今回は現代のオールドレンズ、NOKTON 58mm F1.4 SL IIN(復刻版Auto-Topcor 58mm F1.4)です。

設計は2003年あたりと思われますが、その頃に設計者が今後のデジタル時代をどれだけ見据えていたかなどはまったくもって関係ないほどに我が道を行く国内メーカー製。そうです、新製品でこんなレンズをラインナップできるのは唯一、コシナだけ。といっても、当時は世のマウントアダプター遊びもまだ序の口ということで、コシナといえども最初は限定販売だったわけですが。

このレンズのおもしろいところは、各社のレンズがフィルムとともに高性能になってきて、どれを使ってもたいした差がなくなってきたといわれていた時代に、かつての名玉トプコールの復刻版!という触れ込みで、味のある昔のレンズを最新の技術で作り直したことです。

しかし、そうはいってもコーティングはコシナ製だし、レンズ構成もオリジナルの5群7枚に対し、復刻版は6群7枚と、かなり別物の雰囲気を漂わせています。果たして、それが実際にどうなのか? Planar 50m F1.4 AEJとの画質差は? という疑問をひとつひとつ確認しながら見ていこうと思います。


いちおう、NOKTON 58mmの素性をあらわす言葉として、コシナのWEBサイトにはこのように書いてあります。

COSINA
NOKTON 58mm F1.4 SL IIN
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigt/v-lens/sl2/58sl2/

設計に無理のない大口径標準レンズとして伝統的に採用されてきた58mmレンズを、現代の技術で実現。クラシックレンズの味わいと現代的な性能を両立。

この宣伝文をそのまま鵜呑みにするなら、クラシックレンズの味わいと現代的な性能を両立”という部分がキーワードになりそうですね。


ピントピークとその前後の描写を見るために、いつもの定規チェック。

ただし、比較対象のPlanar 50mmとは画角が違うので、撮影距離を調節して像倍率、ボケ量をほぼ同等としています。これはのちのレンズ比較にも共通することですが、焦点距離の違うレンズをそのまま距離固定で比べても、被写界深度の違いでボケの差異がつかみがたくなってしまうからです。

A: NOKTON 58mm F1.4 SL IIN
11880

B: Planar 50mm F1.4 AEJ
11881


え~かなり驚きの結果というか、AとBはとてもそっくりです。たしかに、色収差の度合いやピントピークの濃さなどの違いはあるのですが、200線のピント位置から前後にぼけていく様子はまったく同じ。これだけボケ描写がそろうということは球面収差補正も似通った形式である可能性が高く、おそらく、Aは完全補正型、またはそれに準じた球面収差のカーブを縦収差図で描いているのだと思われます。

それを踏まえてピントの出具合を見ると、AはBより200線がくっきりとしていてより優秀、しかし、その反面、色収差はあきらかに多いです。つまり、NOKTON 58mm F1.4はPlanar 50mm F1.4とほぼ同じ設計方針ながらピントは見やすく、ボケに色にじみが出やすい描写であることが予想されます。



次はマクベスチャートです。

ほぼニュートラルと評されたBよりも、さらに青みとすっきり感があるのがAで、マス目周囲の黒枠が微妙に濃く出ていることから、NOKTONの反射防止性能はPlanarよりも優れているのかもしれません(※チャートの強い平面反射がシャドーの締まりに影響する)。しかし、Planarは1970年代の設計、現代のレンズに劣っていることはべつにおかしいことではありません。

A: NOKTON 58mm F1.4 SL IIN(F5.6)
11882

B: Planar 50mm F1.4 AEJ(F5.6)
11883


レンズ探求 #5 NOKTON 58mm F1.4 SL IIN 野外比較