今風に表現すると皆様と知識をシェアしましょう、ということになるのでしょうか。

なんとなく見つけてしまいました。デジタルカメラにおいて、広角レンズの周辺画質に関する決定的な記事。撮影にはまったく関係ない技術的な話ですが、喉につっかえていた小骨がぽろっととれるかもしれません。

Shin's MonoBlogue
邪魔なものは取ってしまえという話
http://monoblogue.nikomat.org/article/168910117.html


最近、α7シリーズの普及によりミラーレスの話題が増え、レンジファインダー用広角レンズとデジタルカメラのマッチングに関する技術的な側面がちらほらと表に出てくるようになりました。有名どころでは、コシナ フォクトレンダーのSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 aspherical III含む三本、ZEISS LOXIAのEマウント最適化です。

株式会社コシナ
SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 aspherical III ソニーEマウント
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/e-mount/e-15mm/index.html

デジタルカメラでの画像周辺部の色被りの発生を防ぐべく、ソニーEマウントセンサーへの入射光線角度に最適化した光学設計を採用しています。

フィルム用途を意識していたバックフォーカスの短い広角レンズは画面周辺部のきつい斜入射光によりセンサー受光部とのマッチングが悪くなるので、まずは受光素子側の改善をおこないつつ(画像上段右)レンズ設計を最適化するか、あるいは最初からテレセントリック性に配慮した光学系にする(画像下段左)というのが昨今の常識で、これは旧フォーサーズの理念にも表れたデジタルカメラ特有の問題でもあります。

※あまりにも専門的すぎるので、これを分かりやすく言い直すと、ミラーの存在しないライカ型カメラは撮像センサーと後玉の距離が近く、画面周辺部の光線角度がきつくなるので、撮像素子とレンズ側の両方で特別な工夫が必要である、ということです。


CANON
http://cweb.canon.jp/eos/special/1dxsp/technical.html#?function1
2000

OLYMPUS
http://four-thirds.org/jp/fourthirds/index.html
1999


CANON初の35mmフルサイズカメラとなったEOS-1Dsは、センサーサイズの拡大によって急な角度になる周辺光束を受けるためにマイクロレンズの最適化をしたという記述を見かけましたし、それはレンジファインダーのライカM8でも同様です。最近のトピックとしては、α7R IIの裏面照射型CMOSによる受光効率の改善により、レンジファインダー用広角レンズの周辺画質向上もありました。


ところが、ライカ社はM8でこの問題に対しもうひとつ大胆な決断をしていて、これがのちに騒ぎを巻き起こす原因となるのです。


「センサーとレンズの間に存在するガラスプレートは画質低下の重大な要因であり、可能な限り排除するべきだ」(※引用ではありません)


したがってローパスレスは必然、IRフィルターは必要悪として極限まで薄くした結果、M8は赤外かぶりという画像の不具合を発生させました(※実はデジタルモジュールRからすでに同仕様だったようです)。多くの人が気にもとめなかったこの問題の本質的な部分についての重要さは、近年のZEISSがはっきりと言及しています。

[PY] PHOTO YODOBASHI
カールツァイス ・ インタビュー
http://photo.yodobashi.com/live/photokina2014/interview/carlzeiss/

α7はフルサイズで、ガラスプレートがセンサーの前についています。光学デザインをする時には、このガラスプレートのことを考慮する必要がありますので、Loxiaの設計にあたっては、このガラスプレートを始め、センサー構造や振る舞い方を考慮しました。

デジカメWatch
Carl Zeiss Milvusシリーズ
ツァイスとコシナによる共同開発はどのように進められたか?
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/interview_dcm/730550.html

島田:デジタルカメラは結像面の前にガラスがあります。このガラスが与える光学的な影響を十分考え、高画素のデジタルカメラで十分な描写性能が発揮できるような光学特性を持たせるように配慮しています。

フィルム用のレンズをデジタルカメラに使うと周辺画質が劣化する。その原因のひとつはセンサー前のガラスプレートにあると。では、なんでそれが悪なのか?を、きちんと光学設計ソフトウェアで検証したのが冒頭で紹介した記事です。

Shin's MonoBlogue
ミラーレス一眼の光と影
http://monoblogue.nikomat.org/article/166797300.html

とてもひとことでまとめられる内容ではないので関連記事をすべて読んでいただきたいのですが、おおまかには、センサーの前に余計なガラス板があると光線が微妙に曲げられて、レンズの周辺結像が悪化してしまう(設計意図から外れた収差補正になる)、みたいな話だと思います。

このようにデジタルカメラの問題がテレセン性に関連した受光効率に加えてガラスプレートの設計にもかかってくるのなら、厳密にはAのボディで評価したレンズはBのボディではまた違った評価になる可能性があるということで、巷にあふれるマウントアダプター使用のレンズ評価は六分程度で見ておかなければならないのかもしれません。

まあ、うちのサイトはDistagon 18mm F4ですでに周辺色かぶりが起きている信用の置けないレビューなわけですが、解像力に関しては他のレンズとの大雑把な相対比較で済ませているので最新のカメラを使ったとしても評価は変わらないと思います。たぶん。

しかし、このようなマクロ的視点を交えてフィルム時代をとらえると、カラーフィルムの解像力が今のデジタルとは比べ物にならないくらいに低かったからレンズのアラが見えなかったというわけでもなく、さまざまな理由で余裕のある結像状態でもあったのかなぁと謎がとけていく思いです。デジタルで画素ピッチが狭くなればなるほど目立つパープルフリンジ≒色収差も、センサーの平面度が厳しすぎるから各波長域の焦点ズレが画質にあらわれる、なんて話もあるみたいですしね。



その昔、ZEISS自身がよいものができたと自画自賛したCONTAX G用Biogon 21mm F2.8は、いまだフィルム時代の評価を取り戻せず。
ZEISS
https://www.zeiss.com/content/dam/consumer-products/downloads/historical-products/photography/contax-g/en/datasheet-zeiss-biogon-2821-en.pdf

1997

夢のHologon 16mm F8。このレンズが真の意味で使えるようになるのは、有機薄膜CMOSが製品化されたときか。(湾曲センサーでも斜めの光線に対応できますが、レンズ交換式は考えにくいので)

ZEISS
https://www.zeiss.com/content/dam/consumer-products/downloads/historical-products/photography/contax-g/en/datasheet-zeiss-hologon-816-en.pdf

1998


実は、これらの引用記事でぴんときたのが過去におこなった保護フィルターの厳密比較で、50mmを使ったテストで最短付近に寄った撮影では被写体が微妙に大きく写るという結果も、レンズに装着したフィルターのガラス厚によって光線が微妙に曲げられている証明だと思います。この保護フィルターの追加によって周辺解像が悪化しないのは、センサーガラスと違って、光線がレンズを通過する前(収差が発生する前)だからと考えられます。