今回はやや脇道。

例のコシナのレンズをちょっとだけ使ってみた感想は、まさに現代に設計されたクラシックレンズでネガがほとんどない優等生でした。唯一目に付く色収差に関しては、古いレンズを知り尽くす達人の趣向なのか、コストと性能のバランスを取った結果なのかはよく分かりません。もっと根本的な話として、ただ単に2003年という時代性を反映したフィルム用だったというオチかも知れません。

このレンズは元が「復刻」というのがひとつの売りで、よくレンズ紹介の枕詞に使われていたりしますが、使えばすぐに分かる発色の違いなどから似て非なるものというのが一般的な見解だと思います。じゃあ、実際にどれくらい違うのか?どの程度まで似せているのか?というのは気になるところですので、取り寄せてみました以下の本。


クラシックカメラ選書-22
レンズテスト[第一集] 中川治平・深堀和良



内容はまずレンズ名、レンズナンバーと焦点距離/開放F値の実測値の後に、簡単なコメントとページを取らないように編集された数値評価。球面収差、放射/同心像面、歪曲収差、レンズ構成図、f1.4とf5.6の撮影解像力表。

とまあ、素人ながらぱっと読み込んでみると、うん、こりゃ色とコントラストの印象以上にかなりの別物です。まず、ボケの基本的な印象を決める球面収差が明確な過剰補正で、これは当時の日本製レンズの特徴としてよく耳にする解像力重視設計。これだとTopcor 58mmの後ボケはよりいっそう輪郭線が強くなり、Nokton 58mmとはピント前後の固い/柔らかいが入れ替わるはずです。次に歪曲がかなりあり、自分にとっては呪いの文言のような“画面の端で2%に到達する”樽型タイプ。これはPlanar 50mm f1.4やDistagon 35mm f1.4と同じで、この手のレンズの建物を撮る際の難しさを思い起こすと非常にいや~な気分になります。それに対して、Noktonは歪曲少なく建物を楽々描写。感覚的には1.5%程度には収まっているのではないかと思われます。

最後に解像力ですが、Topcorはけっこうな癖玉なのでしょうか。レンズ側へ向いた像面湾曲が強いようで、平面の周辺解像は放射/同心ともに明確に落ち、絞っても数値性能の改善はほとんどありません。具体的には解像力のピーク値が画面の端へ向かうほど前へ前へと移動してレンズ最周辺部でも戻ってこず、本誌の解説ではこれを“ペッツバール和がやや大きい設計のようだ”と評しています。
方やNoktonは他の方の分析記事を読む限りはTopcorとは逆のカメラ側に倒れる湾曲が見られるようですが絞れば画面全域で高解像という評価、これらを総合すると、コシナの復刻版Topcor=Noktonはオリジナルに対し数値的なトレースは何一つしていないのではないか?と思われるフシがあります。


まとめます。

[RE.Auto-Topcor 58mm f1.4]
球面収差:過剰補正
歪曲:樽型で大きい
像面湾曲:マイナス側に大きい
解像力:絞ると中心部のみ高解像、周辺は改善せず

[復刻版 Topcor 58mm f1.4(Nokton 58mm f1.4)]
球面収差:完全補正に近いと思われる
歪曲:樽型はわずか
像面湾曲:プラス側にあるらしい
解像力:絞ると全域で高解像だが数値性能は不明


これらはあくまでデータを元にした推測交じりの比較であり、特にRE.Auto-Topcorが実撮影でどのような印象を残すのかはまったくの不明です。ただし、これぐらい両者に相違があると、復刻を掲げたコシナの言い分はおおまかなレンズタイプを含めた外観のみとなり、じゃあいったいコシナは何をしたかったのか?という疑問が出てくると思います。その辺りを読み解くキーワードはやはりメーカーサイトの宣伝文にある“現代的な性能を両立”で、むしろTopcorの復刻は見た目が主で、中身はTopcor 58mm f1.4の印象の良さを現代的にアレンジする、つまりこのレンズはVoigtländer銘を使いながらも別段オリジナルの再現に拘ることのない自由奔放ないつものコシナだったというわけですね。

なんだか最後に微妙な言い回しになりましたが、公平な見地からは
復刻版 Topcor=Noktonはクラシックレンズの味に基づいた設計としながらも、ユーザーにとって使い辛いネガを潰したとても実用的なレンズです。そして、その判断は正しいと思いますし、だからこそベテランから初心者の方にまで満遍なく高い評価を獲得しているのでしょう。

しかし気になるのはオリジナルのTopcorです。コシナが目をつけるほどの名声がかつてあったというなら、このような数値評価とは別の理由がきちんとあるはずです。それをぜひとも確かめてみたい。

Planar 50mm f1.4再考 #9
http://sstylery.blog.jp/archives/57155494.html