れるような薀蓄はほとんど出てきません。唯一、ズバリMTFチャートの読み方について非常に学術的な分析を展開している方がいましたので、これを参考にしてみたいと思います。

すんごく面白いですよ、この一連の記事。全部で五つあります。

MTFによる光学機器の性能評価#1 空間周波数とコントラスト応答
http://aquila2664.hatenablog.com/entry/2012/03/23/190906

正直、凄すぎてフンフン……と感心するしかないのですが、フンフンだけ続けてもしようがないのでいくつか需要な部分を引用してみましょう。

「解像度」の語義の混乱
ネット上に限らないが、解像度の語義の混乱がよく見受けられる。古株のカメラマニアには解像度イコール二点分解能と考えている方がかなりいる。かつて日カメラメーカーが、レンズの性能表示に二点分解能を用いた影響が今に残ってるようだ。
ところが、分解能は非常に高い空間周波数領域で評価され、写真表現とはほとんど関係がない。写真表現への寄与が大きいのは、もっと低い空間周波数領域だからだ。このため近年では、空間周波数とコントラスト応答の関数であるMTFが解像度評価に用いられるようになった。二点分解能は現在でも限界解像度として評価の対象になることはあるが、あまり重視されていない。
http://aquila2664.hatenablog.com/entry/2012/03/23/190906

これはチャートのみでレンズを語ることの間違い?を指摘しているのでしょうか。限界解像度ばかり高くてもコントラストが低くては写真として意味がないということがMTFの重要性を説くZEISSの主張です。


 velviaは超微粒子フィルムだが、50本/mm以下でコントラスト応答が50%を切る。FWHMで分解能を規定した場合、40本/mm程度が二点分解能となる。これより空間周波数が高い信号は、レンズを通過できてもフィルムには記録できない。カメラシステムが写真の出力を目的としている以上、フィルムに記録できない空間周波数領域でレンズの性能評価をしても意味がない。

~中略~

多くのメーカーが高空間周波数側は30本/mmで評価しているのは、フィルムのコントラスト応答がそのあたりで頭打ちになっているからだ。
http://aquila2664.hatenablog.com/entry/2012/03/23/191428


へ~へ~へ~。確かに国内メーカーは10本/mmと30本/mmの表記が普通ですが、ZEISSに倣って40本/mmで示さないのはこんなところが理由なんですね。

 連続関数としてのMTFがわかれば、様々なことがわかる。逆に言えば、メーカーの手の内が知れてしまう。
それもあって、メーカーが公開している「MTF特性図」は、連続関数であるMTFからたったの二点を切り出した極めて限定的な情報でしかない。空間周波数は10LP/mmと30LP/mmの二条件だけで、レンズ中心から外周まで測定位置を変えて計測したのが「MTF特性図」である。これを見てわかるのは、レンズ中心と外周でのコントラスト応答の劣化の度合いがせいぜいだ。周辺と中心の描写の差は読み取れるが、それ以上の意味合いはない。メーカーの説明の歯切れが悪いのも無理はない。 (※太字は原文ママ)
http://aquila2664.hatenablog.com/entry/2012/03/23/194407

これは何を言っているのかというと、MTFはコントラストの強度を数値化する関数なので、本来はもっと多彩な情報をもたらすものであり、ボケの様子さえ数学的に再現可能であるという内容です。個人的に、このようなことを指摘している記事を見たのは過去のカメラ誌を含めて初めてで少し驚きました。(正直、内容がよく分からない)
そして、話題がデジタルへ移るとこの記事はもっと興味深い事実へと切り込みます。

ソニーはCarlZeiss銘のレンズの10, 20, 40LP/mmでのMTF特性図を公開している。同社のα900は135フォーマットながら2,460万画素と市販デジタルカメラで最大級の画素数があり、レンズへの要求が厳しい。記録画素数は6,048×4,032ピクセルで、画素の密度は168.5ピクセル/mmに達している。このセンサーのナイキスト周波数は、カラーフィルター抜きで42.1LP/mmである。カラーフィルタとプロセッサでの補完込みでおおむね35LP/mm程度と予想される。30LP/mmでの評価では追いつかない。40LP/mmでの評価を公開しているのは良心的だ。

~中略~

同様に計算すると、キヤノンのEOS 5DmarkIIや1Ds MarkIIIは、ナイキスト39LP/mm。実効限界解像度は32.5LP/mm程度なので、30LP/mmでの評価ではやや不足。これらのカメラで使う場合の目安にはならない。画素数を増やした以上、35もしくは、40LP/mmでの評価を公表していただきたい。
ニコンのD3やD700は、ナイキスト29.6LP/mm、実効限界解像度は24.6LP/mm程度なので、30LP/mmの評価で足りる。

SONYは最新のG Masterシリーズで、次の高画素時代に対応するためにレンズの画質評価を50LP/mmに引き上げたそうです。ところが、少しでも良いイメージで宣伝したいのか、メーカーサイトに掲載されているのは旧態依然とした30LP/mmまでです。おまけに、従来のZEISS銘は依然として40LP/mm表記なので、SONYのMTFチャートは自社内でさえも相対比較できないというおかしなことになっています。


画素数はいったん措くとして、APS-C(canon 50D)がプリントで135と同じ解像度を得るには、撮像面では1.52倍の空間周波数で135と同じコントラスト応答が得られなければならない。すなわち、135用レンズが30LP/mmで0.9のコントラスト応答が得られているとすると、APS-C用レンズは48.3LP/mmで0.9のコントラスト応答が得られなければならない。ところが、メーカーが公表しているコントラスト応答は、135と同じ30LP/mmでの値だ。

~中略~

MTFは空間周波数が高くなると急速に落ちる。APS-Cフォーマットの撮像素子の評価するのに、135フォーマットと同じ30LP/mmでは全然足りない。APS-C用のEF-SレンズやDXニッコールレンズは、高い空間周波数領域での評価を公表すべきだ。APS-C以上に小さいフォーマットであるFourthirdsを採用しているオリンパスは、60LP/mmでのコントラスト応答を公表している。キヤノン、ニコン両社にもフォーマットサイズに合わせた測定基準でのMTF特性図を公表するよう、強く望みたい。
http://aquila2664.hatenablog.com/entry/2012/03/23/200421

引用は以上、ようやく欲しい情報の核心に辿り着きました。
この記事に倣って四切サイズに対する645判の拡大率を計算すると5.7倍となり、35mmレンズで示されるMTF40本/mm、20本/mm、10本/mmの基準はそれぞれ23本/mm、11本/mm、6本/mmでよいことになります。つまり、中判レンズのMTFは23本/mmが35mmレンズの40本/mm相当? ホントかいな。

デジタルは等倍画像が見れてしまいますし、モニター画面の写真鑑賞はppi(pixel per inch)が揃わずプリントとは別扱いとなりますのでいまひとつこの考え方が釈然としませんが、同じ景色を小さな画面と大きな画面に描くなら、小さな画面は細い線で、大きな画面は楽に太い線で描けるという理屈は理解できます。



さて、事前に適切な知識が仕入れられたと思われるので、Apo-Makro-Planar 120mm f4の数値性能の話へと移ります

Technische Datenblätter - Contax 645
https://www.zeiss.de/camera-lenses/de_de/service/download_center/contax_645.html

Apo-Makro-Planar T* 4/120
https://www.zeiss.de/content/dam/Photography/new/pdf/de/downloadcenter/contax_645/apo-makro-planar_t_4_120_ger.pdf

チャートをYashica/CONTAXと比較して見比べてしまうと、CONTAX 645のレンズ自体が取り立てて高い数値を示しているわけではありませんが、前述の引用に従ってプリント拡大率の概念で以下のMTFデータを眺めると、高性能な35mmレンズに匹敵するレベルの数値性能を実現していると言えそうです。マクロレンズなのに無限遠の性能が非常に高いのは、中心部は無限遠を最高性能として、そこからフローティングエレメントで周辺部とのバランスを取っていく設計なのでしょうか。
他の645レンズとの比較としては、中心部の数値が高く、実線と点線が揃わないのが広角系、全体の数値はそれほどでもないが周辺部まで落ちが少なく、実線と点線が揃っている(ボケ像が良い)のが望遠系で、Apo-Makro-Planarはマクロ域を中心に見ると望遠系のグループに属し、その中でも性能は高いといった印象です。


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ただ、ここで頭を切り替えなければならないのは、このレンズを35mmフルサイズで使うという今回の撮影条件で、MTFは読み替えが不要となりそのまま35mm判の数値となります。
わざわざ大きい中判レンズを35mmカメラで使う最大の恩恵としては、MTFチャートは青線で区切られた領域になり、同じフローティングのあるMakro-Planar 100mm f2.8と比較すると数値性能は同等かそれ以上、等倍の隅まで完璧な良像が得られることです。


最後に歪曲ですが、さすがに撮像範囲が広く厳しいのか、対称型+フローティング補正なのにやや多めです。中判でこのレンズを使う際は糸巻の曲がりが目につくでしょう。35mmフルサイズの領域ではCONTAXのMakro-Planar 100mmよりは良好ですが、望遠系の糸巻歪曲が嫌いな自分としてはこの程度の数値でも少し気になるかもしれません。

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撮影前の無責任な総評としては、Hasselblad用Makro-Planarのような限定的な数値性能の高さはありませんが、無限遠から等倍まで自由に繰り出せる鏡胴の使い勝手に見合う万能画質に、アポクロマート仕様による高輝度への強さが特徴といったところ。これを35mmフルサイズで使うので、予想される画質のイメージはあり余るイメージサークルと古めかしい対称型がもたらす真にゆったりしたボケ味と口径蝕のない丸ボケ、画面全域に期待できるシャープネスとなるでしょう。そこへ写真の印象の大部分を決める色と諧調がどのように絡んでくるかが見所ですが、やや懸念となるのが120mmという焦点距離です。
これは望遠レンズの入り口である135mmレンズに近い領域で、中望遠よりも強まる圧縮効果によりピント面とボケは明確に分離して、f4という暗さもありますが絵柄の味を醸し出す曖昧な領域は期待できないかもしれません。つまり、レンズ描写そのものは優秀だが焦点距離の質としてクローズアップ撮影に味はない可能性もあります。

その他、ZEISSの中望遠/望遠マクロとしては、ZE/ZFまで受け継がれている独特の諧調の厚み、抜けの悪さが維持されているのか、コントラストと発色は噂通りの素晴らしさなのかが注目点です。逆に、デジタル時代の目線では平凡な高画質レンズだったなんてオチもありそうですが、果たして結果はどうなることやら。


※次回、実写です。



【おまけ】
今回、中判のMTFを評価するにあたって、他社のMTFチャートを調べてみました。すると、PENTAX 645は非公開、簡単に見つかったフジのGFX 50Sは………


GF120mmF4 R LM OIS WR Macro
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http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/gfx/fujinon_lens_gf120mmf4_r_lm_ois_wr_macro/specifications/


ガビーン!! 天井に張り付いてるやんけ!! Σ
(゚Д゚)
(たぶん、空間周波数の各線が重なって見難いためにわざわざ横に分けて掲載している)

こ……これが最新のデジタル対応の中判レンズか…………と膝を折られた気分になりましたが、よぉーく見てください。横線の数字が少ない、つまり、645よりも撮像範囲がかなり狭いのです。
これはどういうことかというと、グラフの横線はフォーマットの対角の長さの半分なので、このカメラが採用する44×33センサーの狭さを表しています。

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当然、イメージサークルも狭くなり設計に余裕が出る……にしてもまさに現在の高画素時代の中判レンズだと思います。あえて難癖をつけるなら、このMTFチャートはおそらく無限遠の数値で、ハーフマクロなので間違いなく性能は良いでしょうが接写領域の数値を見てみたいものです。

ちなみにこのフジのレンズ、手ぶれ補正に防塵防滴と、超現代仕様です。