(°言°)  あづい゛……

いつものてきとう写真でさえも撮る気をなくすこの蒸し暑さ。
というわけで(強引)、夏の夜に小話でも。


Planar 85mm F1.4という稀代の名レンズがあります。とはいっても、誰が見ても素晴らしい描写というわけでもなく、開放付近の性能も今の目から見ると低いです。しかしながら、このレンズは魅惑の外観もさることながら、AF時代に常にポートレートレンズの代表格として他社製品の話題に混ざり、描写比較され、大口径の85mmとしては異例なほど売れたレンズでもあります。

そうして、中古市場にも数があふれ出すわけですが、その現状を見てかならず言われるのが「Planar 85mm F1.4はピント合わせが難しくて使いこなせないから手放す人が多いのだ」という決まり文句。それも真実でしょうが、そうかな?とも思います。CONTAXユーザーなら皆が皆、一度は使ってみたいというほどに売れたレンズなら、当然、各社の標準レンズなみに中古市場にごろごろしているのは当たり前ではないかと。


そして、もう一点、ここからが本題ですが、Planar 85mm F1.4のピント合わせは世間で言われているほどには難しくありません。え? じゃあかんたんなの? それも違います。なんとなくこのレンズに興味があってながめている方にここで訂正しておきますが、Planar 85mm F1.4はとっさのピント合わせに関しては最高難度です。でも、止まっている被写体に対しては普通にピントは合います。つまり、ポートレートレンズとして人物の自然な身じろぎの中でシャッターチャンスを狙うような使い方ではまったく役に立たず、ポーズや佇まいを指定して、じっくりと時間をかけられる形式写真のみピント合わせが容易になり真価を発揮するということです。

一般的なポートレート撮影や、日常の人物写真では当然ながら前者が多いので、Planar 85mm F1.4のピント合わせが難しいというのは正解です。しかし、被写体が静物なら状況はがらりと変わり、しっかりとしたホールディングをし、慎重なピント合わせができるか否かの基本的な撮影技量のみの話となります。


きちんと三脚を立てて観察してみればわかりますが、本当の意味でピント合わせが難しいのはPlanar 50mm F1.4の中距離や広角レンズのDistagon 35mm F2.8などでピント付近の被写界深度が深く見える状況で、いくらPlanar 85mm F1.4の開放描写が甘いといっても、中望遠の浮き立つような描写特性はピント合わせを助ける十分な要因になっているのです。


Planar 85mm F1.4 AEG 絞り開放
2013


一部拡大。合格といえるピント面で繊細な描写。
2014


Planar 85mm F1.4 AEG 絞り開放
2015


一部拡大。朝顔にピントは来ず、前ピン。
2016



ここでもうひとつ、マウントアダプターを介してこのレンズをEOSで使っている方は首をひねることでしょう。いや、静止物でも難しいよと。ここにひとつの落とし穴があるのです。EOS専門のユーザーはカメラ屋に行って他社のカメラをのぞいてみてください。特にPENTAXがいいでしょう。マット面がざらざらしてませんか? このざらざらはファインダー内のボケとピントのメリハリをよりはっきりと映しだし、撮影者が合焦を判断する大きな目安となるのですが、AFを最高の理念としているEOSは視界をさまたげるマット面のざらざらなどは極力なくしたいのです。

したがって、EOSで大口径レンズ対応のフォーカシングスクリーンに変えたとしてもマット面に他社のようなざらざら感はなく、ぬめる様な階調をもつCONTAXのピント合わせには不十分で、かなり現場の光や被写体状況に合焦率が左右されます。EOSのファインダー撮影をしていて、え?っというくらいピントを外してしまうことがありますが、それはカメラの精度やファインダー性能云々などではなく、単純にプラスチックの板1枚であるフォーカシングスクリーンの特性がCONTAXレンズでMFをするのに根本的に向いていないということです。

じゃあ、どうすればいいの?という疑問に対しては海外製の改造スクリーンがありますが、自分で試したわけではないので情報は掲載しません。さらに言及しておくと、90年代のCONTAXのスクリーンはボケ描写もふくめた見えの美しさを重視しているので、Planar 85mmを着けるととてもうっとりする映像が浮かびあがりますがピント精度はいまひとつです。あまり知られていない隠し技としては、純正の全面マット(方眼マット)に切り替えるとピントの切れが微妙に増すので、水平スプリットが必要ない人はオススメです。



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んで。ここまでは、一眼レフ時代の話。

フルサイズミラーレスが登場し、日常的にピント拡大で絞り開放のピント合わせをしていると、これまでぼんやりとしたイメージでしかなかったレンズの開放描写が事実として理解できるようになるのです。さらに、たまたま自分の専門知識も上がってきたということで、ここで論理的にPlanar 85mm F1.4のピント合わせの難しさを解き明かしてみましょう。

端的にいうと、このレンズのピント合わせの難しさは、これらが掛け合わさったものです。

  1. 球面収差の過剰補正
  2. 軟調描写
  3. 個体差

1の過剰補正に関しては国産オールドレンズの50mm F1.4にありがちな解像線にまとわりつくハロが原因で、このぼやっとにじんだ描写が目視でのピント抽出を惑わせるのです。2は1の過剰補正という特徴にも関連するのですが、Planar 85mmの開放描写はとても軟調で、ピント合わせに必要なマイクロコントラストが不足気味です。光学ファインダーのピント合わせに重要なのは解像力ではなく細部のコントラストだ、というのはPlanar 50mmの初期玉神話の検証で発見した事柄ですが、これがより明白に当てはまるのがPlanar 85mmであり、さらに前期型のAEGは前玉側の内面反射が多いので、多くの場面でMMJ以上に軟調化してしまうやっかいさがあります。

最後に3の個体差ですが、これも1の特性が製造時のばらつきによって悪い方に増すことが原因で、平均よりも解像線のにじみが強く、マイクロコントラストが失われている個体は撮影者のピント合わせをより困難にしています。このばらつきの影響度はPlanar 50mmよりもはっきりしており、なぜPlanar 85mmの個体差が50mm以上にさわがれなかったのか、今振り返ると不思議でなりません。

これら三つの要因が一体となったものが、Planar 85mmのピント合わせの難しさの正体なわけですが、実のところ、後ろ二つはAEG時代に目立っていた弱点ともいえるわけで、これにより、Planar 85mmの厄介さを示す悪評は古いAEG時代の声が大半を占めていたのかもしれません。もちろん、このレンズの本質的な特徴である球面収差の過剰補正と軟調描写はMMJでも変わりませんが、AEGはこれらに加えさらに追加の不安要素を抱えていたとなると、たしかに、あれだけピント合わせの難しさについて皆が口をそろえるのも無理はないと思います。


まとめると、Planar 85mm F1.4は静物か止まってる人物ならけっこうピント合うよ、でもカメラ側のスクリーン性能には注意してね、今振り返るとAEGが難しかったんじゃないの?ってことで。

雑な終わり方はこの暑さのせいだ! (°言°)